HR Professionals:人事担当者インタビュー

第15回 いい感じのHRプロフェッショナルになるには?

第15回 いい感じのHRプロフェッショナルになるには?

フィリップ モリス ジャパン株式会社 ヒューマンリソース
 鈴木 敬介氏/清野 浩史氏

人事の分野に関わりながら、ビジネスパートナーとなっていくためにはどうしたらいいのか?入社以来、一貫して人事畑に関わりながら、それぞれにユニークなキャリアを積んできたフィリップモリス・ジャパンの鈴木氏と清野氏に、人事としてステップアップしていくために必要なこと、大事にしていることなどについて、お話を伺いました。今回は、特に若手から中堅の人事担当者に読んでいただきたい内容となりました。


鈴木 敬介氏/清野 浩史氏  プロフィール

ヒューマンリソース マネジャーHR、G&A、オペレーションズ & HRサービス
鈴木敬介氏

 1993年P&G入社。採用、給与・福利厚生などを経て、HRシェアードサービス、オフショアセンターの立上げに関わる。P&GがHRのバックオフィスサービスをIBMにアウトソースしたのに伴い、2004年IBMに転籍。IBMにおいて人事及び研修サービスのアウトソース事業に携わる。2009年にアディダス ジャパンに転職し、HRディレクターを務めたのち、2014年4月よりフィリップ モリス ジャパンに移り現職。

ヒューマンリソース MODマネジャー
清野浩史氏

 1995年、オートバックスセブンに入社、本部人事部に所属。2000年にアンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に移り、構造改革やチェンジマネジメントなど、組織・人事分野における戦略系プロジェクトを担当。その後、2003年に三共株式会社に移り、次世代リーダー人材育成、第一製薬との企業統合など、全社的な重要プロジェクトに数多く携わる。2007年に第一三共株式会社が設立されてからは、人事戦略部にてグローバル人事やM&Aに関わるプロジェクトを推進。2009年に米国現地法人に出向、ディレクター グローバル タレントマネジメントの立場で、現地から国際的なプロジェクトをリード。2012年より現職。採用ならびに組織・人材開発を統括。


始まりは、「おまえ、人事受けへんか?人事に向いていると思う」

― まず、お二方のこれまでのビジネスキャリアについて教えていただけますか?

【鈴木氏】
私は、大学卒業後、P&Gに入社しました。P&Gは部門別採用をしており、人事の仕事に就くことが決まっての入社でした。とはいっても、実は、当初は、営業とマーケティング部門での選考に参加していたんです。その選考途中で、人事担当者が、「おまえ、人事受けへんか?人事に向いていると思う」と言うのです。「じゃあお願いします。」ということで人事を受けることになって、結果的に採用が決まった、というのが経緯です。働く会社の条件として、「人と組織が魅力的であること」を重視していました。それと、千葉出身ではあったのですが、「関西で働けること」。P&Gなら関西で働けるし、なにより出会った人たちがとても魅力的でした。当時はバブル期で、超売り手市場だったのですが、多くの企業がOBと食事をしただけであっという間に内定を出していたのに対して、ケーススタディーなどを導入して丁寧に選考をしていた企業だったのも、魅力のひとつでした。

最初は新卒採用業務からスタートしました。部門別採用をしていましたし、既にインターンシップも取り入れていましたから、かなり先進的な採用活動を経験することができたと思います。採用を数年経験したところで、人事での経験の幅を広げるために、もう少しテクニカルな面の人事も学びたいと思い、C&B(Compensation & Benefit/報酬と福利厚生)をやらせてもらうよう希望を出しました。ちょうどその時期に大きな給与制度変更を行い、調査・デザイン・本社との調整・コミュニケーションなど一連の変更プロセスを経験できたことはラッキーでした。

その後、グローバル全体で組織をリオーガナイズしていくという動きが出てきて、HRもだいぶ様子が変わってきました。デイビッド・ウルリッチ氏が提唱するような、「チェンジエージェント」や「アドミニストレーションのエキスパート」といった概念のもとに、HRの組織が再編されていったのです。その流れのひとつとして、シェアードサービスセンターをオフショアで行うという話が出てきました。アジアには当時13のマーケットがあったのですが、そのC&Bやペイロール、外国籍社員の管理と言った専門的なサービスを、マニラに集約するというのです。その中で、給与のサーベイの集約というプロジェクトがあり、半年間、マニラでそのプロジェクトをリードすることになりました。それが、31歳の時です。

