HR Professionals:人事担当者インタビュー

第13回 ベテラン社員の経験とノウハウを継承し、プロパー社員から経営層を輩出していくのが課題。

第13回 ベテラン社員の経験とノウハウを継承し、プロパー社員から経営層を輩出していくのが課題。

首都圏新都市鉄道株式会社 総務部長 木元 増蔵 氏

2005年8月に開業した「つくばエクスプレス」。関東地方の主要幹線の中では最も歴史が浅いこの鉄道路線を運営するのが、首都圏新都市鉄道株式会社です。「つくばエクスプレス」は来年、開業から10年目を迎えます。今回は、総務部長の木元氏に、会社の立ち上げから今までを、人事という視点からお話いただきました。


木元 増蔵 氏  プロフィール

日本大学法学部卒業。2005年4月総務部審議役兼務経理部審議役として入社。その後、総務部審議役兼務経営企画部長臨時代行等を歴任し、2007年4月から総務部長に就任して現在に至る。


地方公共団体や他の鉄道会社からの出向者、若いプロパー社員の混成部隊でのスタート

― まず、首都圏新都市鉄道株式会社のスタート時の状況について教えていただけますか?

首都圏新都市鉄道株式会社は、平成3年(1991年)に「つくばエクスプレス」を建設することを目的として、沿線自治体と民間企業が出資する第三セクター方式で設立された会社です。開業時の社員は30余名。国や地方公共団体などからの出向者で構成されていました。

― 最初にプロパー社員を採用されたのはいつですか??

採用を本格的に開始したのは平成16年(2004年)のことです。全社で50余名を採用しました。開業の年である平成17年(2005年)には110名。開業直前に、一気にプロパー社員を増やしました。

― 開業時、プロパー以外の社員は、国や地方公共団体からの出向者の方々だったのですか?

いえ、開業直後には、他の鉄道会社からの出向社員が全体の3割を占めていました。ですから、会社設立時からの社員、国内の鉄道各社からの出向社員、そしてプロパー社員と、かなりの混成部隊でスタートしたことになります。

鉄道各社から出向してきた社員はベテランぞろい。彼らが培ってきた知識や経験、ノウハウを、若手プロパー社員に伝授してもらう、というのがスタート当時でした。

― 他の鉄道会社からの転職も多かったのでしょうか。

実は、当時も現在も、鉄道会社に在籍したままでの応募は受け付けておりません。実践で通用するまでに育ててきた人材を、スパっと引きぬいてしまうことは、お手伝いただいた各社様との信頼関係に関わりますので。以前に鉄道会社に勤めていた、という方までは不可とはしていませんが、現役の方を中途採用することは基本的にありません。

― いろいろな鉄道会社のベテランの方々が集まっているとなると、組織運営上、気を使われることもあったのではないでしょうか?

鉄道というのは、皆様の命をお預かりする仕事ですから、安全が第一です。この点は、所属する会社が異なっても共通した価値観ですから、目指す方向がバラバラになってしまうという心配はあまりしていませんでした。ただ、例えば各駅では、毎朝始業点検を行っています。最終的に点検する事項は共通ですが、その順番ややり方は各社で少しずつ異なっています。また各社とも長い歴史がありますので、それぞれ確固とした文化を持っておられます。こうした微妙な違いを整理しながら、「つくばエクスプレス」の文化やプロセスをまとめていく、という必要はありました。

関東圏でこれだけの規模の鉄道立ち上げは当分起らない。

― 「混成部隊」がまとまっていった大きな要因は何だったとお考えですか?

2004年、2005年の入社式を迎えたとき、「本当に、こんな大勢の若手社員が入社してきて、鉄道会社としてちゃんとやっていけるのだろうか?」と、不安な気持ちがよぎらなかったかと言えば嘘になります。

しかし、関東圏でこれだけの規模の鉄道をゼロから立ちあげるということは、おそらく、当分は考えられません。そんな大きな機会を成功に導くのだという意識を、皆が自然に共有できていたのだと思います。また、毎年プロパー社員を採用しているので、若手同士の横のつながりが強いというのも、組織のまとまりに寄与しているように感じています。

― 開業から約10年が経ちましたが、出向社員の方々はまだいらっしゃるのですか?

一部当社への転籍をした者もいますが、ほとんどが出向元の会社や組織に戻られました。今は約30数名がいますが、現在の社員数は約670名ですから、95%以上がプロパーで採用した人たちということになります。平成16年(2004年)に新入社員として採用した社員たちが、現在30代半ばであり、ちょうど中堅社員として会社をひっぱっていくようになってきています。

このように、開業から約10年で社員の出身や年齢構成が変化してきましたので、社員の意識もそれらに応じて変化してきていると感じています。ですから、現在、社員の意識を理解するためにアンケートを実施しています。そうした情報を基に、次の10年に向けて様々な制度や施策を考えていく予定にしています。

― 年齢構成は現在、どのようになっているのですか?

