• TOP
  • COLUMNS
  • 第3回 経営に貢献する「人材マネジメントシステム」「タレントマネジメントシステム」を構築するために

第3回 経営に貢献する「人材マネジメントシステム」「タレントマネジメントシステム」を構築するために

■ 執筆者 PROFILE
大島由起子

インフォテクノスコンサルティング株式会社
Rosic人材・組織ソリューション開発室 室長
セールス・マーケティング事業本部 本部長



「人材マネジメントにITを活用」 経営・ビジネスからの注目が集まっている

弊社が2011年から12年にかけて人材マネジメントシステムの導入をお手伝いした企業様の50%以上が、経営層や人事権を持つ上位役職者にIDを配布、もしくは配布を計画しています。人事や組織に対して決済権を持つ人たちが、人事担当者に頼んで紙やエクセルで出してもらうのを待つのではなく、自ら必要な情報に直接アクセスし、判断をしていくということです。

また、昨今の「タレントマネジメントシステム」に対する盛り上り(詳しくは、こちらをご参照ください。)に押されて、人材マネジメントにITを活用しようと検討する企業が増えているようで、昨年末から弊社にも多くのお問い合わせをいただいております。

発売から数年間は、給与システムを持たない「人事情報システム」の営業で企業を訪問しても、「人事部にシステムを売りにきて、給与システムがないな んて考えられない!」と門前払いをされることも珍しくありませんでした。しかし、ここ2~3年は、「給与システムはもう動いている。人材や組織のマネジメントに使えるシステムがほしい」という企業が増え、Rosicの導入企業も急速に増えています。

そこで2013年を迎えた今、改めて「経営に貢献できる人材マネジメントシステム」を構築するためには何が必要なのかについて考えていきたいと思います。特に、2013年に「人材マネジメントシステム」「タレントマネジメントシステム」の導入を検討されている人事担当者の方には是非ご一読ください。



経営層は何を求めているのか

「タレントマネジメント」とは何か、という定義については、以下の二つが引用されることが多いようです。

まず、そもそも経営層が人事部門・人材マネジメントに関わる人たちに何を求めているでしょうか。我々が実際にうかがった言葉をアトランダムに挙げてみます。

■「人事部業務の効率化」だけをシステム導入の目的としてはいけない。
 業務やビジネスに役立つことを第一に考えてほしい。

■過去を振り返って分析するだけでは意味が無い。
 未来予測ができるシステムでなければいけない。

■従業員の配置を目的と意図を明確に持って行ないたい。

■人件費の配分を適正にすることで、成果をあげた人に報い、
 優秀な人材を辞めさせないようにしてほしい。

■ヒトの感覚から脱却、仮説の根拠となるデータを数値で示し、
 効果的な施策を提案してほしい。

■経営者が判断できるEvidenceを出してほしい。

■数字に強い人事になってほしい。

それぞれ置かれている状況の違いによって表現や抽象度合は異なりますが、まとめると、以下のようなことになるのではないでしょうか。

今いる人材で、どれだけの成果(生産性)を上げることができるのか?
最大限の成果を上げるための方策が立てられているのか?
短・中・長期の経営目標を達成していくために、必要な人材はいるのか?
もしくは確保し続けるための方策は立てられているのか?
数字・データに基づいた、人材マネジメントの計画・実行・検証ができるのか?
経営層が判断・決断できる材料をタイムリーに提供できるか?

これらの要請が、ITを活用する、システムを導入することだけで即解決するとは思いませんが、IT/システムを上手く活用できるか否かが、その質を大きく作用することは間違いありません。そのことに気がついた企業が、経営層の要望・活用に応えられる「人材マネジメントシステム」「タレントマネジメントシステム」に注目し、投資を始めた結果が、私たちが2011年から経験していることの背景なのだと思います。



システム以前の問題: 経営層・現場など、「人材マネジメント」のステークホルダーたちがどれだけ課題と目的を共有できているか

具体的に経営層の要望・活用に十分応えていけるシステムについて考える前に、明確にしておくべきことがあります。

今必要とされているシステムは、「誰のために、どんなメリットを提供するシステムなのか」ということです。

その部分がしっかりと定まっていないと、システム選定の段階で「船頭多くして船、山に登る」ことになってしまったり、導入後に迷走を続けて期待したステップアップが実現しなくなってしまったりします。

構築するシステムが、「人事部のシステム」や「営業部のシステム」といった、既存の組織の業務範囲で考えることができるシステムなら良いのですが、 「人材マネジメント」となると、関わる人が人事に限らず、経営から現場、考え方によっては従業員一人ひとりにまで広がります。従って、それに必要なシステ ムとなった場合には、ステークホルダー一人一人が、異なったイメージや目的・期待を持っている可能性が大いにあるのです。

人材マネジメントシステムを全社で導入しようとした場合、人事部が主導することが少なくありません。その場合、「人事(部)のシステム」という発想 から意識して一旦抜け出してみることが重要です。「人材マネジメント」に関して、「経営」から求められるもの、「現場」が必要とするもの、「従業員」を活性化させるものを、どこまでどのように提供していくのか。そして、それらを提供することで、どのようなメリットを期待するのか。このことを明確にして、ス テークホルダーの間でしっかりと共有できれば、システムの選定や、構築に対する投資額、構築の実現方法などについてのブレが少なくなります。

