経営者に聞く

第3回 自分事として仕事に取り組み、どこよりも成長できる組織を作りたい

第3回 自分事として仕事に取り組み、どこよりも成長できる組織を作りたい

株式会社リブセンス 代表取締役社長 村上太一氏

2006年、大学在学中に起業し、2011年には最年少で東証マザーズに上場、2012年には東証第一部に市場変更を果たした村上太一社長。事業を拡大するなかで、会社の平均年齢は自らの年齢よりも上になっているといいます。そんな組織をどのようにマネジメントし、更なる成長を目指すのか。お話を伺いました。
株式会社リブセンス


村上太一氏  プロフィール

株式会社リブセンス 代表取締役社長
早稲田大学高等学院在学中から起業のための準備を開始。2005年4月、早稲田大学政治経済学部経済学科に入学し、1年生在学時に同大学の「ベンチャー起業家養成基礎講座」が実施したビジネスプランコンテストで優勝する。2006年2月に株式会社リブセンスを設立し、同年4月よりアルバイト情報を掲載するウェブサイト 『ジョブセンス』を開設。2011年11月1日には東証マザーズより上場承認を得、同年12月7日に上場。2012年10月には、東京証券取引所市場第一部へ市場変更する。東証マザーズ上場時の年齢は25歳1か月であり、自社の株式を公開した者として史上最年少となった。


ロゴにもオフィスにも、「あらゆるものに意志を持つ」ことにこだわる

― リブセンスの経営理念は「幸せから生まれる幸せ」だということですが、その意味を教えてください。

そもそも、リブセンス(Livesense)という社名は、「生きる意味」という言葉を基にしています。では「生きる意味」とは何か、といえば、それは「幸せになること」だと思うのです。私たちのサービスを通じて、お客様に幸せになっていただく、サービスの提供者である私たち自身は、お客様が幸せになることで幸せになる。それを簡潔にまとめたのが、「幸せから生まれる幸せ」という経営理念です。このことが働くモチベーションとなる会社でありたいと考えています。

― 起業された当初から、その経営理念を掲げていらっしゃったのですか?

いいえ、創業当初は、「Enjoy Hard Work」と、今考えると経営理念ではなくて行動指針のようなことを言っていました。ただ、創業から1年ほど経った頃、大きな壁にぶつかり、大変苦しい思いをした時期がありました。その時、「何でこのビジネスをやりたいのか?」という根本的な理由がないと前に進むのが難しいと感じて、改めて自分に問い直しました。いろいろ考えていくなかで、「周りの人に喜んでもらえるのは、純粋に嬉しい」ということに気がついたのです。振り返ってみれば、私がこれまでの人生で何かをするときのモチベーションは、周りの人に喜んでもらうことだった、と。それを、「幸せから生まれる幸せ」という表現にして、経営理念としてまとめました。

― そして、ビジョンとして「あたりまえを、発明しよう」が掲げられています。

「幸せから生まれる幸せ」というのは、抽象度が高いので、頭で理解できても実際の行動と結びつきにくいだろうと思い、経営理念の一つ下のレイヤーを考えることにしました。そこで出てきたのが、「文化となるウェブサービスを、つくる。」ということでした。それを2013年2月にアップグレードしたのが、「あたりまえを、発明しよう」です。これには、新しい物の見方・行動の仕方で、世の中に新たな常識として定着するサービスを開発するという、リブセンスの意志を表現しています。

同じタイミングで、ロゴやオフィスも一新しました。その時に意識したのは、「あらゆるものに意志を持て」ということでした。

― 「あらゆるものに意志を持て」ですか。

自分たちが理想とする組織というのは、社員ひとりひとりの「理念やビジョンを実現したい」という意志が集結して、はじめて作り上げることができると考えています。ですから、理念やビジョン実現の意志を、手がけるものすべてに反映させることにこだわっているのです。

まず、ロゴですが、「?」(はてな)と「しずく」の2つのイメージを合わせて作りました。「?」は、常に常識に疑問を持って、自問自答を繰り返す姿勢を表現しています。「しずく」は、「雨だれ石を穿つ」の「雨だれ」です。あたりまえを創り出し、それを世の中に浸透させていくためには、日々の徹底した努力が必要である、ということを「雨だれ=しずく」で表現しました。オフィスのエントランスにオブジェを置きましたが、こちらも「雨だれ石を穿つ」をイメージしたものになっています。

― なるほど、理念やビジョンの浸透には力を入れていらっしゃるのですね。

中途で入社した人たち向けに、「リブセンスの歴史を語る会」を開催しています。会社がどのような思想で生まれ、どんな壁にぶつかって、どのようにそれを乗り越えてきたのかということを知ってもらうことで、まずは会社を知り、会社を好きになってもらいたいと思っています。そして、また今年から新入社員に、経営理念やビジョンをわかりやすくまとめた冊子を配布するという取り組みもはじめました。まだまだ日々試行錯誤しているところです。

利他的な発想で動き、それを楽しめる「Y字型人材」を求める

― 入社のお話がでましたが、採用ではどのような点をご覧になっているのですか?

基本的に「あたりまえ」をつくっていくことにドキドキするタイプかどうか、ですね。

― どのように見極められるのですか?