そこでは、各国から集まってきたメンバーと、サーベイの手法を考えたり、サラリーレンジ構築、昇給コスト予測ツールなどを作成したりしました。初めての海外勤務、外国人のボス、13マーケットのマネジャーやコンサルタントたちとリモートで話を詰めていくような状況でしたが、半年間、本当に仕事を楽しみ、かつ多くのことを学ぶことができました。

そして、オフショアのシェアードサービスセンターが立ち上がり、その後日本に残った給与計算や福利厚生事務などの仕事は、日本IBMにアウトソースされることに。私はその業務の取りまとめをしていましたので、チームごと、日本IBMに転籍となったのです。P&Gに人事の仕事以外で残るという選択肢もありましたが、チームメンバーだけを送り出すのも責任感が無いと思いましたし、日本IBMという企業に魅力を感じたこともあって、転籍を受け入れました。

転籍から約1年はP&Gへのサービス提供業務をしていましたが、その後、日本IBM本体や子会社、更には他社にアウトソースサービスを提供するといった分野に仕事が拡がっていきました。いわゆる、外部アウトソーサーになった、ということですね。そうした仕事を4年ほどしたあと、やはり事業会社で人事をやりたい、という気持ちが湧いてきました。そして、2009年にドイツ系のスポーツメーカー、アディダスに転職します。

当時はリーマンショックの直後で業績も不振で、人事機能への不信感も高く、従業員の満足度、エンゲージメントがとても低い状態でした。そうした状況をどうにかしたいという当時のHRのディレクターに誘われたのが転職のきっかけです。HR内の離職率も高く、当時人事にいた派遣社員に「よく転職してきましたね。鈴木さんはもの好きですね。」と言われたほどです(笑)。でも、だからこそ最低でも5年はこの会社にいよう、と。そのぐらいやれば、何らかの結果も出るし、人事制度運用にも一貫性を出せるだろうと考えていました。

そうして5年経った頃、ある勉強会で、今の会社を訪問する機会がありました。話を聞いてみると、共通点も多くありましたが、対照的な部分もあることに興味を持ちました。スポーツメーカーの従業員たちは、ブランドに対して魅力を強く感じている社員が多いけれども、会社に対するエンゲージメントが低い。一方、フィリップ モリスは、ブランドや事業内容に惹きつけられて勤務している人は必ずしも多くないのに、会社に対するエンゲージメントが高い。そこに興味を引かれました。そんなに働く場としての環境がいいのであれば、エンプロイヤーブランディングのような観点から組織に貢献するというのもの面白いな、と。で、2014年4月にこちらに転職してきて今に至ります。

人事配属がショックだった新人時代。いつか自分の武器が「人事」に

― 清野さんはいかがですか?

【清野氏】
私は、大学卒業後、オートバックスセブンに入社しました。典型的な日本企業でしたので、ポジション別採用ではありませんでした。私としては、セールスの現場で働きたかったのですが、配属が発表されてみると、人事。正直、人事は魅力を感じていない部署でしたので、ショックでした。常に、「いつ人事から異動できるか」を考えていました。

急成長中で動きが早い会社で、人事の中での自身の役割はどんどん変化していきました。結局、勤めた5年間に、賃金計算、勤怠管理、福利厚生、人事異動、研修、採用、人事制度企画、いわゆる人事の主要業務を幅広く経験することができました。今思えば、この会社で人事の基礎を身につけることができたので、感謝しています。

入社して5年経ったとき、広い世の中における自身の市場価値がふと気になりました。転職活動してみよう、と(笑)。働きながらの転職活動ですから、失うものはありません。チャレンジしてみようと考えて、当時の会社と対極にあるような、外資系の企業にいくつか応募してみました。転職活動を始めてすぐに気付いたのは、「応募する会社に対して自分は何が売れるのか」という視点でした。いつしか、人事が自分の「売り」になっていたのです。事業会社の人事での経験が、コンサルティングに活かせるのではないかと考え、アンダーセンコンサルティング(現、アクセンチュア)に、組織人事分野のコンサルタントとして入社することになりました。

アンダーセンコンサルティングでは、数多くのプロジェクトを経験しました。そこでは、クライアント企業ごとに異なる、様々な人事・組織の課題に触れることができました。また、課題発生のメカニズム、課題解決のフレームワークやアプローチ、といった、思考方法を徹底的に鍛えられたように思います。そこでは3年働きました。

その後、あるご縁から、日系の製薬会社に転職します。伝統的な日本企業で、そもそも中途採用をすることが珍しいという文化でしたから、私はかなり異色な存在。そのためでしょう、プロジェクト的に動かしていく仕事を多数任されました。なかでも、同規模の製薬会社との統合が、一番大きなプロジェクトでした。企業統合後は、新しい会社での人事のグローバル化の推進を担当することに。その流れで、4年ほど、アメリカに駐在しました。そんなとき、ヘッドハンターからの誘いがあったのです。当時はまったく転職など考えていなかったのですが、面接で会う人の質が共通して高く、グローバルで活躍するチャンスも多いにある。「面白そうな会社だな」と、興味を持つようになり、結局2012年にフィリップモリスに転職してきました。

「人事っぽくない」は褒め言葉

― お二方とも、新卒で入社した際には、ご自分から「人事をやりたい」ということではなかったということですが、今振り返ると、人事の仕事に向いていたと感じられますか?