50歳代後半の層がやや薄く、40歳代後半から30歳代後半の層はバランスのとれた構成ですが、30歳代前半以下は年齢によってはややバラツキのある年齢構成になっているかなと感じています。平均年齢は、32〜33歳くらいです。

ベテラン社員が定年となるまでに、技術や蓄積してきた経験・ノウハウの継承をしっかりやりきる

― これはかなり若いですね。

はい。若い世代にとっては、上がつかえていませんから、いろいろな仕事も経験できるし、キャリアプランも幅を持って描けるよい状態だと思っています。ただ、課題は、技術や蓄積してきた経年・ノウハウの継承です。現在50代後半の、多くの経験や技術、ノウハウをもった社員が会社を去るのは時間の問題です。その前に、それらを若手にどれだけしっかりと継承していくことができるか。一朝一夕にできることではありませんので、現在の大きな課題であり、まさに挑戦をしているところです。

また、中堅社員として育ってきたプロパー社員たちを、しっかりと経営幹部に育てていくことも我々の課題です。

― 女性の活躍はいかがですか?

現在、女性社員は30名ほどおります。決して多い数ではありませんが、それぞれ活躍しています。入社したら最初は男女を問わず現場からスタートです。しかるべき時期がきて、乗務員(運転士)試験に合格すれば、乗務員への道も開かれています。実際に現在、2名の女性乗務員がおります。その他、現在乗務員を目指して勉強をしている希望者も少なくありません。

女性運転手の一人は、子育てをしながら勤務

― 現場のお仕事が多いと、女性が結婚・出産というイベントを超えて仕事を続けるのが容易ではないイメージがありますが。

そうとは一概に言えないと思います。実際に、女性社員たちが結婚して出産しても、皆戻ってきています。先ほどの女性の乗務員のうち、1名は出産して、その後も乗務員として活躍しています。子供が小さいうちは、時短勤務が可能です。乗務員の場合、シフト勤務になりますから、時間を調整することが意外に難しくありません。もちろん、開業当初から、女性用の夜勤シフトのための宿泊施設も用意されています。それから、弊社は「つくばエクスプレス」以外の路線を持っていませんから、転勤もありません。

もちろん、鉄道会社というのは、まだまだ男性社会的な考え方が残っているという面は否めないと思います。ですから、彼女たちなりに感じていることはあるとは思いますが、決して働き続けることが難しい環境ではないと思っています。

― 貴社では、鉄道業以外の新規事業に取り組む組織などをお持ちなのですか?

いえ、弊社のビジネス領域は基本的には鉄道業だけになります。構内売店や高架下の駐車場のようなごくごく小規模のものは運営していますが、本当に微々たる割合です。

また、線路や電線などのメンテナンスも、基本的には専門会社に委託しています。ですから、我々の仕事は、いかに安全に確実に電車を走らせ、お客様に快適な移動空間をご提供するか、ということであり、安全運用に集中していると考えていただいていいと思います。

― いろいろな電車に乗っていて感じるのですが、改札口のデザインやサインは、鉄道会社毎に違いますね。貴社でもそういう工夫はされているのですか?

はい、そうしたところには大変気を遣っています。もちろん、他の鉄道会社さんも同じだと思いますが、従業員の気づきが集まる仕組みを作って、改善するという活動を継続的に行っています。

― 従業員の方が一堂に会して、社長のお話をお聞きになるとか、福利厚生的な活動をするということは、やはり難しいのですか?

そうですね。たとえ夜中であっても、全員が一堂に会するということは不可能ですね。電車が走っていない夜でも、翌朝のためのシフト勤務者が宿泊しています。ですから、社員旅行はありますが、三交代で順番に行くといったかたちになっています。企業倫理指針や安全方針、社長の訓示といった、皆が共有することが求められている事柄については、朝礼など機会がある毎に、組織の長が社員に伝えるように努力しています。

― 最後に、人事としてこれからの取り組みについて教えていただけますか。

先ほどお話したように、次の10年に向けての制度改革、若手社員への技術やノウハウの継承、そして、プロパー社員から経営層候補を出していく、ということになります。10年目を節目にして、更に前に進んでいきたいと思います。

― 本日はどうもありがとうございました。



取材・文 大島由起子(当研究室管理人)/取材協力:楠田祐氏(中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授)

(2014年7月)

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