経営者に聞く

第6回 失敗するのは当たり前。並々ならぬ熱意をもって、元気に暴走せよ

第6回 失敗するのは当たり前。並々ならぬ熱意をもって、元気に暴走せよ

株式会社バンダイナムコホールディングス 
代表取締役会長 石川祝男氏

今回は、数多くのヒット商品を生み出し続けているバンダイナムコホールディングスの石川会長に、大ヒット商品を生み出すために必要なものについて伺いました。これまでの常識を超えるものを生み出すのは、才能でも能力でもない、というのが石川会長の持論です。「太鼓の達人」の誕生ストーリーや、統合後のシナジーの生み出し方など、経験に基づいたお話を伺うことができました。


石川祝男氏  プロフィール


1955年山口県生まれ。関西大学文学部卒。
1978年旧ナムコ(現バンダイナムコエンターテインメント)に入社。
1989年に企画・開発した「ワニワニパニック」が大ヒットし、ロングセラー商品となる。また、エクゼクティブ・プロデューサーとして担当した「アイドルマスター」も大ヒット、アイドルコンテンツの人気の火付け役となる。

2005年副社長を経て、2006年、ナムコとバンダイの経営統合で誕生したゲーム事業部門会社、
バンダイナムコゲームス(現バンダイナムコエンターテインメント)社長。
2009年にバンダイナムコホールディングス代表取締役社長に就任。
2015年よりバンダイナムコホールディングス代表取締役会長に就任、現在に至る。

著書に、『大ヒット連発のバンダイナムコが大切にしているたった1つの考え方』サンマーク出版(2016年10月)


ヒット商品は、熱意さえあれば、誰にでも生み出せる可能性がある

― ゲーム・玩具のビジネスでは、ヒット商品を生み出していくことが、大変重要だと思います。ヒット商品を生みだすためには、どのような才能・能力が求められるのでしょうか?

ヒット商品は、一人の才能によって生み出されるものではないと考えています。大ヒットを生み出すために一番大事なことは、実は、「熱意」なのです。熱い思い、並々ならぬ熱意を持つことは、誰にでも可能です。つまり、ヒット商品は誰にでも生み出だせる可能性がある、ということです。

逆に、出してくるアイディアがどんなに良くても、その人から「これを商品にしたい」という熱意を感じることができなければ、決してうまくいきません。ですから、担当者から提案が出てきたときは、何度かダメ出しして突き返してみます。それでどこまで食いついてこられるか。ほんの少しの反対で引き下がる程度の思い入れでは、ヒット商品を生み出すことはできません。

― 何故、そこまで「熱意」「思い入れ」が大事なのでしょうか?

ひとつの商品を世に送り出すまでには、多くの人が関わります。また、完成までには多くの困難が待ち受けています。関わる人たちが、困難を前にしてもゴールを共有し続けて、ひとつのかたまりとしてパワーを発揮していくためには、提案をした人の熱意が伝播していくことがとても重要になります。「思いの連鎖」が起こり、一人の熱が周りの人に伝わっていき、共感の輪が広がり、賛同者が増えていく。そのことで、商品化していく推進力が加速度的に増大していきます。私はこれを、「人を巻き込む力」と言っています。もちろん、アイディア自体が最低限の水準を超えていることが前提ではありますが、どんなにアイディアが高い水準でも、人を巻き込む力を生み出すほどの熱意がなければ、成功するのは難しいということです。

大ヒット商品は、「少数派」からしか生まれない。それを支えるのは並々ならぬ熱意

― ただ、人が思いつかないアイディアを生み出すような人材は、往々にして変わった人が多いような気がします。いくら熱意があっても、なかなか理解されない、という状況にはならないのでしょうか?

確かに、業界の歴史に残るような大ヒット商品は、「少数派」から生まれています。その始まりを紐解いてみれば、10人中7人以上が反対していた、といった状況がほとんどです。大ヒット商品の力の源は、それまでの常識を覆してしまうような破壊力と非連続性です。ですから、すぐに大多数の賛成を簡単に得られるような「多数派」から生まれるものではありません。

多くの人から反対されているものを形にしていくためのエネルギーがまさに、「熱意」です。ただ、生半可な熱意ではなかなか理解されないでしょう。多数派に迎合することなく、少数派であることを貫き通して、周りを巻き込んでいくためには、地味で地道な努力の継続が必要です。それを支え続けるのが、「並々ならぬ」熱意なのです。中途半端な覚悟では賛同者は増えないし、推進力を生みだすこともできません。

