第17回 2020年までに人事部がなくなる?

今回は、プライスウォーターハウスと英国オックスフォード英オックスフォード大学経営大学院のジェームズ・マーチン研究所が共同で実施した研究について。

2008年1月31日に、日本のプライスウォータハウスクーパースHRSが開催したオープンセミナーのレジュメをいただくことができましたので、そこで学ばせていただいたことを共有させていただこうと思います。(Yさん、ありがとうございます)

研究レポートのタイトルは、

「Managing tomorrow's people: The future of work to 2020」。

2020年には、人事のあり方や人の働き方はどうなっていくのかを調査をもとにまとめたものです。

簡単なサマリーは、こちらから読むこともできます。

「人事部の役割とは?」と考えていた私にとっては、非常に興味深いものでした。

少し理屈ぽい話になりますが、同じ興味をお持ちの方は少しお付き合いください。

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2020年には、企業(ビジネス社会)のあり方が大きく3つの方向に向かうだろう、という認識がベースにあります。

ひとつは、「Blue World」。これは、「大企業の資本論理がルールとなり、組織は拡大、社会的責任は個々の信条にゆだねられる」世界。

ふたつめが、「Green World」。こちらは、「人口動態、気象変化、持続可能性がビジネスドライバーとなり、企業の社会的責任が最優先される」世界。

みっつめが、「Orange World」。ここは、「企業は小さな組織の連携ネットワークに分解しはじめ、専門家が経済を支配する」世界。

そして、それぞれの世界では、いわゆる「人事」が求められる役割が、当然異なってきます。

たとえば「Blue World」。

ここでは、組織としての統率が求められますから、人を扱う部門としての人事は、人と業績のリーダーとして経営に強い影響力を持つことが必須となり、そのために数値的なものも含めた戦略的な管理をしていくことになります。

一方「Green World」。

こちらでは、社会や環境との関係が重視されるため、人事部は「人と社会部(People and Society)といった名前で呼ばれるにふさわしい役割を果たすことが求められます。

「Orange World」は、組織的な動きではなく、ネットワーク的な動きが主流となる世界。

そこでの人事部は社内人材の管理というよりは、社外も含めた流動的な人材ネットワークを把握し、必要な人材を必要なときに調達する、といった働きをすることになります。

これらは、単に西洋生まれの「未来予想図」として片づけることはできないように感じています。

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実際に、最近読んだ記事では、人事部機能を、CSR部(企業の社会的責任を担う部)の中に入れてしまい、「人事部」なるものを廃止してしまった企業があるというのです。

積水化学工業です。

「人事部は人事部で人事考課をつけたり、異動させたり、社員を管理することが仕事と思っている。でも、僕に言わせれば、そんなのは仕事ではない。本人の持っている能力や可能性は氷山のようなもの。海の上に出ているのは1割程度でしょう。海の下に潜んでいる9割をどう発揮させるか。そういうことをやろうよ、と言っている」(積水化学工業・大久保尚武社長)

その根本にあるのは、

「格好よすぎる言い方かもしれませんが、従業員は社会からの預かり物。従業員にいい仕事をしてもらうということは、文字通り、企業の社会的責任です。この理念をベースに置きたい。それで、あえて人事部をなくしちゃったんですよ。」(同氏)

という考え方。

ビジネスの環境や人の働きを見た結果として、「Green World」で求められるような「人事」のあり方を実践しはじめている企業があるわけです。

(詳しくはこちらで読むことができます。)

「Managing tomorrow's people: The future of work to 2020」の大元のレポートを読んでいないので、ここからは私の私見です。

おそらく、「Blue」「Green」「Orange」の世界の要素というのは、どれかひとつに収斂されるものではなく、激変するビジネス環境の変化に応じて選択していくことになるのでは?と思うのです。

そしてそれぞれの世界(もしくはミックスした世界)で成功していくために「人を考える(扱う)」仕事の要素も多様化し、変化していく。

そのことを、多くの企業は真剣に考えていく必要があるのではないかと。

それが、ひとつの組織としてまとまっているか、分割されているかに関わらず、です。

少し前にこのメールマガジンで何回にもわたって取り上げてきた『Beyond HR』での話も、これらと通底することが多いと感じました。

人事にITを活用する、という仕事をしている私は、基本的に「Blue」的世界に身を浸していますが、「Green」「Orange」の世界でできることは?といった視点をもっと持ってみようと思った次第です。

なんとなく、ですが、多くの企業が「Blue」の入り口(単純な管理)でとどまってしまうケースが多いような印象を持っているのですが。。。

是非、一度、サマリーを読んでみてください。 

皆さんはどう思われますか?

(2009年4月18日)

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