第16回 成功する組織に絶対的リーダーが不可欠か?

前回に引き続き『監督に期待するな』(中竹竜二<早稲田大学ラグビー部監督>著)、および、NB Online 「中竹監督に学ぶメンタルマネジメント術」から。

中竹監督の話は、読み返せば読み返すほど、「なるほど」というヒントに溢れています。

ということで、これまで、

固有の『理想のチーム』などない」「日本一オーラのない監督

という話を紹介させていただきました。

今回は、成功する組織に絶対的リーダーが不可欠か?ということを考えてみたいと思います。

***********************************************************

昨年度の早稲田大学ラグビー部には、五郎丸 歩(という大学ラグビー界のスーパースターがいました。

中竹監督いわく、「五郎丸は理論もプレーも別格の存在」だということです。

その五郎丸がいなくなっても勝つためにはどうしたらいいか、中竹監督は考えました。

ご存じのとおり、ラグビーはあたりの激しいスポーツですから、どんなに注意をしたとしても、レギュラーレベルの選手たちが全員無傷で1年のシーズンを終えることができると考えるのは楽観的にすぎます。

特に、チームの要である選手が突然怪我で退場したら・・・そのことを考えるのは組織の長として当然のリスクマネジメントと言えるでしょう。

そこで中竹監督が考えたのは以下のようなことだったといいます。

キーマン(五郎丸)がチームに与える影響を考えたとき、「象徴」「ゲームパフォーマンス」「リーダーシップ」「脅威」がキーワードだ、ということです。

しかし、それらの4要素を持っていることが五郎丸選手を「別格」にしている所以なのですから、同じものをひとりの人間に求めても、満足できる結果を期待するのは難しいのは、素人の私でもわかります。

そこで中竹監督がとった施策は、それぞれのキーワードに強い4選手を組み合わせて、4人の組み合わせとして五郎丸選手の役割をカバーする、というものでした。

そうすることで、五郎丸選手を欠くという事態になっても、相手チームがいつも彼から受けている影響を保とうというわけです。

中竹監督の「コーチ」を務めている平本相武氏(株式会社ピークパフォーマンス代表)は、

「オーナー経営の中小企業では、製品の大半を売っている敏腕営業担当者とか、ヒット企画を1人で連発している優秀な企画担当者とか、そいつが抜けると会社がつぶれちゃうような会社が山ほどあります。

でも、その状態にしておくのはまずいですよね。

中竹監督の4つのキーワードではないですが、キーパーソンの事業インパクトを検証・分解して、お前はこの役をやってくれ、お前はこっちの役をやってほしい、としてちゃんと2番手、3番手を用意しておくべきですよね。」

(NB Online 中竹監督に学ぶ メンタルマネジメント術 第1回「監督の仕事はイメージ業だ」より)

とビジネスへの応用を示唆しています。

********************************************************

また、人の組み合わせと組織の成功について、『監督に期待するな』のなかに、考えさせられる話が出ていました。

早稲田大学ラグビー部にはAチームからDチームまで、4層のチームがあり、選手たちはそのパフォーマンスに応じて上下を移動するといいます。

選手たちは、ひとつでも上のチームで戦うということを目標に日々の練習に邁進しているわけで、定期的に行われる入れ替えの発表にはいろいろな思いが渦巻いていることは想像に難くありません。

もちろん、基本的には「いいプレー」をしている選手が上へと上がっていくわけですが、実際に誰が上がるのか、という選択においては、今の上位のチ
ームにとって今どんな力が必要とされているのか、も重要な要素になるといいます。

中竹監督はあるとき、皆が「次は必ず上にあがるだろう」と考えていた選手をはずして、他の選手を選ぶという選択をしました。

はずされた選手をA、上がった選手をBとしましょう。

総合的にみて、誰の目からみてもAのプレーはBよりも上でした。

しかし、中竹監督はあえてBを選んだ。なぜか。

それは、今上位のチームに決定的に欠けていて、早急に必要だったのがリーダーシップであり、Bはリーダーシップをとれる選手ではなかったからでした。

逆に、Aはこれまでに何度もリーダーシップを取る立場を経験していました。

「チームとは人間の組み合わせだ。走るのが速い選手が必要なときもあれば、足は遅くとも献身的なタックルが得意な選手が必要な場合もある。

同じように、リーダーシップが評価の基準になるときもある。

だから選手にはその時々に必要とされる存在になれるようスタイルを持てと口うるさくいっているのだ」 (『監督に期待するな』より)

従って、Aには、今回のことにショックを受けて無理にリーダーシップをつけることに時間を割くのではなく、彼の強みであるプレーのパフォーマンスを上げ
ることに集中するように伝えたといいます。

「スタイル」については、こちらを参考になさってください。

************************************************

何でもできるスーパー人間など、本当に一握りしかいないでしょう。しかし、一人一人には、ひとつ二つは何か光るものがあると思います。

しかし、多くの人はどうしても、自分の中で「光っていないもの」、他人が持っている「光っているもの」に目を奪われて一喜一憂しがちです。

そして、それを手に入れようと、必死にもがいたりします。

もしくは、「自分はこの程度」「どうせ、あいつにはかなわない」と諦めてしまう。

それでは、一人一人も常に自分の不全感を向きあい続けることになります。そうした人たちの集まりである組織が成功するとは思えません。

そうした環境に、「絶対的なリーダー」が舞い降りれば、短期的な成功は望めるかもしれません。しかし、その人がいなくなった時点で振り出しに戻ってし
まうという、危うい成功でしかないでしょう。

「絶対的なリーダー」や「夢のスーパー人間」がいなかったとしても、組織に求められている要素と、個人個人の強みを把握し伸ばしていくことで、継続的に成功していくことができるのではないか、と思いますが、どうででしょうか?

もちろん、そうなるための前提条件はたくさんあると思いますが・・・長くなってしまいましたので、今回はこのあたりで。

人の組み合わせと組織の成功、そして個人の幸せというのは私の大きなテーマの一つですので、引き続き追及していきたいと思っています。

(2008年4月4日)

破壊と創造の人事

無料メール講座

イベント・セミナー一覧一覧

気になるセミナー・イベント、研究室管理者が主催するセミナー・イベントを紹介します。

スペシャル企画一覧一覧

特別インタビュー、特別取材などを紹介します。

ご意見・お問い合わせ

Rosic
人材データの「一元化」「可視化」
「活用」を実現する
Rosic人材マネジメントシリーズ