• TOP
  • INTERVIEWS
  • 第7回 単独で黒字を実現。障がいを持つ社員の成長を会社の成長につなげていく

第7回 単独で黒字を実現。障がいを持つ社員の成長を会社の成長につなげていく

楽天ソシオビジネス株式会社
代表取締役副社長 川島薫氏
代表取締役社長 杉原章郎氏

障がい者雇用の受け皿である特例子会社を「普通の会社」にしたい──。楽天グループの特例子会社「楽天ソシオビジネス」に2007年に入社し、現在は副社長として会社を牽引する川島薫氏はそう話します。自らも障がい者である川島氏が考える障がい者雇用のあり方とはどのようなものなのでしょうか。障がい者が生き生きと活躍できる会社を目指す多様な取り組みについて、杉原章郎社長とともに語っていただきました。

代表取締役副社長 川島薫氏
代表取締役社長 杉原章郎氏  プロフィール

川島薫氏(写真右)

1980年教育事業出版社に入社し経理業務に従事。1985年結婚を機に主婦業に専念。1989年右股関節が悪化し再手術、障害者手帳を取得。1999年空調メーカーのコールセンターでSVとして約8年勤め退職。2008年楽天ソシオビジネス株式会社に入社。マネージャー、部長の経験を経て2013年取締役就任、2018年6月代表取締役副社長就任。

杉原章郎氏(写真左)

1997年に楽天の創業メンバーとして参画。2000年~2006年楽天ブックス代表取締役社長。
2008年楽天株式会社取締役常務執行役員開発部担当役員。2012年4月よりグローバル人事部および総務部の担当役員として楽天グループの人事総務を統括。2013年楽天ソシオビジネス株式会社代表取締役就任。

法定雇用率を達成するのは当たり前のこと

現在は何人の障がい者社員を雇用しているのですか。

【川島氏】

およそ160人ですね。東京本社に130人ほどが勤務していて、あとは仙台と大阪のオフィスで働いています。それから、リモートワークの仕組みを使って在宅で仕事をしている人もいます。2011年の東日本大震災のときに、オフィスから避難できなくてたいへんな思いをした人がいたんです。知的障がいのある社員の中には、パニックになってしまった人もいました。あの経験をきっかけに、在宅勤務を選択する人が増えました。

御社のような特例子会社では、グループ会社の社員が増えていくにしたがって雇用数を増やしていかなければなりませんよね。楽天グループは日々事業を拡大していますから、グループ社員総数の2.2%という障がい者法定雇用率を保っていくのはたいへんではないですか。

【川島氏】

働く意欲のある障がい者、とくに身体障がい者の多くはすでに就労しているので、採用は確かに楽ではありません。最近は知的障がいや発達障がいのある人たちも多く採用しています。

もっとも、私たちは法定雇用率をそれほど意識してはいないんです。雇用率を達成するのは当たり前のことだからです。現在の雇用率は2.3%ちょっとですが、業務は増えているので、もっと人を増やしていかなければなりません。

他社からの転職者も多いのですか。

【川島氏】

いますね。私たちは、他の特例子会社にはない仕組みや文化を作ってきたという自負があります。それに憧れて入社してくる人が少なくありません。楽天ソシオビジネスに入れば、自分自身が成長できる──。そう考える人が多いようです。

川島さんの著書の『障がい者の能力を戦力にする』には「育成」という言葉がしばしば出てきます。

【川島氏】

私自身障がい者ですが、この会社に来る前は一般企業で働いていたので、障がい者雇用のことはあまり知らなかったんです。この会社に入って、障がい者には研修の機会が与えられていないことを知って驚きました。ビジネスマナー研修も受けたことがなく、名刺も持ったことがない。そんな人がほとんどで、仕事の基本である「報連相(報告・連絡・相談)」も、その言葉自体を聞いたことがないという人ばかりでした。

そこで、私は研修をみんなに受けさせることにしました。研修を受けると刺激になるし、頑張ろうという気持ちになる。これは障がい者も健常者も変わりはありません。また、研修を受けることで「自分は社会人なんだ」という自覚が生まれます。

現在は、職階が上がるごとに階層別研修を受ける機会も提供しています。機会を与えれば一人ひとりが成長するし、それによって会社も成長する。逆に、社員の成長がなければ、仕事を増やしていくことはできない。そう私は考えています。

