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第27回「既存の枠組みを超える」ために、「ビジネス改革」の一貫として取り組む

丸紅株式会社 人事部長 鹿島 浩二氏

勤務時間の15%を副業に充てることを義務づける──。
そんな斬新な制度を丸紅が導入したと報じられたのは、2018年4月のことでした。いくぶん誤解と誇張をもって伝えられた新しい仕組みのデザインの本質と狙いについて、同社人事部長の鹿島浩二氏に詳しく解説していただきました。

鹿島 浩二氏 プロフィール

1989年、丸紅株式会社入社。入社後の配属から現在に至るまで、ほぼ一貫して人事業務に従事。
2001年7月~2007年1月に米国・ニューヨーク、2013年4月~2015年3月に中国・北京と2度の海外駐在を経験。2015年4月~2017年3月には営業(素材グループ)企画部において、より現場に近いHRBP的な役割を担い、2017年4月より現職。

タテの世界にヨコ軸をつくる

4月1日の日本経済新聞に「『社内副業』義務づけ」という見出しで取り組みが紹介されましたね。「丸紅、勤務時間の15%」「部門横断、新事業促す」というインパクトのある記事でした。

いろいろな方から「エイプリルフールだろう」と言われました(笑)。正しくは「副業」でも「義務」でもないのですが、あの様に取り上げていただいたおかげで注目を集めることができました。あのあともメディアにはずいぶん取り上げていただいています。

どのような経緯で始まった取り組みだったのですか。

「既存の枠組みを超える」というのが大きなテーマです。世の中はこれまでにも増して、大きく早く変化している。総合商社は変わらなくてもいいのか。丸紅はこのままでいいのか──。すべてはそんな問いからスタートしています。

もちろんこれまでも、総合商社のビジネスの形は時代の変化に応じて変わってきました。しかし、これまでの延長線上にあるような変化で満足していては、世の中全体が変わっていくスピードについていけなくなっていくでしょう。過去とはまったく違うレベルの変化を自ら起こし、その変化をチャンスにしていく。そうしなければ生き残っていけないという大きな危機感が私たちにはあります。

いわゆる「働き方改革」の一環ではなく、あくまでも「ビジネス変革」の一環であるということですね。

そのとおりです。新しい丸紅になるためのチャレンジです。ビジネスを変えるために会社の仕組みを 変えるということです。そのために、経営企画部、デジタル・イノベーション部、人事部、広報部など 社内管理部門の中核が一体となってプロジェクトを進めています。

まず、組織面での変革について教えていただけますか。

最も大きな変革は、「CDIO(チーフ・デジタル・イノベーション・オフィサー)」という役職と 「デジタル・イノベーション部」という部署を新設したことです。「デジタル・イノベーション」には、「デジタル戦略の推進」と「イノベーション=新たなビジネスモデルの創出」の両方に取り組むという 意味が込められています。

では、この新体制によって何をやるのか。狙いは「タテの世界にヨコ軸をつくること」です。弊社にはたくさんの事業本部があって、それぞれのやり方でビジネスを進めています。それを私たちは「タテ」と呼んでいます。タテの体制には、各領域で専門性を磨いていくことができるというメリットがある一方で、どうしてもそれぞれの本部がサイロ化してしまうという課題もありました。

そこで私たちは、本部、ビジネス領域、あるいは国境を超えたヨコ軸をつくり、さまざまな要素を掛け合わせていくことを目指しました。新しいものを生み出すには、異なる要素の掛け合わせが必須だからです。その掛け合わせを推進するのが、CDIOとデジタル・イノベーション部の役割です。

総合商社には、俗にいう「背番号制」、つまり最初に配属になった部門の背番号をずっとつけ続けるという慣習がありますよね。その慣習自体をなくしていくのですか。

それ自体は変えません。というのも、個々の本部のレベルが高く保たれていなければ、掛け合わせの成果は生まれないからです。「タテ」の仕組みを残し、専門性はこれまで同様に磨きながら、それぞれの専門性の掛け合わせにチャレンジしていくということです。

「人材」と「仕掛け」と「時間」が3つの柱

制度面の変革についてもお聞かせください。

「人材」と「仕掛け」と「時間」。その3つの要素を変えることが、制度変革の柱です。一つ目の 「人材」からご説明していきます。

これからの丸紅は、グループ全体の資産を集結させて新しいものを生み出していく「プラットフォーム」にならなければなりません。私たちが求めているのは、そのプラットフォームを有効に活用していくことができる人材です。そのようなイノベーションを生み出すことのできる人材を育成するために、 新たに「丸紅アカデミア」を設けました。そこでは、全世界の丸紅グループから25人の参加者を募り、一週間程度のセッションを一年間に3、4回開催して、実際にイノベーティブなアウトプットを生み出すことを目指すとともに、その経験を職場に持ち帰り丸紅グループ内に伝播させていくことを期待するものです。

