第31回 未経験の力と経験の価値

仕事で、人事部長・課長というポジションにつかれている方にお会いする機会は少なくありません。

そこで、最近気がついたことがあります。

それは、人事畑一筋、という方よりも、別の部署を長く経験されていて、最近人事セクションに異動してきた、という方とお話する機会が多い、ということです。

そして、それらの方々は多くの場合、人事(私の守備範囲では「人事とITという関係」ということになりますが)という領域で、どんな新しい動きが出てきているのかを知っておきたい、ということから、お忙しい時間を私たちに割いてくださった、と口にされるのです。

おそらく、そうした人事異動の背景には「今の人事制度を見直してほしい。そのためには外からの血を入れよう」という経営の意図があり、もともと新しいものをどんどん取り入れてみようと考える意欲の高い方が選抜されているという側面はあるでしょう。

ただ、ご本人たちの意識として「人事業務経験が浅いから、とにかく勉強をしていかなくては」という意識を持たれているのだと感じます。

「未経験の力」、ではないかと思います。

経験が長い方を否定する意図はまったくありませんが、「自分はわかっている」と思ったときには出てきにくいパワーや視点が、こうした方々にはあるのではないかと感じます。

最近読んだ本の中に、こんなことが書いてありました。

「採用でひとつこだわっていることがあります。それは経験者はお断りするということです。」

「最初は誰だって素人じゃありませんか。キヤノンだって最初から事務機を作っていたわけではありません。

いまは、世界的な靴メーカーのアシックスだって、創業者の鬼塚喜八郎さんがバスケットシューズの製造を始めたばかりのころは、納品先でこんなものはけるかと目の前で叩きつけられるということもあったと聞きます。」

本の題名は、『経常利益率35%超を37年続ける 町工場強さの理由』

著者は、題名通り、経常利益率35%を37年(!)続け、「町工場」として初めて株式上場を果たした株式会社エーワン精密の創業者で現取締役相談役である梅原勝彦氏です。

同社の主力製品は「コレットチャック」。自動旋盤という金属製品を回転させながら削る工作機械の、削る対象を挟む部分だそうです。この市場で圧倒的なシェアを占めている会社です。

また、『町工場強さの理由』を読んだあと、「人事制度に対しての考え方が対照的だったな」、と思いだして本棚から引っ張り出してきて、再度ひもといた『好き嫌いで人事』松井道夫(松井証券代表取締役社長)・著でも、こんなことが書かれていました。

「能力が未知数の25歳と、経験豊かな45歳のどちらを選ぶかという決断を迫られたら、私は25歳の人を選ぶ。なぜか。

若い人の方が、しがらみから自由だからだ。若ければいいというわけではもちろんないが、現在のように従来の価値観が大きく変わるという激動の時代には、過去の経験則が逆に大きな足枷になってしまうこともあるからだ。」

この2社、本で示される各社の人事制度は正反対。

「当社はいったん採用した社員は特別悪いことでもしないかぎり、定年まで面倒をみます。」
「当社の給与は、いまも年功序列です。」
「私は、社員重視、株主軽視の経営だといってはばからないのです。」

とは、梅原氏。

「松井証券の年棒制には、『給与テーブル』『自動昇給』といったものはない。あくまでも『評価』によってのみ翌年度の年棒を決定する」
(2005年7月現在)
「次の社長を誰にするかは、株主が考えることである。社長は株主の使用人であり、普通、使用人の人事権を使用人に持たせることはないだろう」

と松井氏。

もちろん、業態も規模もまったく異なる2社がまったく異なったポリシー、制度を持っていることは不思議ではないのですが、本質的なところでは同じことに価値を置いているのは興味深いと思いました。

そんな風に「未経験の力」を考えていたところに、こんな記事が目に飛び込んできました。

「過去日本企業は集めた人材情報を有効に活用して、丁寧な人材活用を行ってきた。」

「だが、そうした情報が失われている。または劣化している。」

「第三<の理由>に人材情報を集め、蓄積する部署としての人事部が弱体した。」

「単に<これまでは>、社員の名前を言えば経歴や家族構成、酒の好みまで諳んじることができる名物人事部長がいただけなのかもしれない。」

「でも、多くの企業で(それなりの意味があるのだが)人事部門以外の人事部長抜擢が増えてきた。」

(< >内は筆者注)

これは、一橋大学の守島基博教授が、日本の企業では人材に関する情報が減少・劣化していることに経営者が危機感を持っていないのではない
か、という問題意識から「プレジデント」(2008/11/3号・プレジデント社)に書かれた記事からの引用です。

ああ、そういう側面もあるのか、と。

名物人事部長がいなくなったら終わり、という属人性は決してほめられるものではありませんが、血の通ったものとして人の情報を把握することの大切さは忘れがちなのではないか、と。

「経験の価値」というのでしょうか

また、とりとめのない話になってしまいましたが。。

「未経験の力」「経験の価値」を組織の中でどのようにうまく活用していくのか、という観点には考える価値があるのではないか、と思った次第です。

皆さんはどうお考えになるでしょうか?

今回参考にさせていただいた本や資料

『経常利益率35%超を37年続ける 町工場強さの理由』梅原勝彦・著(日本実業出版)
『好き嫌いで人事』松井道夫・著(日本実業出版)
・「プレジデント」2008/11/3号 
「『沈滞チーム』を救う現場リーダーの条件」守島基博・著 

(2008年10月17日)

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