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「課題はイノベーションを起こすこと」という発想こそが、オールドタイプの考え方、ということに気づくべき

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『ニュータイプの時代』
山口 周 著・ダイヤモンド社 1600円

- 評者

大島由起子 インフォテクノスコンサルティング株式会社
Rosic人材・組織ソリューション開発室/
人材・組織システム研究室 管理者

概要

20世紀的優秀さを持つ「オールドタイプ」は急速に価値を失い、「ニュータイプ」が評価され、豊かな人生を送ることになる、という確信のもとに書かれた一冊。

筆者は、これからの時代に起こるであろうトレンドとして、

「飽和するモノと、枯渇する意味」
「問題の希少化と、正解のコモディティ化」
「クソ仕事の蔓延」
「社会のVUCA*化」
「スケールメリットの消失」
「寿命の延長と事業の短命化」

 *VUCA: Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)
      Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)


という、6つの変化を挙げます。
これらの流れが、「オールドタイプ」の存在価値をマイナスにし、「ニュータイプ」が生み出す価値が大きな意味を持つようになると断じます。

では、「ニュータイプ」はどのような価値を生み出していくのか。
「オールドタイプ」の常識と、「ニュータイプ」の特徴を、6カテゴリ24つの観点で比較しながら、未来に求められる発想、行動を整理していきます。

様々なジャンルの具体例が豊富に使われており、著者の理路整然とした枠組みをたどりながら、実感値を持って読むことができます。若者にも多くのビジネス経験を持ってきた人にも、刺激を与えてくれる内容といえるでしょう。

目次

第一章 人材をアップデートする6つのメガトレンド
    ― ニュータイプへのシフトを駆動する変化の構造
第二章 ニュータイプの価値創造
    ― 問題解決から課題設定へ
第三章 ニュータイプの競争戦略
    ― 「役に立つ」から「意味がある」へ
第四章 ニュータイプの思考法
    ― 倫理偏重から論理+直観の最適ミックスへ
第五章 ニュータイプのワークスタイル
    ― ローモビリティからハイモビリティへ
第六章 ニュータイプのキャリア戦略
    ― 予定調和から偶有性へ
第七章 ニュータイプの学習力
    ― ストック型学習からフロー型学習へ
第八章 ニュータイプの組織マネジメント
    ― 権力型マネジメントから対話型マネジメントへ

お勧めのポイント

「当たり前」と考えられてきたことを、歯に衣着せずに、バサバサと切っていく語り口に引き込まれ、一気に読み進みました。そのなかでも、長らく違和感を覚えていたことにひとつの見方を与えてくれたのが、「イノベーション」についての項でした。

なぜ、多くの企業でイノベーションが起こらず、それを課題にして取り組んでもうまくいかないのか。

著者は、

「イノベーションは課題にはなりえません。なぜなら課題を解決するための手段がイノベーションだからです。手段であるイノベーションを目的として設定すれば、その上で行われる営みは本番たり得ず、したがって茶番というしかありません」

と言い切り、「課題はイノベーションを起こすこと」という発想こそが、オールドタイプの考え方だと指摘します。それは、著者が『イノベーティブな組織の作り方』という本を執筆する際に、イノベーターとして高く評価されている人をインタビューした経験に基づいています。

「インタビューを通じてわかったのは、『そもそもイノベーションを起こそうとしてイノベーションを起こした人はいない』という喜劇的な事実でした。」

それを踏まえて、「イノベーションの方法論」がいかに不毛かを、「方法論の革新性」と「生み出した経済価値の大きさを野球のスタジアムの左右両翼に見立てて、わかりやすく紐解いていきます。イノベーションの方法論を一生懸命学んできた人にとっては、ショッキングな内容かもしれません。

その他、

「正解を出す能力」「問題解決の能力」(=例えば、MBAで教えられてきた能力)は、急速に価値を失い、「問題を発見し、提起できる人」が評価される時代になる。

「一万時間の法則」(=ひとつのことに一万時間かければ成功を収めることができるという考え)は、ナンセンスである。ひとつのことにしがみつくのではなく、価値が出せないと気が付いたときに、速やかに自分の価値があがるレイヤーに移れるかどうかが勝負である。その良い例が、ノーベル賞を受賞した山中伸弥氏である。

などなど。刺激にみちた指摘が並んでいます。

このように多くの常識を全否定されて、反発を覚えたとしたら、まだ良いサインかもしれません。そこには、気持ちを動かした何かがあり、それに自覚的だからです。

危ないのは、総論を頭で理解して、「自分はわかっている」「ニュータイプだから大丈夫」とどこか優越感を持ちながらも、各論では「オールドタイプ」の価値観べったりの行動をし、それに気がついていない人なのではないか、と思いました。20世紀にビジネスパーソンとして長く過ごしてきた私たち世代は、正面から受け止める必要がありそうです。

ただし、読者としては、著者が信念と確信をもって、理路整然と考えをまとめ上げているがゆえに、おそらく著者が「そうなってはいけない」としている「思考停止」(=著者の言っていることを疑わずに、そのまま鵜呑みにする)状態になってしまう落とし穴に注意する必要があります。

そうしたことを念頭に置きながら、是非、未来を考える刺激剤として手にとってみていただきたいと思います。

(2019年9月30日)

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