もう一つは、「社外人材交流プログラム」です。丸紅の社員の大半は丸紅にしか勤めたことがありません。そこで、社外の異業種企業に出向して新しい経験を積んで、幅広い発想や価値観を丸紅に持ち帰ってほしい。それがこのプログラムに込めた思いです。もちろん「交流」ですから、弊社側でも社外の方々を受け入れて、働いていただきます。このプログラムを始めてみて、人材交流のニーズがある企業がたくさんあることがわかりました。

社外人材交流プログラムの期間はどのくらいなのですか。

一年から二年が基本ですが、数か月間のショートプログラムも取り入れていきたいと考えています。

対象は希望者なのでしょうか。

そうです。この2月に第一回目の募集をしたのですが、若い社員を中心にたくさんの申込者がいました。丸紅に本籍を置きながら丸紅以外の企業で経験を積むことができるというのは、とても魅力的なのだと思います。

 「そのまま転職してしまうのでは」という意見もありますが、もちろん期間が終了したら丸紅に帰って来てもらうことを前提としています。もっとも、転職したいと考える人が増えるとは見ていません。 むしろ、外部を知ったからこそ丸紅のよさを再認識できる。そう私たちは考えています。その意味では、リテンションにつながる施策であると思います。

ほかにも、ベテラン、中堅、新人の3人1組でチームをつくってお互いにメンタリングをし合う「トライアングルメンター」や、適切だと思う服装を自己責任で選ぶ「Self-Biz」といった取り組みも推進しています。

多種多様なビジネスモデルは「宝の山」

2つめの要素である「仕掛け」とはどのようなものですか。

中心的な取り組みは、「ビジネスモデルキャンバス」です。丸紅には組織の数だけビジネスモデルがあって、自分たちが携わっているビジネス以外のことはよくわからないというケースが少なくありません。例えば、船舶のビジネスに関わっている人は、電力チームがどのようなビジネスをやっているのかわからない。それがこれまでは普通でした。

ここにまさしくタテ組織の弊害があって、互いにまったく理解していないもの同士を掛け合わせても、価値あるものが生まれることは期待できません。そこで、グループ内にあるさまざまなビジネスモデルを理解できる仕組みを目指してつくったのが「ビジネスモデルキャンバス」です。

約300のビジネスモデルを同じフォーマットに入れて、それぞれのモデルの競争優位性、顧客、ビジネスを展開している国などを、イントラネット上で誰もが見られるようにしました。いわば、隣のサイロのことを知ることができる仕組みです。

300ものモデルを見られるというのは、とてもワクワクしますね。新しいことにチャレンジしたい人にとっては、宝の山なのではないでしょうか。

おっしゃるとおり、まさしく「宝の山」がこの取り組みのキーワードです。実際に、社長が海外の取引先などでこうした環境を話すと、「グループ内に多種多様なビジネスモデルがあるのは宝の山ですね」とよく言われるそうです。

そこに総合商社の強みがあると言えそうですね。

以前は恥ずかしながら、それに気づいていなかったわけです。例えば、メーカーなどの場合、新しいビジネスモデルを生み出そうとすれば、外部と提携しなければなりません。しかし、我々はそれが内部でできる。グループ内のリソースを活用することでいろいろな組み合わせができる。それを可視化したのが「ビジネスモデルキャンバス」ということです。

ほかに、「アイディアボックス」と「ビジネスプランコンテスト」という仕掛けも導入しました。「アイディアボックス」は、ビジネスのアイディアや課題など、どんなことでも投稿できる一種の意見箱です。これをデジタル・イノベーション部が管轄し、有望なアイデアの実現をサポートします。

「ビジネスプランコンテスト」は、新しい事業のアイディアを競うコンテストで、今年度から開催していきます。優れた企画があれば、フィジビリティスタディをし、予算をつけ、事業化を目指していきたいと考えています。