【鈴木氏】
正直、20年以上人事の仕事に携わっていて、未だに向いているのかどうか、わかりません。よく、「鈴木さんって、人事っぽくないですね」と言われるんですよ(笑)。

【清野氏】
私もそう言われることがありますね(笑)。

― 「人事っぽさ」ってどういうことだと思われますか?

【清野氏】
私の日本企業の人事の一般的なイメージは、「検察庁」ですね。現場の取り締まりはしないけれど、後ろで強大な権力を持っている、という感じです。そこから派生するイメージは、保守的で、既成のプロセスを重んじる。ただ、それを全面に出すのではなくて、うまくオブラートに包みながら人とコミュニケーションして、着実に業務をこなしていくという感じでしょうか。それに対しては、私は「ぽく」ないと。

【鈴木氏】
私は、よく、人事担当者が通常まとっているような「権力臭」みたいなものが全く感じられない、と言われます。それから、お付き合いのある人事の方々の中には、会社の近くでは飲みたくないと言う方が少なくないんですが、私はそういう「距離感」のようなものを、自分から設定することはないんです。どんどん他部署の人たちの中に入っていってしまう。そうした面でも、「人事っぽくないね」と言われますね。

― お話をうかがっていると、「人事っぽさ」という評価には、ネガティブな意味合いが入っているようですね。

【鈴木氏】
確かに、「人事っぽくない」と言われることは、褒め言葉として受け止めています(笑)。

― そうは言っても、お二方とも「人事」です。どんな「人事」を目指してこられたのですか?

【鈴木氏】
ひとつは、多くの引き出しを持っている、ということでしょうか。経験・体験の豊富さ。常に新しいことを学ぶ姿勢。ただ、単に量的に多い、ということではなく、それらをある程度普遍化して理解して、新しいケースに向き合った際、判断や決断をする際の基準として活用できるレベルにまで持っていけるか。そんなことを常に意識しています。また、その判断・決断の基準をぶらすことなく仕事を進めていくと、それを見ている部下たちも、「鈴木さんだったら、こういう場面ではこういう判断をする」と、理解していく。そうなると、組織としてのパフォーマンスも上がってくると思います。長年、様々な角度、複数の環境で人事に関わってきた者として、こうした価値を提供していきたいと考えています。

【清野氏】
常に、「ビジネスに対してどんな価値を生み出しているのか」を意識しています。私も、「引き出し」という言葉が常に頭にありますね。自分のこれまでの経験の蓄積が、バックヤードの引き出しにどんどん溜まっていて、目の前に現れる課題に対して、「これとこれを組合せたら、こんな風に解決できるのではないか」と考えていくイメージです。

ただ、それだけだと、イノベーションは起こせないですよね。料理に例えると、冷蔵庫に野菜があって、夕食に参加する人のお腹を満たすことができるというレベルの話。プロフェッショナルと言われるレベルになるには、夕食に参加する人の特長やニーズを把握して、それに応じて提供する食事を変えていくような能力が求められます。人事の仕事に取り組むときにも、仕事のデリバリー先の顧客にフォーカスして、一般的と言われる結論に、どんな価値を足していくことができるのか、常に意識をしています。

「前例がない」「例外」に的確に対応できる原則が身についているか

― お二方の立場としては当然かもしれませんが、ビジネスパートナーとしての視点で考えられていますよね。人事の一担当者から、ビジネスパートナーとして考えるようになった、瞬間・きっかけのようなものはありましたか?