弊社の大ヒット商品に、「太鼓の達人」というゲーム機があります。あのゲームは若手社員が提案をしたのですがなかなか正式な商品化が決まりませんでした。しかし彼は諦めずに、自分のアイディアを温め、試作品まで制作していたのです。そして、当時ゲーム開発の責任者であった私に、「一度試してみてください」と声をかけてきました。やってみるとこれが面白かった。「なぜ、商品化しないの?」と聞くと、「上司から許可が下りないんです」と言う。「でも、どうしても作りたくて、こっそりやってみました」と。そこで、「わかった。ここからは俺が指示するから進めなさい」と、その場で担当部長に電話をして、正式な試作品を作ることになりました。

― こっそり試作品を作り、石川さんに直談判するだけの熱意をその担当者が持っていなかったら、「太鼓の達人」は世に送り出されなかったわけですね。

その通りです。試作品を作った後も、スムーズに進んでわけではありません。正式な販売にあたって、営業部から大反対があったのです。そのころ、楽器系のゲームが何タイトルか失敗していたので、「また楽器系を出されても困る」というのが理由でした。でも、私は「これは行ける」と確信していました。それまでうまくいかなかった楽器系のゲームは、どんどん複雑になる傾向があって、分かりにくいものが多かった。それに対して、「太鼓の達人」は、非常にシンプルで単純に楽しめるものだったからです。営業サイドの懸念も理解はできましたが、自分が信じたものを簡単に諦めるわけにはいきません。100台でもいいから作ってみて、実際に反応をテストしてみてほしいと、根気よく交渉し続けました。

「上司がわかってくれない」とおもったら、自分の熱意を問うてみるといい

― それこそ、「熱意」ですね。

はい。担当者の熱意が私に伝播したといえるでしょう。とにかく一回、試験的にゲームセンターに置いてもらうところまでこぎつけました。すると、思った通り、お客様の反応が良かった。そこでやっと、300台作らせてもらえることになったのです。そうして市場に出してみると、300台はあっという間に売り切れてしまいました。結局、出荷は大きく伸び、家庭用ゲームソフトなどとしても商品化され、大ヒット商品となっていきました。

今、「良いアイディアなのに、上司がわかってくれない。自分の企画を取り上げてくれない」と悶々と不満を抱えているとしたら、アイディアの良し悪しだけではなく、自分がそのアイディアをどうしても実現したいという強い気持ちを持っているのか、問うてみるといいでしょう。ヒットが生み出せないのは、アイディアが不足している以上に、商品化までの泥臭い、地味で地道なプロセスをくぐり抜けていく情熱や執念が不足していることの方が大きな原因になっていることが多いのです。

― しかし、周りになかなか認めてもらえないアイディアを、熱意・執念を持って進めていったにもかかわらず、結局陽の目をみないとか、失敗してしまったとしたら、批判の矢面に立たってしまうと、萎縮してしまう気持ちが生まれそうです。

誰でも、失敗をすることなく、成功をし続けることはありません。私自身、ゲームの開発に携わる中で、山ほど失敗をしています。成功と言えるのは、正直3割くらいだと思います。3割が成功、4割がそこそこ、失敗とまではいかないけれど、成功でもない。残りの3割は損を出してしまった失敗、というくらいの割合です。失敗を続けても、そこから学ぼうという謙虚さを持ち続けている限り、失敗は成功の最大の糧になっていきます。

逆に、失敗を避けようとするあまり、行動をしないことが一番避けなければいけないことです。弊社社長の田口の言葉を借りれば、打席に立っているのに「バットを振らないのが一番の悪」。見逃しをするよりも、思い切って空振りする方がよっぽどマシ、いうことです。

私自身、今でも後悔していることがあります。それは、「やらなかった」ことへの後悔です。今では当たり前になっていますが、発売当初のダンスゲームは画期的で衝撃的でした。そして、ゲーム界に新しいジャンルを生みだしました。しかし、その先鞭をつけたのは、悔しいことに他社のゲームでした。実は、ダンスゲームのアイディアは、同時期に弊社の中にもあったのです。しかし、「日本人が人前で踊るなんで、恥ずかしくて誰もやらないだろう」「筐体が大きく、場所を取るので受け入れられないだろう」という理由から却下されていて、他社の後塵を拝すことになってしまいました。その後、太鼓の達人という大ヒット作を生み出しましたが、それでも、今でも悔しい思いは残っています。

ですから、担当者たちには、周りに反対されるかどうかを先読みしてブレーキをかけるな、と。上司たちには、常識的な判断から失敗を恐れて、部下の熱意を簡単につぶすな、と言い続けています。

個人・個社の個性を尊重。どんどん越境して、「元気に暴走せよ」

― バンダイナムコは、文字通り、バンダイとナムコが2005年に統合をし、バンダイナムコホールディングスとなりました。この統合で、どのようにシナジーを生み出していったのでしょうか?