人事の基本は「育成」にあると言われています。育成し、成長の結果を評価する。それが人事の理想ですが、御社ではそれをしっかり実行しているわけですね。

【川島氏】

障がい者の中にもいろいろな人がいますが、仕事の進め方や結果を一人ひとりが振り返って、それを次につなげていくことがとても大事です。振り返りの過程で、何ができて何ができなかったのかということも明確になります。できなかったことのうち、できることがあるなら次はできるようにする。できたことがあったら、それはちゃんと褒めてあげる。その繰り返しで人は育っていくのだと思います。

評価システムは独自に作っているのですか。

【川島氏】

管理職の評価には楽天グループの仕組みをそのまま使っています。一方、一般職は独自に作った仕組みで評価をしています。障がいの種類に関係なく、すべての人に当てはまる評価システムです。また、当社には2割程度健常者社員がいますが、その人たちにも同じ評価軸を適用しています。

以前は、目標に対する簡単な振り返りくらいしかしていなかったのですが、「頑張っているのになぜ給料が上がらないんだ」という不満が社員から寄せられるようになり、細かい評価の仕組みを作ることにしたんです。重視したのは「評価の見える化」です。本人評価と上長評価の両方があって、その差分が明確になる仕組みにしました。それを見ると、「この仕事ができていないから給料が上がらないんだ」ということがはっきりわかります。それによって社員の納得感も生まれるし、次の目標を決めることもできるようになります。

「人」を出発点にして仕事を作り出す

最初は会社自体に仕事がなかったと著書に書かれています。どうやって仕事を作っていったのですか。

【川島氏】

私の前職がコールセンターだったので、その仕事を楽天グループから請け負うところから仕事を広げていきました。私ができることならほかの人もできるだろう。そんな発想が基本にありました。新しい仕事の相談が来た場合は、まず私がその業務をやってみて、マニュアルを作って社員にやり方を伝えていくという方法をとりました。

社長の杉原は、楽天市場の創業メンバーの一人なので、グループ内に広範なネットワークを持っています。杉原に紹介してもらって、いろいろな人に会いに行って、そこから仕事を作っていくのがこの会社での私の重要な仕事です。ご依頼を受けた仕事に関しては、決して「無理」とは思わずに、どういうふうにやればその仕事を回していくことができるかを考える。そんなことの繰り返しでしたね。

社内にその仕事を担える人材がいれば、それはビジネスとして成立する。そんな考え方だそうですね。

【川島氏】

そうです。「人」を出発点にして、その人ができる仕事、その人に向いた仕事を探してくることが非常に大切だと思っています。

仕事の依頼が来るケースと、営業して仕事を取りに行くケース。そのどちらが多いのですか。

【川島氏】

最初は営業が多かったですね。近頃は、仕事を依頼してくれていた楽天グループの担当の方が異動になって、その異動先でも新たに仕事を発注していただくケースが増えています。それによって私たちの仕事がどんどん増えていっているのです。

グループ内の他社に社員が出向したり転籍したりするケースも出てきているとのことです。

【川島氏】

最近では、楽天チケットに行った人がいますね。その人は音楽フェスティバルを企画することに興味があって、社長に直々に志願して転籍しました。楽しく働いているようですよ。若い社員たちのいいロールモデルになると思います。

現在の取引先は、楽天グループだけですか。

【川島氏】

今はグループだけです。将来的には外部にも広げていきたいとは思っていますが、まだグループ内で私たちができる仕事がたくさんあるはずなので、まずはそこを精査して、確実に担うことが先ですね。私たちに仕事を委託すれば、その部署の人たちはよりコアな仕事に集中して、生産性の高い働き方ができるようになります。そのウィンウィンの関係をグループ内でさらに広げていきたいと考えています。

新事業へのチャレンジも盛んですね。2015年に始めたレタスの屋内水耕栽培は、誰の発案だったのですか。

【川島氏】

社長の杉原です。とにかく、いろいろなところに行っては、情報を仕入れてきて、私に話すんですよ。水耕栽培のビジネスも、「建物の中でレタスを作れるらしいよ。それって面白くない?」という杉原の言葉から始まっています。

