第117回 すっきりとした分かりやすさだけでは


ある朝、少し開けていたカーテンの隙間から朝焼けの空が見えました。慌てて一眼レフカメラを持って
ベランダへ。しかし、三脚をセットし終わったときには、先ほど見えた太陽は薄い雲に後ろに隠れ、そ
の横に浮かんだ大きな雲が朝日を反射しています。仕方なく朝焼けの写真の代わりにそちらを撮りま
した。

その週末、やはりどうしても綺麗な朝焼けの空を撮影したいと、天気を確認し、寝る前にカメラを三脚
にセットし、目覚まし時計をかけて朝に備えました。

その日は雲ひとつない綺麗な空。星も輝いています。繊細で実に美しい。
濃紺からオレンジに少しずつグラデーションしていく空を、思った通りに撮影することができました。が、

「思ったより、面白くない写真だな」

その「完璧」な朝焼けの写真を、大きなもモニターで見た感想です。

確かに、ビルの陰や綺麗な色のグラデーションはきちっと写真に収まっています。空には星もちゃんと
映っている。でも、実際の朝焼けを見たときに感じた感動をもう一度再現してくれるような迫力は感じ
らませんでした。

一方、その数日前に偶然撮影した朝焼け雲の写真。何枚かの写真は、想像しなかったような微妙な
色や形が画面の中に広がっていて、何度見ても心が動く感覚があります。

また、昨年の晩秋、上高地に写真を撮りにいったときのこと。一日目は曇りがちで、ほとんどの山々
の頂上は雲に隠れて顔を出しませんでした。それでも、カラマツの落ち葉の黄色や、葉を落とした
木々の間に薄らと雪化粧した山肌などの写真を撮影して一日を終えました。

次の日は一転、すっきりと晴れ、空には雲ひとつない状態となりました。い空、頂に雪を冠した山々、
「ああ、これこれ!」と大量に撮影をして路につきました。

さて、家に戻って写真を見ると、、、興味深いなあと思う写真の大半が、一日目の写真でした。

頭で理解できるすっきりとした分かりやすさだけでは生み出せない何かがあるのだなあ、ということを
痛感しました。そして、「多様性」には、そうした価値があるのではないかとも。

自分が慣れ親しんだ考え方や感覚に、少しざらりと触れるものを、真っ向から否定するのではなく、ま
ずは受け入れてみる。そうして視点を変えることで見えてくる、思いもかけない組合せから、興味深い
ものが生まれてくる可能性があるのではないだろうか。特に、新しい価値を生み出すことを目指して
いるときには、こうしたことに自覚的である必要があるんだろう、と自分の写真を見ながら考えました。

+++

すっきりとした朝焼けの写真やキンと晴れた上高地の写真が陳腐に見えてしまったことは、もちろん、
私の技術不足も大きな要素です(自覚しております・・)。シンプルさをシンプルなままきちっと表現す
る(実行する)ことができる技術を身につけることもとても大切なこと。その点について努力することは
怠りたくないものです。一方で、自分では想像できないものに出会うためのフットワークと、違和感を
受け止めてみる柔軟な感覚も同時に磨いていきたいとも思います。

これはきっと写真だけではなく、ビジネスの世界でも役立つ考え方なのではないかと、と思います
が、いかがでしょうか。

(2013年3月7日)
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