私が社長に就任した2009年には300億円も当期赤字を出しており、決して順風満帆のスタートではありませんでした。ホールディングス傘下には、大小含めて70社程度の事業会社がありました。統合当初は、「せっかく統合したのだから、ひとつの『バンダイナムコ』を作ろう」という意識が強かった。様々な仕事の仕方や進め方について、それこそ稟議書の書き方に至るまで、ひとつのルールでまとめようとしたのです。それを強引に進めるあまり、各社のとがった強みが弱まっていって、みんな角が取れて丸くなっていきました。加えて、グループとしての数字を作るというプレッシャーもあり、これまでのヒット作のシリーズものが多く出てくるようになってしまった。しかも、ルールは共通になって「領土」は大きくなったものの、意識の「国境」は以前のまま残っていました。これはバンダイの仕事、こちらはナムコの分野と、お互いに「遠慮」をしてしまって、決して領域侵犯をしない。そんな風に、面白いものや、画期的なものを生み出すことができない会社になっていっていることに気がつき、強い危機感を持ちました。

そこで、就任直後から、誰にも遠慮などせず、どんどん越境して、「元気よく暴走せよ」という檄を飛ばすことにしました。同時に、「バンダイナムコ」として一つにまとまることよりも、まずは個に焦点を当てることを重視しました。事業会社はそれぞれ個性があっていい。「夢・遊び・感動にかけては世界ナンバーワンのエンターテイメント企業になる」という目標を共有できてさえいれば、権限と責任を渡すから、自分たちのやりたこと、好きなことを、自分たちの責任でしっかりやりなさい。それぞれに個性のある70の会社の集合体がバンダイナムコなんだ、という方針に、大きく舵を切ったのです。実際そのようにしてから、新たなヒット商品が生まれるにようになりました。そしてグループの強みを最も活かせる「IP(知的財産)軸戦略」を展開して、業績が一気に回復し、今に至っています。

各事業会社の社員が楽しく健康に働きながら、成果を出していく「働き方改革」を

― これまで伺ってきた、「熱意」「元気よく暴走」というと、どうしても若者のイメージがあります。その中で、高齢社員の方々はどのような働き方をされているのでしょうか?

「おやじプロジェクト」のお話をしましょう。

― 「おやじプロジェクト」ですか?

弊社グループ会社の多くは55歳役職定年制を採っています。しかし、55歳の中には、まだまだ現役で成果を挙げられる人材が少なくありません。そういう人たちが、後輩の育成だけをやっているのはもったいない。そこで、開発者を何人か集めて、自分たちで考えた開発プロジェクトを立ち上げるよう、場を提供しました。彼らはそこで、海外向けのゲーム機を開発して世に送り出しました。その商品は、今でも現役商品として売り上げに貢献してくれています。

そのプロジェクトは発展的に解散して、現在は新横浜にバンダイナムコテクニカという会社を設立。役職定年を迎えた開発者を中心に、商品開発をしてもらっています。転籍により給与体系は変わりますが、成果を出せば給与に反映する仕組みを整えています。皆、基礎的な力と豊富な経験がありますから、価値ある商品を生み出してくれています。例えば、ロケーションでの集金をサポートする集金ワゴンなどが、一例です。現場で苦労を知っていますから、的を得たアウトプットが出てきます。

実際に、「最先端のゲームを作ることはできないかもしれないけれど、ゲーム機やゲームセンターをサポートする、ゲームセンターの従業員さんを楽にするマシンなら、まだまだ作れる」と言って取り組んでくれているようです。ある元研究部長などは、自ら志願して、修理部で実際にはんだごてを持ってゲーム機の修理をしています。それがとても楽しいと。私自身も、ゲームの企画を諦めていません。先日も、実際にゲームの提案をしました。残念ながら却下されてしまいましたが(笑)。個々人が仕事を楽しむことができれば、年齢に関わらず、何かを生み出していくことができると思います。

― 最後に、人事に関わる人に、経営者の立場から一言お願いします。

今、「働き方改革」を進めることが急務です。ただ、一般的なものを杓子定規に取り入れるのではなく、我々ならではの「働き方改革」に取り組んでほしい。「あれもダメ、これもダメ」というのではなく、また、グループ全体で画一的に考えるのではなく、各事業会社の社員が楽しく健康に働きながら、成果を出していくのにはどうしたらいいのか。真剣に考えて、実行していってほしいと思っています。

― 本日はどうもありがとうございました。


取材・文 大島由起子(当研究室管理人)/楠田祐(HRエグゼクティブコンソーシアム 代表)
(2017年4月)
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