第18回 人気監督はなぜ解任されたのか

私は、プロ野球というものはほとんど見ませんが、ニュース番組に続いてはじまったスポーツコーナーなどを見ていると、、今年は「楽天」が話題になっているように感じます。

東北楽天イーグルスは、2005年に、実に50年ぶりにリーグに参入した新球団。最初の年は、38勝97敗1分というダントツの弱さからスタートしました。

4年目の今年、4月3日に球団始まって以来始めて、リーグ1位に浮上したということで新聞やテレビを騒がせていました。
(ちなみに、4月30日現在で2位)

今回は、そんな東北楽天イーグルスの社長である、島田亨氏の本から、組織を考えるにあたって学ぶことがあったので、それを共有させていただきたいと思います。

『本質眼』島田亨 アメーバブックス

野球に興味のない方にも参考になる点があるかと思いますので、お付き合いください。

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2004年11月に新規参入が決まった楽天イーグルスは、翌年の4月の開幕までのたった5カ月間に、チームの体裁を整えて、リーグに参戦しなくてはなりませんでした。

そんな中で初代監督に選ばれたのは、田尾安志氏。現役時代は、中日ドラゴンズ、西武ライオンズ、阪神タイガースで活躍した外野手で、イチローが子供のころに憧れた選手として知られています。

徒党を組んだり派閥をつくったり、上に迎合することを潔よしとしないストイックさがあり、そんなところからファンからは絶大な人気を得ました。

しかし、1年目の結果は上記の通り、38勝97敗1分。ダントツのビリ。

そして、1年で監督を解任されます。

この解任には、ファンが反発をして、仙台市内で解任反対の署名活動を行ったほどでした。

「田尾監督解任」がわかった直後の試合では、「田尾やめるなー!」「フロント、お前が辞任しろ!」という悲鳴と罵声が飛び交い、試合終了後も20分にわたってファンの「田尾コール」が続いたといいます。

短期間でのリーグ戦参戦。「十分な戦力を与えられないままに負けた」「誰が監督であっても勝てるはずがない」にも関わらず、その責任を監督だけに押し付けるなんて、田尾監督はかわいそう過ぎる、という気持ちがファンの中にあったのでしょう。

確かに、他のチームの戦力と比較して、誰に目にも明らかなくらい乏しい選手陣だったようです。

当時、私自身もその報道を目にした記憶がありますが、「田尾を解任したのは、楽天オーナーである三木谷だ」と騒がれていました。

そしてそれは、「ずいぶん短気で、非情なことをするものだ」、いう非難のニュアンスが含まれていたように思います。

しかし、実際には、最終的に田尾監督の解任を決めたのは島田氏でした。三木谷氏は、絶大な人気を誇る田尾氏に残ってもらう方策を考えほしいと言っていたそうです。

「初年度の戦力には、限界がありました。選手は皆、必死に戦ってくれましたが、仮に田尾さん以外の人が指揮を執っても、恐らくは同じような結果になっていたでしょう。

では、来年からどうするか。田尾さんの目指している野球がどんなものなのか、社員も、ファンも、今ひとつ分かっていませんでした。」
(『本質眼』より)

そこで、田尾監督に、どういうチームをつくっていきたいのか、今考えていることをレポートにまとめてもらうことにしたといいます。

それをもとに、来年、再来年どのように戦い、チームの力をつけていけばいいのかという話し合いを持つということだったのですが、そこに書かれていたのは、基本的に「負けたのは戦力がないから」というものでした。

フロント「例えば、今の戦力だったら、彼らをどのように使っていきますか?」
監督「今の戦力じゃあ、どう戦うも何もないんです」

といった押し問答が繰り返されたといいます。

「なぜ負けたかということは分かったけれども、そこからどう動けばいいのか、どうしたら勝てるのかとい方向は、残念ながら見えてきませんでした」(『本質眼』より)

「『5年は我慢してください、5年経ったときにはプレーオフに絡むチームをつくります。エースと4番で勝つのでなく、ロッテのような形を目指しましょう。・・・(中略)・・・あと、2軍のトレーニングもしなければならない・・・(後略)』

例えばこんなふうに、ある程度現実的なビジョンを描いてくれたなら、それに対してどれくらい投資すべきか、どれくらい期間を待ってみようか、というディスカッションになったと思うのですが、」(『本質眼』より)

「分かりやすく言えば、『成績が悪かったから解任をした』のではなく、中期的に見たときに『現在のチームにとっては、経験豊富で、一から強いチームをつくることを得意とする人物が必要』という判断をしたということです」(『本質眼』より)

その結果、野村克也監督が選ばれ、3年後の今年、シーズンが始まったばかりですが、首位に立つような場面も出てくるチームとなりました。

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この話は、組織を運営していくための2つのヒントを含んでいるように思います。

ひとつは、負けたこと(うまくいかなかったこと)の原因追求だけを考えていても、先には進めないこと。

ふたつめは、現状と目指すゴールと、現在のリソースの組み合わせによって、必要となる「人材」は異なるということ。

こういってしまえば、「そんなことは前からわかっている」という感じもしてしまいますが、

実際、楽天イーグルスの2年目をどうするのか、といった大きな課題が突きつけられたときにも、「人」の配置を決定する人間として、この2つを念頭に合理的な決断ができるか。

監督はファンに絶大な人気があり、選手時代はスタープレーヤーであり、自チームの戦力は誰がみても勝てるような代物ではない。さて。

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これを、企業人事に置き換えてみれば・・・

課長は年も若くメンバーから慕われており、現役時代は社内中が知る営業成績を残している。現在のメンバーは若手しかおらず、課の営業成績は最低である。

課長は、「経験不足のメンバーが多いから、現在の課の目標は非現実的だ。今の状況でも仕方ない」と思っているふしがある。

私たちが部長や、もしくは人事責任者の立場だったとしたら、島田氏のような決断ができるだろうか、と考えさせられます。

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たまたま見つけたこの島田氏の本、楽天イーグルスの経営の話だけでなく、氏のリクルート時代、インテリジェンス設立から上場までの経緯なども書かれており、一気に読んでしまいました。

この他も参考になる話がありましたので、機会があればご紹介したいと思います。

アマゾンで調べると、中古本しかないようですが、ビジネスのヒントの基本を改めて考えさせられる本だと思います。

ご興味があれば是非。

(2009年5月2日)

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