【清野氏】
私の場合は明確にありました。最初の転職でコンサルティングファームに入ったときからです。年齢でいうと、27歳。最初の会社でも、人事制度構築や、人事業務のアウトソーシングのプロジェクトに関わってはいたのですが、高い視点に立って考えるとか、自ら化学反応を起こして、新しい価値を生みだすといった発想は持っていませんでした。

ファームに入って最初の2週間のことは今でも忘れられません。人事の経験が豊富だからと、既に動き出していた本社改革のプロジェクトにアサインされました。しかし、見事に周りについていけない。課題に対する視点の持ち方が、まったくわかりませんでした。初日は頭が真っ白になって、その日の夜はほとんど眠れませんでした。翌日からは、どうにかくらいついて、2週間くらいでなんとかディスカションについていけるようになりました。このとき、現場で起きている現象ばかり見ていてもだめで、課題の根本的原因と解決策は何なのか、角度を変えたり、位置をずらしたり、高さを変えたりと、視野を広げる重要さを、身をもって学びました。また、アウトプットを常に評価される世界ですから、目の前にある事柄よりもその先を見渡したり、ビジネスに対するバリューを強く意識するようになりましたね。

【鈴木氏】
私には清野さんのような、明確なターニングポイントというのは思い浮かばないのですが、まず、P&GでのODカレッジでの経験が基礎になっていると思います。人事に関わる人であれば、担当が何であっても、OD(オーガニゼーション・ディベロップメント/組織開発)に関しての基礎知識を学ばなければなりませんでした。そこでは、P&Gが培ってきた「オーガニゼーション・ディベロップメント・モデル」について学びました。組織というのはどのように見ていくべきなのか、イシューがあった場合、どのようにリフレームしてその本質にたどり着くのか、人事の打ち手をどのようにカルチャーに結び付け、ビヘイビアにつなげてドライブをかけていくのか。一連のサイクルをフレームワークとして捉え、組織開発を実行していくためのモデルが確立されていました。社会に出て早い時期に、ODカレッジを含めP&GでHRとして組織を診断したり打ち手をデザインしたりする際のフレームワークや原則のようなものを教えてもらったことが、今とても役に立っていると感じています。

「何だかんだいって、この人事の中でおまえのチームが一番よく笑うねん」

― これまでに、印象に残っている人事の上司・先輩はいらっしゃいますか?

【鈴木氏】
まずは、最初の上司ですね。入社当時、英語ができなかった私を、徹底的に指導してくださいました。私がドラフトした英文の資料やレターすべてに丁寧に目を通し、赤ペンで真っ赤にして戻してくれたのです。論理構成、内容、そして英単語やグラマーなど、徹底的に修正されましたから、戻ってきたときにはまったく原形をとどめてない状態。これは本当に勉強になりましたし、それを続けてくれた上司には感謝しても感謝しきれません。

もう一人は、P&Gの1年上の先輩ですね。P&Gに入社して、文系新卒採用担当に配属されました。先ほど、私に「人事に向いている」と誘った先輩が責任者だったのですが、彼は医者になるために8月に退職してしまったのです。引き継ぎに時間が取れないまま、1年目の新卒がひとりで一エリアを責任者として担当することになって、かなり追いつめられた気持ちで、どうにか日々を送っていました。そんなとき、1年上で、理系採用を担当していた女性の先輩と、ふたりでモスバーガーで夜食を食べていたとき、 「敬ちゃん(鈴木さんのこと)、一緒に考えたったるからな。一緒にやろう」って言ってくれたんです。それまで大きな失敗をしたこともなく、自分から人に頼るという経験も少なく、「できない自分」を認めたこともなかったのですが、弱い自分を見せてもいいんだ、必要だったら人に助けを求めていいんだ、ということを教えてもらいました。

あと一人は、IBMに転籍するか否かで悩んでいたときに声をかけてくれた、2年上の先輩。部下だけを転籍させて、自分が残るというのは道義的にどうなのかとか、でも、ここで転籍したら自分のキャリアはどうなるのかとか、とにかく悶々と悩んでいました。そんなとき、その人が、「いや敬介、何だかんだいって、この人事の中でおまえのチームが一番よく笑ってんねん。ええチームやで。」って言ってくれたんです。その言葉を聞いて、ああ、組織を測るときってハード面だけではなくソフト面を見るというのも大事だな、と改めて気づかせてもらいました。もちろん、自分がそうしたことに貢献できていることを指摘してもらえて、自分もまだまだ捨てたものではないと背中を押してもらった、というのもあります。

敢えて、ロールモデルは持たない

― そうした方々は、鈴木さんにとってのロールモデルになっているのですか?

