第30回 桜と庭づくりから学ぶこと

時期はずれではありますが、桜の話をさせていただければと思います。

急激な環境の変化で、元気がなくなった桜に、一般の人たちがしがちな対応についての実話から。

「このあいだも、仙台から、桜が弱ったから来てくれという手紙がきたので見にいったら・・<中略>・・問題の桜はたまたま民地のほうにあって、そこへ家を建ててから急激に弱ったという。・・<中略>・・

まわりを見ていると、家を建てるときに、根をひっかけて切っているんです。水口も変わっている。それでその年は早ようからボロボロと葉を落としていました。

それでこれはいかんといって、水をたっぷりやったというんです。こんな木になんで水をやるんやて、わしは言ったんですわ。根腐れしているのと同じことなんです。

この桜の根の先はずっと向こうにあって、そこから養分を吸うておるのやから、こんな幹の根本に水をやったって、かえって腐らすといったんです。」

これは、先日たまたま読む機会のあった『桜のいのち 庭のこころ』という本のなかからの引用させていただいたものです。

(『桜のいのち 庭のこころ』(佐野藤右衛門・著))

佐野氏は、京都・仁和寺出入りの植木職「植藤」の十六代目。

十四代目から続く遺志を継ぐ形で、日本の桜が滅びでしまわないように、日本各地の名桜の保存に努め、現在約200種を保存していることでも有名な方です。

庭、そして桜という視点から見た、「木が育つ」ための知恵は、今、「若い人がやめてしまう、なかなか育たない」という悩みを伺うことが多い私にとって、直接・間接に沢山ヒントがつまっていました。

今回は、その一部を紹介させていだきます。

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「うまく育てるには、まず放ったらかしにすること。それから根の環境をうまくしてやること。」

「木は四方張った先のところの、ちょうど真下まで根が張っているんです。だいたいそそこから栄養分を吸うんですわ。・・<中略>・・

それを勘違いして、根元に栄養分をやるから、木が根を伸ばさんわけですわ。必要がないから。すぐそばから栄養が吸えるもんやから。栄養があるもんやから頭ばかり伸びるんですわ。」

「日本人の子供の教育のしかたと一緒でっしゃろ。こんなんですから、ちょっと大きな風が吹いたら、ゴローンとひっくり返る。これは根張りがないからです。伸ばす必要がないから。」

<どこに、どういう風に栄養(サポート)を与えることが、長年にわたって成長する木を育てるコツなのか。>

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「つくった庭というのはずっと見てやらなあきせませんわ。みなさんはこれを手入れするといいますな。手入れをするからあきまへんのや。

守りをせなあきまへんのやわ。

守りをするというのは、子守もそうですけれど、子供の性格がわかるから守りができるんです。

手入れをするというのは散髪をするようなものです。きれいに切りそろえたらいいんですから。それはそのときだけよければいいということですやろ。・・<中略>・・

守りというのは、さっき言うたように、相手がわかるから守りができるのですわ。」

<長期的に、木を、そしてその集まりである庭をそのときどきに合った状態にさせ続けるためには、どういう考え方を実行すればよいのか。>

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「いっぺんに寒さに打たれると、木の芽はしっかりしよるんですわ。こういう寒い年の(平成八年:筆者注)の木の芽の出方というのは、みなグッと強く出てくるんですわ。・・<中略>・・

冬に雨の多い、温かい年の芽はニューっ伸びて、夏になったら、枝枯れが起きてボロボロしよる。寒い年の芽はそれが少ないですな」

<新しい芽が力強く育つ環境とは?>

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「人間にはそれぞれに天分というもんがあるんですな。その天分をうまく使えばええのやけれど、それを人はみんな平等やというて、何でも同じようにするから、おかしくなるんですわ。・・<中略>・・

木を植える人が上手な人とか、枝を透かすのが上手なものとか、石を組むのがうまい人とか、いろいろいりますわ。それを上手に使わなければ、仕事は平等やなんていうていたらできませんわ。・・<中略>・・

一人で全部、何でもやらなくてもいいんです。できることをやれば、みんなのためになるんですから」

<組織と個人が成功すること本質について。>

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「人をしっかりと知ること」の重要性。いい意味での距離感を保つ(手を入れるのではなく、「守る」)効用。失敗・逆境の力。強い組織の条件。

経営として、人事としてこういった視点で人の配置、教育を考えられているのか。桜と庭づくりの話として読みながら、思わずチェックをしてしまった言葉たちです。

案外こうした根本的な自然の真理に、現状を打破するヒントが潜んでいるのかもしれない、と思えたのです。

その他にも、インスパイヤされる言葉がちりばめられている本でした。

ご興味があれば、是非。

今回参考にさせていただいた本や資料

『桜のいのち 庭のこころ』佐野藤右衛門・著(草思社)

(2008年10月3日)

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