第118回 「経験」と「想像力」について思うこと


思うところがあり、2月から早めに出社しています。そのためフロアを掃してくださる方と毎日顔を合わせるようになりました。

机の前に貼ってある私の犬の写真が、その方の愛犬の犬種と似ていたようで、挨拶だけではなく、言葉を交わすようになりました。

そこで私に起きた変化があります。ごみ箱にごみを入れる時に、丁寧に入れるようになったのです。基本的にはごみの分別が必要ですし、多くの資料等はシュレッダーや適正な廃棄をしますから、席の横にあるごみ箱に捨てるごみはそれほど多くはありません。それでもたまに出るごみを、それまではポイっと何気なく投げ入れていたのですが、ちゃんと置くように入れるようになりました。

「私がごみを捨てる」「その人がごみを回収する」という流れは何も変わっていません。当然、誰かがごみを回収しているということは知っていました。変わったのは、私がその人と話をしたか否かの違いだけです。

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昨年病気になったとき、副作用の強い薬を飲むことになりました。その薬は「すごく苦い」と評判で、服用を始める前は、会う医師、看護師さんに何度も「苦いですよ」と言われました。そこでふと思ったのは、「実際の患者ならともかく、医師や看護師さんたちは、この薬を実際に飲んだことがあるのだろうか?」ということでした。ある意味で劇薬、医療関係者とはいえ、必要がなければ絶対に口にしたことはないだろうと。

でも、彼らは自信を持って「苦い」と言っている。加えて、医師や看護師さんたちは、私の病気になったことはありません。でも痛みの話や起こりうる症状について、当事者である私に「教えて」くれるわけです。当たり前のことなのですが、同時に少し不思議な感じがしました。

そんなことが気になってから、私がどんな風に痛みを感じているのか、どんなふうに回復しているのかについて、できるだけ医師や看護師さんに話すようにしたのです。そうすると、面白いことに、大きく二つのグループに分かれました。

「また、患者さんが愚痴を言ったり、自己主張している」とほとんど聞かない人たちと、「ふーん、そんなこともあるんだ」と興味を持って話を聞こうとする人たち。

当然、私を含めて多くの患者が愚痴を言います。「辛いから同情してほしい!」という気持ちからいろいろなことを報告したりします。そんなことすべてにいちいち対応していたら、忙しい仕事を回しきれるものではありません。

しかし、頭でわかっているけれど、経験がないことは、実際に経験した人から情報を得なければ、リアルに理解することができないのも事実。そのことに自覚的であるか否かが、その人の仕事の質を決めていくなあ、と感じました。

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未経験のことをまったく理解できないとは決して思いません。逆に経験だけに頼っていたら、狭い世界から抜け出せないし、世界を狭めていってしまうでしょう。(「経験」は自分の主観から逃れられないし、時間の経過の影響を受けますから。)

大事なのは、どれだけ想像力を膨らませることができるか。そのために、実体験のないことに関してどれだけ謙虚に人の話を聞いたり、観察することができるか。

4月はいろいろな新しい出会いがある時です。そんな出会いに、これまでの自分の認識だけで、瞬時にレッテルを張ってしまわないように、最初から耳を閉じ視野を狭めてしまわないように。そんなことを肝に銘じて、新年度を迎えたいと思います。

(2013年3月27日)
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