第24回 「王様のレストラン」のパテシエは職場を去るべきか?

突然ですが、「王様のレストラン」というTVドラマを覚えていらっしゃいますか?

今年の5月から、野村総合研究所が、ワークショップ・サービス「Dramatic Dialogue(ドラマチック・ダイアローグ)」というサービスの提供を始めたそうです。

これは、野村総合研究所とフジテレビが、テレビドラマを題材とした組織力強化サービスの手法を共同で開発したもの。

参加者がテレビドラマの視聴を通して共通疑似体験と意見交換をすることによって、組織力を強化することを目的としているようです。

その第一弾のプログラムが、「チーム・ビルディング@王様のレストラン」。

フジテレビ系ドラマ「王様のレストラン」(放送:1995年、制作:共同テレビ)が題材です。

4月にそのニュースを聞いてからずっと気になっていて、先日、とうとう「王様のレストラン」のDVDを買ってしまいました。

13年前のTVドラマ、舞台はレストラン、コメディ要素がふんだんにふくまれた、ちょっと大げさなストーリー。

それにも関わらず、想像以上に組織のことを考えるのに、非常に示唆に富んだものでした。

野村総合研究所が、チームビルディング研修の第一回目の題材に選んだのには理由があったのだと、実感した次第です。

また、最近、『「王様のレストラン」の経営学入門』という本が放映から1年後の、1996年に発行されていることも発見。

『「王様のレストラン」の経営学入門』(川村尚也著・扶桑社)

「コーチング」や「モチベーション」、「キャリアカウンセリング」といった考え方がまだ日本に浸透する前の出版ですが、小規模のチームをまとめあげ、個人が成長を促していくためのヒントが書かれています。

今回は、「王様のレストラン」の第10話で、組織を考えていくうえで考えさせらるエピソードをご紹介したいと思います。

ご存じの方も多いかと思いますが、前提を少しだけ説明させていただきます。

「王様のレストラン」は、父から引き継いだフレンチレストランを立て直すために、若くて熱意だけはあるオーナーが、「伝説のギャルソン」と呼ばれたギャルソン(ウェーター)を呼び戻し、レストランの再建に邁進する、というお話です。

様々な問題を乗り越えて、夢(一流のレストラン)の一歩手前まできたとき、唯一の弱点として、パテシエ(お菓子担当)の能力の平凡さが問題になる、というのが第10話のテーマ。

ある雑誌でレストランが取り上げられ、非常に好意的な記事を書いてもらうのですが、唯一残念な点として、デザートの平凡さを指摘されてしまいます。

一流のレストランを目指すためにレストランに招かれ、やとここまできたと更に夢に邁進しているギャルソンは、

「あと一歩で、一流のレストランになれる。そのためには平凡なパテシエをや
めさせるべきだ」

とオーナーに進言します。

しかし、オーナーは店が潰れかけたときから一緒に苦労してきたパテシエをやめさせる気はなく、

「他の人を雇って店が評判になっても、何の意味もない。今のメンバーで店を一流にしてみせる」と言い切ります。

そして、仲間を辞めさせるくらいなら、「一流にならなくていい、そこまでして一流になりたいと思わない」といい、レストランを立て直すために、自分の給料を削ってまでして雇ったギャルソンと決裂をしてしまいました。

さて、皆さんならどう考えるでしょうか?

パテシエ一人を取り出せば、その能力とセンスは他店のライバルと比較して負けるところが多々ある、ということは明白なのです。

たったこれだけの情報、しかもTVドラマのシナリオをベースにしていますので、「これが正解だ!」というものは決められないと思います。

しかし、

「一流とは何か」「いつを目指して一流になるというのか」「そもそも、チームが生み出しているユニークな価値はなにか」といったことを考えると、実際のチーム編成・運営へのヒントがあるのではないかと感じたのです。

この話に私がひっかかったのは、「いつを目指して一流になるというのか」時間軸の面でした。

弱点となっているポジションに、その能力やセンスを持っている人をポンと入れれば、そのポジションがカバーしているエリアの質を一瞬にして上げることはできるでしょう。

しかし、この方法を安易に使ってしまうと、弱点を既存のリソースでカバーしていくというチームのダイナミズムを育むことはできないのでは?

つまり、常にすべてのポジションでベストの能力をそろえ続けないかぎり、競争を勝ち抜けないという認識が、チーム運営のベースになってしまう可能性をはらみます。

一方、「今あるリソースでまず何ができるのか」をチームで考える文化を育むことができれば、一時期リソースが欠ける、能力が十分開発されてない人があるポジションにつく、といった、通常の会社組織では起こりうる状況に対応することができます。

その場合、今すぐには一流にならなかったとしても、将来「一流であり続ける」という状態をつくることができるのではないか。

そういう考え方が取れないか、と思ったのです。

ちなみに、TVドラマでのひとつの結論は、

「一流にもいろいろある。働いている人の人間性が一流である、ということも一流のかたちのひとつ。人間的に一流の人が集まっているこの店は一流と考えることができる」というもの。

どうでしょうか? 

また、前出の『「王様のレストラン」の経営学入門』では、

「『人の能力と性格は変わらない』と思い込んでその成長を見切ってしまう人は一部の人しか信頼できない。・・・・信頼が生まれると、チームは難関にチャレンジできるようになる。

一人一人のメンバーが今の自分の能力と仲間の可能性をしっかりと理解すれば、『自分ではここまではできる自信があるが、それ以上は確信が持てない。でもあとは仲間を信じてまかせる』という発想が自然と生まれてくる」

と、「人の能力と性格は変わらない」という人間観の限界と、それらは変わるのだ、という人間観の可能性を説いています。

皆さんは、このような場面に人事権を持つものとして直面したときに、どのように考え、行動されるでしょうか?

ばっさりと、能力とセンスが感じられないパテシエを交替させるでしょうか?

長くなりましたので、今回はこのあたりで終わりにしたいと思いますが、書籍・DVDともに考えさせられる話がつまっていました。

それらは、「また別の話」でご紹介したいと思います。

(2008年7月11日)

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