経営に貢献できるシステムに求められること

これまで、人材マネジメントシステムの導入を支援してきて、経営に貢献できるシステムにしていくには、以下の4つを実現できることが必要だと強く感じています。

● データの一元化
● データの可視化
● データの活用
● 分析・予測・KPIの実現

データの一元化
人事に必要な情報に限らず、人材マネジメント・組織マネジメントに必要な情報がすべて一か所に格納できるということです。一人の 情報なのに、部署毎や担当者毎にExcelで別々に管理されているケースが想像以上に多いのが現状です。その原因は運用や意識づけの面もありますが、シス テムとして自社の独自性や変化に柔軟に対応しきれない、データの取り込みや連携のハードルが高いといったことがネックになっていることも少なくありませ ん。この部分がしっかりできていないと、その後の「可視化」「活用」「分析・予測・KPI」も不完全なものになってしまいます。

データの可視化
どんなに価値ある情報がデータベースに溜まっていても、必要な人に、必要な形で、タイムリーに見えるようにしなければ、その価値 は大幅に減少してしまいます。特に、忙しい経営層や現場マネジメントに関わる人たちに情報を提供していくのであれば、スピードの担保や、直観的に理解でき るビジュアルの工夫も重要になります。

データの活用
溜まったデータを適切に可視化できると、見た人の中で課題を発見したり、仮説を立てたりといった「思考」が動き始めます。そのとき、 システムがそうした思考の流れを止めることなく、更に思考を広げたり、深めたりすることができ初めて、有効なデータ活用につながっていきます。パッケージ 製品を活用する場合には、独自の「試行錯誤」や「仮説検証」をしようとしたとたんに対応が難しくなるケースがありますので注意が必要です。

データの分析・予測・KPIの実現
データの分析には、3つのフェイズがあると言われています。
 - Descriptive ~ 現状を提示する
 - Predictive ~ 未来を予測する
 - Prescriptive ~ 最適解を探し出す
昨今は、人材マネジメントやタレントマネジメント分析機能を持っている人材マネジメントやタレントマネジメントも増えています。ただし、中には Descriptive(現状を提示する)のレベルまでのものも少なくありません。そのシステムが、将来を「予測」をし、「最適解」を探し出すサポートを し、「KPI」構築の段階まで活用していける力を秘めているのかを、見極めることが大切です。

これらが、人材マネジメントにIT/システムを活用し、経営に貢献していこうとしたときに、システムに求められる要件だと考えています。データの分析・予測・KPIまで一足飛びに実現することは難しいかもしれません。しかし、データの一元化を実現していく時点から、将来の発展を視野に入れておくこと が、システムへの投資効果を最大限に得るために大事なポイントになるでしょう。



そのシステムは、PDCAを回せるか

ビジネスでPDCAを回していくことが重要だということに異論を唱える方はほとんどいないかと思います。しかし、人材マネジメントの世界ではPDCAがうまく回せていないケースが少なくないのではないでしょうか。

それは、P「計画」の基になった「仮説」や「期待」と、D「実行」すること出た結果が、果たして合っていたのか否かをC「チェック」するためのデータ(事実)が取られていない、もしくは散在している、というのが大きな理由のひとつだと思います。

また、一生懸命にデータを集めたとしても、全体を様々な角度から俯瞰し、仮説や期待に対する致命的なギャップを発見したり、組織やグループでバラツ キがあるエリアを特定したりして、原因解明に向けてドリルダウンしていくことができなければ、適切なA/P「修正・再構築」を行うことはできません。

システムの中には、D「実行」には強いものの、C>A>Pの部分については担当者の手作業に頼らざるを得ないといったものもあります。 もちろん、システム投資はDの部分だけにするという選択肢はあります。問題なのは、PDCAを回せると考えて投資をしたにも関わらず、結果Dにしか対応で きていない、という状況です。まず自分たちの業務のPDCAサイクルをイメージし、そこにIT/システムがどのようにフィットするのか(もしくはしないの か)、という視点で評価する視点が大事になります。



優れたシステムが実現してくれること

優れた人材マネジメントシステムは、それを使う人たちの思考を促し、行動を変える力を持っています。逆に言えば、そうしたことを起こせないシステムは、マネジメントに活かし、経営に貢献していくツールとしては力不足と言わざるをえないと思います。

先日、あるお客様に人材マネジメントシステムを導入したところ、様々な課題が浮き彫りになり、あっという間に次に取る施策についての話が始まった、という場面を目の当たりにしました。システムの力を改めて実感した瞬間でした。

人材マネジメントにシステムを活用していこうとしたときには、是非以下のキーワードを元に、システムの能力を評価してみてください。

▶「思考を止めない」「思考を発展させる」「仮説検証ができる」
▶「気づきを与える」「行動を促す」「試行錯誤できる」
▶「予測できる」「予実差(GAP)を知り目標を達成できる」

是非、IT/システムを最大限に活用して、自社の人材マネジメントの質を上げ、経営に貢献していってください。そのために、ここでのお話を少しでもヒントにしていただければ幸いです。

(2013年1月10日)

COLUMNS TOP