【杉原氏】

社会的なニーズがある事業にチャレンジし、それをどんどん広げていく。そんな楽天の文化をこの会社にも広めていきたいと僕は思っています。その一つが野菜の水耕栽培でした。この事業が楽天ソシオビジネスに向いているのは、現場での臨機応変な対応がそれほど必要ではないという点です。狭く限られた仕事をコツコツやることでいい野菜が育つわけです。

【川島氏】

知的障がいがある人にはぴったりの仕事ですよね。彼・彼女らの多くは、比較的単純な作業に長時間集中することが得意なんです。途中から雑になったりせずに、丁寧な仕事を続けられる。その強みを生かせるのが水耕栽培です。

実際、芽が出てくると、双葉の方向が同じ向きになるように揃えてくれるし、育ってきたら、別のパネルに植え替える作業もコツコツやってくれます。レタスの根はすごく長いのですが、それを一つ一つ小さな穴に植えていく気の遠くなるような作業も、ニコニコしながらやってくれています。担当しているのは重度の知的障がいのある人ですが、毎日本当に楽しそうに働いています。 

【杉原氏】

野菜には硝酸態窒素という発がん性物質が含まれているのですが、それも除去しています。水耕栽培でそれに取り組んでいる例は、おそらくほかにほとんどないのではないでしょうか。 

【川島氏】

一つ目の水耕栽培工場がある程度成功したので、現在、静岡の磐田市に二つ目の植物工場を建設しています。それが稼働すれば、地方における障がい者雇用の促進にもつながっていくはずです。 

野菜を育てるビジネスが、働いている障がい者自身も成長させそうですね。

【杉原氏】

ええ。仕事に一生懸命取り組むという点での成長が確実にあるのはもちろん、園芸療法に近い効果もありそうな気がしています。

植物を手塩にかけて育てることが、心身の安定や知育につながるということですね。この野菜工場では黒字を達成しているのですか。

【川島氏】

この野菜工場に限らず、すべての事業を黒字化させて、利益を出していく。それが私たちの基本的な考え方です。つまり、本社の経費によって運営される会社ではないということです。

会社ですから、当然給料は上げたいし、賞与も出したい。でも、黒字化できないような会社では賞与なんか出せないですよね。だから、常に黒字化達成が目標だし、それを実現するには社員一人ひとりが稼ぐことが基本です。

社長に就任して自分自身のマインドが変わった

杉原さんが社長に就任されたのは、いつ頃だったのですか。

【杉原氏】

2012年の終わり頃です。楽天グループの人事総務の責任者になって、この会社の社長を兼任することになりました。最初は「社長職もついてきた」くらいの感覚でしたね。

しかし、この会社の内実を知るようになって、いろいろな可能性が見えてきました。この会社のコアにいるのは、川島を始め、自分たちの頭で考え、自分たちでビジネスを作っていくことができる人たちです。その人たちのハートにもっと火をつけたいと考えるようになりました。

僕の担当が人事総務ですから、まずはその領域の仕事をアウトソーシングで受けることでお金を稼ぐ。そして、それをベースにして新しいことにどんどん取り組んでいく。そんなスキームを実践するようになって、会社の業績も伸びていきました。僕自身、元来の創業精神に火がついた感じでした。

杉原さん自身のマインドも変わったということですね。

【杉原氏】

とくに、川島と何度も話す中で大きく変わりました。僕も以前は、障がいをもっている人に働いてもらうには、いろいろな配慮が必要だし、率直に言って、そんなにいろいろなことができるとは思っていなかったんです。

でも、川島は、障がい者ができることはたくさんあるし、仕事がないなら作っていけばいいという考えでした。障がい者も健常者と同じように、仕事に取り組んでいく中で習熟して生産性も上がっていく。そのスピードや一人で担える範囲が健常者に比べて少し足りないだけ──。今はそのことがよくわかりますが、最初はそうではありませんでした。しかし考え方が変わってからは、僕自身にスイッチが入って、会社の業績を確実に伸ばしていけるという確信を持ちました。

先ほども話に出ていましたが、楽天グループには次々に新しい事業が生まれています。そこでは必ず新しいオペレーションが必要になります。そのオペレーションの中には、障がい者が担える部分が必ずあるんです。それを担うことで、安定的に成長していきながら、新しい事業に自らチャレンジしていく。それが今の僕たちのスタンスです。