正直、見極めるのは簡単ではありません。ただ、先ほどお話したように、「あたりまえを、発明しよう」の大元は、「幸せから生まれる幸せ」です。ですから、まず利他的な発想で動き、それを楽しめる人なのかを見ていますね。総じて、「表現をする人」の中に多い感覚があります。例えば、音楽をやっているとか。何かを表現する人たちっていうのは、周りに良い影響を与えたい、という発想や欲求がどこかにあるからかもしれません。

入社後目指してほしい人材像としては、「Y字型人材」と表現しています。相反するものが同居している人や組織は強いと考えているからです。例えば、「挑戦と継続」とか、「発信と傾聴」とか。その時々でどちらかに軸足を置く必要がある場合もあるでしょうが、総体として、そうした人材・組織になっていこうというメッセージを伝えています。

― 現在、社員規模が250人規模ということですが、今後もどんどん拡大していく方向ですか?

はい、事業の影響力を大きくしていきたいと考えています。ただ、やみくもに組織を大きくすればいいとも考えていません。これから成長していくために重要なのは、社員ひとりひとりが、どれだけ仕事に熱狂できているかでしょう。イトーヨーカドーの名誉会長である伊藤氏にお会いしたとき、「大きい会社を作るにはどうしたらいいですか?」と伺いました。そこでいただいた答えが「フランチャイズだ。何故なら、人は『自分事』になった瞬間に、モチベーションの高さが変わる。雇われて店長をするのと、フランチャイズのオーナーになって店長をするのでは、働きが10倍違う。」でした。たしかに、私自身も、以前から、一人一人が熱狂している状態をつくることが大事だと感じていました。

あたりまえを発見していける組織づくりを考えたとき、最初から「あたりまえを発見する」という概念自体に、皆が熱狂するには無理があるだろうと思います。まずは、自分事として事業に熱中して取り組んでいく。その先に、「あたりまえ」が生まれてくる、そのプロセスに更に熱中していく、という流れの方が、イメージが湧きやすいし、人の心理や行動として自然です。

例えば、「転職会議」のサービスだったら、「ミスマッチをなくして、適切な雇用のマッチングの仕組みを作れば、GDPが3%は上がるんじゃない?」「それって、すごくない?」ということに対する熱狂があって、それを徹底的に追求した先に、それが「あたりまえ」という状況ができていく、という流れです。

そのためには、小規模組織が沢山ある、という状態がいいだろうと考えています。イメージとしては30人規模くらい。大きくても100人くらいでしょうか。

― ただ、そうなると、多くの人に権限移譲していくということになりますね。

はい、そこがキーになってきます。組織を引っ張っていく人材を育てていくために、「村上塾」を開催しています。

現在「村上塾」は週1回開催しています。「塾」とは言っていますが、私が一方的にレクチャーするという形ではなく、毎回テーマを設けて皆で調べ、それを基に意見交換をして、お互いに刺激し合う場にしています。例えば、ウェブサイトのコンバージョンが上手くいっている事例を徹底的に調べて、その理由について話し合う。私は、それに対して付随した知識を提供していく、といった感じです。

その他には、「ニュース読み合わせ」をやっています。以前は自分で毎日、2000タイトルを超えるニュースの見出しをチェックしていたのですが、なかなか時間が取れなくなってきた。そこで、ひとりの社員に、私がチェックしている情報ソースから興味深いものをピックアップしてもらい、毎週1回共有するようにしました。その後、担当者が育ってきたところで、次の人に渡していくということで、仕組み化していこうとしているところです。

自分と外部の認識のギャップに向き合うことが、成長につながる

― そうした中から、小組織をひっぱっていくリーダーが生まれてくるということですね。

最近、どこよりも人が成長できる組織を作りたい、という気持ちが強くなっています。そのためには、しかるべき「場」を作り、権限と責任をしっかり渡していくことが大事です。他の会社だったら普通の会社員で終わってしまうところを、リブセンスに入れば、社長やコアメンバーとしてビジネスに挑戦ができて、結果、成長できる。うまくいけば適切なインセンティブを得ることができる。そんな組織にしていきたいと考えています。

また、人が成長していくためには、権限と責任を持つことと同時に、自分の行動に対するフィードバックの質と量が大事です。そこで、今年からマネジャーに対するサーベイと、会社に対するサーベイを開始しました。サーベイを通じて、自分の認識と外部の認識のギャップを明らかにしたいと考えたのです。そこで生まれたギャップと向き合って、葛藤や疑問を感じることが、成長につながります。

メンバー間だけでフィードバックを行っていると、どうしても、摩擦を避けて平和に過ごしたいという意識から逃れられません。そうした環境で受けるフィードバックだけでは不十分ですし、会社がめざすべき方向と必ずしも合っているとは限らない。そこで敢えて、サーベイという方法を採用しました。

会社を強くしていくためには、社員に「自分の力を何割出せていますか?」と聞いたとき、10割と答えられる人をどれくらい作れるか、だと思うんです。全員が10は難しいにしても、2とか3と言っている人をどれだけ限りなくゼロに近づけられるか。そんなことを意識していますし、人事にはそうしたことを目指して欲しいと思っています。

― これまでは人・組織の話を中心に伺いましたが、ビジネスの面で、村上社長が力を入れていることについて教えてください。

現在取り組んでいることのひとつがグローバル化です。2014年8月には、北米にも拠点を出しました。週末の朝は北米のメンバーと電話会議をしています。日本国内にこだわらず、「あたりまえ」を創っていきたいと思います。

― 本日はどうもありがとうございました。



取材・文 大島由起子(当研究室管理人)/取材協力:楠田祐氏(中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授)

(2013年9月)

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