業務を改善し「15%」を捻出する

3つめの要素が「時間」ですね。

新聞などで取り上げていただいた「15%ルール」は、ここに該当します。勤務時間の15%を使って、それぞれの社員が事業軸を超え、未来を志向したイノベーションを目指すための仕掛けがこの15%ルールで、15%は丸紅グループの価値向上につながることであれば何に使うかは問いません。自分が関わっている事業のことを考えてもいいし、他の部署や管理部門の改革について考えてもいい。ビジネスプランコンテストのために時間を使ってもいい。やりたい人がいたら、上司はそれを止めてはならない。許可もいらない。報告だけでいい。つまり、マイクロコントロールは一切しない──。それがこのルールの内容です。

なぜ15%なのですか。

適当です(笑)。厳密なパーセンテージではなく、「だいたい15%くらい」ということです。
例えば、一週間のうち金曜の午後いっぱいくらいを使うと、だいたい15%になります。あるいは、ひと月のうちの15%をまとめて活用することも可能です。

 気をつけなければならないのは「115%」になってしまってはいけないということです。ルーティンの仕事には、当然これまでと同じく取り組まなければなりません。その効率を上げて、これまでの100%を85%にし、結果として15%の時間を捻出する。そんな考え方です。したがって、15%ルールは「業務改善プロジェクト」とセットで推進されることになります。具体的には、提出資料の削減などの施策を今後実行していく予定です。

人事の仕事は「制度づくり」だけではない

仕組みを考え始めてから導入するまで、どのくらいの時間がかかりましたか。

私が人事部長になったのは、去年(2017年)の4月なのですが、その時点でこれらの話はまったくありませんでした。具体的な動きが始まったのは去年の下半期くらいからですから、実質半年くらいで形になっています。

それだけのスピードで導入できた理由は何だったのですか。

一つは、「まずはやってみて、だめだったらやめる」というスタンスで迅速な導入を目指したこと、 もう一つは、社長がプロジェクトに直接関わっていたこと。その二つが大きかったと思います。

なるほど。アジャイル型の導入であり、トップのコミットメントがあったということですね。
この新しい仕組みは、従来の人事評価制度とはどのようにリンクしているのですか。

現在のところ、リンクしていません。この仕組みの導入にともなう評価、報酬、資格、その他、いわゆる人事制度の根幹部分には一切手をつけていません。つまり、これは人事制度改革ではないということです。

これまで、人事の仕事は制度をつくることだと考えられてきました。今回、この仕組みづくりに取り組んでみて、「人事がやるべき仕事は、いわゆる人事制度設計・導入だけじゃないんだ」という新鮮な発見がありました。人事がこのような方法でビジネスに貢献できることを、ほとんどの人事部員は考えたこともなかったと思います。

人事制度は、往々にして「制度のための制度」になってしまいがちです。今回導入した仕組みの意義は、明確に「ビジネスのため」という点にあると私は考えています。「これだけの仕組みがあるのだから、新しいビジネスを生み出して欲しい」というくらいの気持ちがありますね。

こうした取り組みの結果は一朝一夕に出るものではないし、結果を早く出そうと焦ると本質からずれてしまう危険がある。一方で、具体的な成果がなかなか見えないと、先細りになっていくリスクもあるように思えます。

おっしゃるとおりで、インパクトのある成果が出てきて、会社の文化として根づくまでには時間はかかるでしょう。そこに到達するまで根気強く続けていくためには、社内でのアナウンスをしっかりと続けていくことが重要だと考えています。広報部と共に、社内報などもフルに活用しながら、社員に向けたメッセージを発信し続けていきます。

大きな意味でのカルチャートランスフォーメーションと言えそうです。業績が好調な中で、これだけの変革に取り組まれているのが素晴らしいと思います。

17年度決算で史上最高益を達成しましたが、最高益が出ている状態でこれだけの危機感をもっているというところにこそポイントがあります。たとえ今が好調でも、新しいことに取り組まなければ未来はありません。その意味で、新しい仕組みづくりは必須でした。一般に人事業界では、新たな人事の仕組み導入にあたっては、業績が好調なときが望ましい、と言われます。業績が不調なときの変革は真意は違っていても「リストラ」と捉えられてしまいがちですので。まさにこのタイミングで仕組みの導入ができてよかったと思っています。

大きく変わりそうですね、丸紅は。

そう期待しています。もちろん、すべての社員がこの仕組みを手放しで歓迎しているわけではありませんし、何かを大きく変えるときには必ず反対の立場の人はいます。しかし、変えるためには、大きな方針はぶらさず、しかし細かい改善・修正は必要に応じてアジャイルに進めていくことが大事だと思っています。

数年後が楽しみです。今日はありがとうございました。

取材・文  二階堂尚
取材協力  楠田祐(HRエグゼクティブコンソーシアム 代表)

(2018年7月)

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