【鈴木氏】
「ロールモデル」は持ったことがないですね。必要だと感じたこともありません。確かにすごいと思う面を持っている人は沢山いますが、「この人」と固めてしまうと、死ぬまで「あるべき姿」を探し続けることになってしまうような気がするんです。この世にまったく同じ人というのは存在しませんからね。それはかえって、個人個人の可能性を狭めてしまうのでは、と考えています。

【清野氏】
私もロールモデルを求めたことはないですね。仮に人間の形を二次元に描くとすれば、でこぼこがありまよね。その形を、別の人の形に当てはめようとしたところで、当てはまるわけがない。また、その面積というのは、多分人間のキャパシティで定義されていると思っているんです。ですから、無理に形を変えようとすると、補正をするために、どこかを削ってしまう、といったことが起こるはずです。その瞬間から、その人らしさが失われてしまうのではないでしょうか。ロールモデルを持って、それを目指すというのは、こうしたことになってしまうリスクがあるように思うんです。

【鈴木氏】
逆に、「ロールモデルがないと、成長できへんのか?」と聞きたくなります(笑)。

大事なのは、「好奇心」「インテグリティ」「コモンセンス」

― 人事として成果を上げていくためには、どんなことが重要だと思われますか?

【鈴木氏】
まずは、「好奇心」ですね。先ほど、「引き出し」の話をしましたが、好奇心があると、引き出しの数も種類もどんどん増えていきます。

【清野氏】
私も「好奇心」は大事だと思います。特に、人事に長くいると、好奇心を失ってしまう危険性があると思いますし。人事業務には専門性が求められますから、自分の得意なドメインに留まってしまって、そこから出てこない人が少なくないように感じます。自分のコンフォートゾーンから出るのにはエネルギーがいりますからね。

【鈴木氏】
好奇心を持てと言っても、物理的にどんどん社外に出ろ、ということだけではないんです。社内にも、よく知らない部署に話したこともない人が沢山いるはずです。そういう人たちに興味を持って、話をする。それも重要なことです。そうして接した人が増えていって、ひとつひとつドットだった人や情報がつながっていけば、仕事でも新しい面が見えてくると思います。

それから、「インテグリティ」。正しいことを正しくする、ということです。例えば会社のお金。経費精算ひとつするにしても、会社あるいは株主のお金を資するに値するものなのかどうか、金額の多少にかかわらず、そうした価値基準で判断し、行動できるか。これは、人事として仕事をするためには、実はとても重要なことです。社員のキャリアに関わる人事は、少なくとも、高潔さや誠実さが伝わらないと人はついてきてくれません。そして、これはキャリアの初期に身につけないとなかなか変えられないところではあります。

【清野氏】
それに加えて、「コモンセンス」も大事だと思います。キャリアのラダーを上がって、責任範囲が広がっていくと、現場で起こるひとつひとつの事象すべてに精通することは難しくなっていきます。何かの問題に直面したとき、何に照らして判断するのかと言えば、ビジネスパーソンとして、人間としてのコモンセンスがしっかりと身に就いているかが、重要になると感じています。

【鈴木氏】
そうですね。その辺がしっかりしていないと、小手先だけの人事になってしまう。要は、スキルとか知識とかは持っているけれど、魂がこもっていないということなってしまうでしょう。

― 最後に、20代後半から30代前半の、若手人事担当者に、メッセージをいただけますか?

【清野氏】
やはり、視野を広くもってほしいですね。それくらいのステージの方々は、既に何年かの社会人経験があって、自分の柱のようなものが醸成されつつあるところだと思います。その時点で、「自分が今見えている世界」だけに閉じてしまうと、多分面白くない成長しかできなくなる気がするんです。まずは、これまで見てきてこなかったような分野に目を向けることをお勧めします。

更に、これからは待った無しで、「グローバル」を意識する必要があるでしょう。どんなかたちでもいいので、日本の外に出て、まったく異なる外の世界から、自分の仕事や将来、広くは日本を考えるという機会を持ってみてください。日本という、比較的過保護な社会に身を置いたままにせず、一定期間そこを飛び出して、自分を晒して生活してみるという環境を意図的に作ってみると、これまでには想像しなかったような発見があるはずです。自分が「当たり前」と思っていたことが、実は既に社会や文化の影響を強く受けていること、グローバルの競争の中では足枷になるリスクがあることに気付くでしょう。

【鈴木氏】
私は若い人たちに、T字型人材になれ、と言っています。まず、ひとつの分野で、自分の会社だけではなく、外でもマーケタブルなレベルにまで専門性を磨く。それがあれば自信が持てますし、高い専門性があれば一目置かれます。ビジネスパートナーになるためにも、ひとつ秀でたものがあることは重要です。

そうした土台の上で、広い視野をもって、人事の分野に限らず、貪欲に知識や経験を増やしていってほしいですね。それができてくると、いい感じのHRプロフェッショナルになっていけるのではないでしょうか。

― 本日はどうもありがとうございました。



取材・文 大島由起子(当研究室管理人)/取材協力:楠田祐(中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授)

(2014年11月)

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