やはり、川島さんの存在が大きいということですね。その発想とバイタリティはどこから来ているのでしょうか。

【川島氏】

一般企業にいたことが大きいと思いますね。一般企業では当たり前のことが特例子会社では当たり前ではない。それが私にはとても不満でした。

例えば、楽天本社にある人事の仕組みが、楽天ソシオビジネスには以前はありませんでした。本社の人事担当者のところに行って、「私たちの会社にも本社のような制度がほしい」という話をすると、「どうしてソシオにそれが必要なの?」と聞かれる。そんなことがよくありました。障がい者には普通の評価制度は必要ないと思われていたんです。私はそれが悔しくて、楽天グループの人事の仕組みを洗いざらい調べました。そして、私たちの会社に入れられる仕組みは全部入れて、足りない仕組みは自分たちで作りました。

結局のところ、私たちは楽天ソシオビジネスを「一般企業」と変わらない企業にしたいと思っているんです。国が作った制度によって「特例」という名称がついていますが、私たちが作りたいのは「普通の会社」なんです。だから、普通の会社に必要なものはすべて取り入れたい。そのために必要なことをこれまでやってきたということです。

至極まっとうなお話だと思います。他の特例子会社でそのようなことがなかなか実現しないのはなぜだと思われますか。

【川島氏】

障がい者を低く見ているところがあるのではないでしょうか。法律で雇用しなければいけないことになっているが、雇用したところで、何をやってもらえばいいのか、誰が面倒を見るのか。そんなふうに考えてしまう人が今も少なくないのだと思います。

自らの言葉を自ら伝えていくことが大切

障がい者雇用は一種の社会的コストだと考えられていますが、御社の取り組みは、障がい者にも価値を生み出す力が十分にあることを示していると思います。

【川島氏】

そうなんです。だから、発想を変えていかなければならないんです。健常者の中には、仕事を好んでやらない人や働かない人たちだっているわけで、それが人口減少とあいまって、人手不足が深刻化しています。そんななか、どうして障がい者を戦力として考えないんだろう。本当にそう思いますね。

やはり、障がい者雇用の現場が、あるいは障がい者自身が声を上げていく必要があるのでしょうね。

【川島氏】

ええ。私は楽天本社に対しても、雇用率制度のためにうちの会社があるんじゃない、この会社で働いている人たちをどう思っているのか──。そんなふうに間違っていることは間違っていると、何度も声を上げてきました。そうしないと、なかなか健常者の立場の人には振り向いてはもらえないんです。

私は、障がい者が役員ポストに就くべきだといつも言っています。そうなれば、障がい者自身がいろいろなことを社内外に伝えていくことができるからです。自らの言葉を自ら伝えていくこと。それが何より大切だと思います。

今後の目標をお聞かせください。

【川島氏】

先ほども申し上げたように、今は発達障がい者の雇用を積極的に進めています。彼・彼女らの多くは、一つのことに集中して働くことが得意で、仕事の領域を特化すると素晴らしい能力を発揮します。その力をさらに伸ばす教育の仕組みを作りたいと思っています。

それから、やはり会社の規模を大きくしていくことですね。会社が大きくなれば、それだけ障がい者が活躍できる場も増えるわけですから。

最後に、読者の皆さんに向けてメッセージをいただけますか。

【川島氏】

障がい者も健常者も、同じく普通の人だと私は思っています。そんな視点を多くの人に持っていただきたいですね。「障がい者にはできないことが多い」という人もいます。そんな人に、私はこう言うようにしています。「じゃあ、あなたはどのくらい計算ができるの?」「どのくらい漢字が書けるの?」──。計算や漢字が苦手でも、普通に働けるわけでしょう。健常者であろうが障がい者であろうが、苦手なことがあったらほかの人に助けてもらったらいいんですよ。

人間の価値はみな同じ、でも、やれることや得意なことは違う、ということですね。

【川島氏】

ええ。もちろん、障がい者自身も努力して、できることをアピールしていくことが必要だと思います。楽しく、自分らしく働くためには、自分自身が頑張らなければならない。その仕事の本質は、障がいがあってもなくても変わらないと私は考えています。

本日はどうもありがとうございました。

取材・文  二階堂尚
取材協力  楠田祐(HRエグゼクティブコンソーシアム 代表)

(2018年8月)

INTERVIEWS TOP