第13回 ”このご時世”に『健康管理センター』を自前で持つべきか?

今回は、「人事のコスト」をどう考えるのか、について、引き続き『Beyond HR』から学んでいきたいと思います。

これまでの話は、こちらから。
第9回 「タイヤ的重要性」と「デザイン的重要性」の違いが明確になっていますか?
第10回 社運をかけた競争に、「組織」「人材」の責任者ができることは何か。
第11回 超えられないと思い込んでいる「境界線」を越えてみる
第12回 相乗効果と組み合わせを見逃さない

実はこの「Beyond HR」という本において、Efficiency(効率性)は最後の最後で扱われています。

以前からのまとめにもなりますが、著者たちは、人事が制度やその運用を考えるときの順番として、

Impact (影響力) → Effectiveness(効果) → Efficiency (効率)

を推奨していて、実際にその順番で目次が並べられています。

皆さんの会社の人事ではわかりませんが、確かに新しい制度を導入するとか、新しいシステムと導入するとなった場合には、まず「効果」と「効率」に飛びついてしまう、というのは珍しいことではないのではないでしょうか?

それはある意味、無理からぬことでもあります。

人事に関するコストはしっかりと会計システムに記録されているのが常ですが、その結果のメリットは明示されていないからです。

そんなわけで、人事に関する費用は基本的に「コスト」として扱われ、従って効率化の枠組みの中に入ってしまう、というのです。

しかし、基本的にすべての人事にかかる費用を、直接的な費用対効果の対象、効率化の対象とし、同業他社との単純なベンチマーキングを指標として取り扱ってよいのか? と著者たちは疑問を呈します。

それが、本の目次を敢えてビジネスに対する「Impact」から始めた理由、というわけです。

そこで、BI(ビジネスインテリジェンス)のソフトウエアベンダーであるSAS社の事例が紹介されていました。

「健康管理センター」についてです。

SASの「健康管理センター」は、1984年に創立されました。2005年時点で、59名のメンバーを擁し、48908名の従業員が訪れたといいます。

2005年当時のアメリカのビジネストレンドを見ると、従業員の健康管理に関する費用はできるだけ引き締めるか、アウトソーシングをするなど、経費削減の対象とするのが一般的でした。

そのトレンドに反して、SASは健康管理センターを保持します。他の企業が上記のような状況ですから「ベンチマーク」的にみると、SASの人事業務の「コストパフォーマンス」は低い、と判断されるわけです。

さて、BI(ビジネスインテリジェンス)のソフトウエアベンダーであるSASにとっては、既存顧客の毎年のリニューアルが利益の大きな源となっていました。

そのために、従業員は、各顧客独自の競争優位性や業界の要請といったものを深く理解したうえでの、顧客毎に適した提案やサービスが求められていました。

つまり、どれだけ業界のことを深く理解しているか、そしてクライアントと長期にわたる信頼関係を築けるかが、非常に重要となるわけです。

そうした人材を確保し続けるための仕組みの一つとして、「健康管理センター」が位置付られるわけです。

SASで定年まで働きたいという人にとっては魅力です。そしてその存在は、「SASは従業員との長期的な関係を望んでいる」というメッセージとなります。

実際に、当時のSASの自主退職率は5%を切っていたといいます。

他のソフトウエア企業では、18−20%が平均、という中になかにあってです。

もちろん、長期的な雇用が保障されることと、従業員の質の向上は必ずしも常に両立するわけではないという意見もあるでしょう。(従業員の同質化など)

また、革新的な発想を期待したり、既存事業以外への進出を考えた場合の人材確保をどうするのか、という問題もあるかもしれません。

しかし、「顧客との長期的な信頼関係」「各業界への深い理解」という競争優位性を保ち続けるために、人事は何ができるのかと考えた結果が上記の話であり、その目的においては、十分な成果をあげている、ということです。

「健康管理センター」に限らず、SASは間違いなく、同業他社と比較して人事のプログラムに高いコストをかけていました。

そして、当時の副社長は、この決断はSASのビジネスモデルと長期的な人材マネジメントを考えると合理的だったと言い切ります。

それが、同社の競争優位性を支えるための重要な投資と、明確に位置付けられているからです。

「人事のコスト」というと、一般的、もしくは無条件に削減の対象になり、人事に関する指標というと、「一人当たり採用費」、「全従業員に対する人事関連要員の比率」や、「総経費に対する人材関連費」といったものに注目がいきがちです。

しかし、発想を「ビジネスに与えるImpact」ということからはスタートした場合には、人事担当者の役割として、必ずしも、会計システム上の人事関連コストの削減だけが正解ではない、ということが主張されていました。

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こう考えていくと、人事というのは経営そのもの、という思いに至ります。

では、人事の問題を突き詰めていき、それが根本的に経営の問題だという地点にぶつかったとき、人事担当者や人事部門のTOPは何ができるのか。

既存の「人事部」という枠組みを、少し見直す必要があるかもしれません。

皆さんはどう考えられるでしょうか?

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* 今回の話は、”Beyond HR , New Science of Human Capital”
John W. Boudreau/ Peter M. Ramstad の内容をベースに、当メールマガジンの
編集人がまとめたものです。

* 英語の書籍からの引用のため、当メールマガジン編集人の責任において翻
訳をして執筆しています。原書のニュアンスを伝えきれない内容があった場合
の責任は当編集人に帰します。

(2008年2月22日)

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