第33回 奇跡のリンゴ

既にお読みになった方も多いのではないかと思いますが、先日『奇跡のリンゴ』という本を読みました。

2006年12月7日、NHKの「プロフェッショナルの流儀」という番組で、青森のリンゴ農家の木村秋則氏が紹介されました。放映後、700通のメールや手紙が届く異例の反響があったといいます。

木村氏は、世界の誰もが絶対に不可能と考えていた、無農薬でリンゴを育てるという偉業を成し遂げた方です。

私はまったく知らなかったのですが、改良に改良を重ねられた現代のリンゴは農薬なしには育たない、というのが、農業の「常識以前」の認識だそうです。

しかし、木村氏はそれを覆してしまった。

そして、そこに至るまでの道のりは、壮絶、としかいいようのないもので、その成功に実に10年以上の歳月を費やしたといいます。

是非是非、読んでいただきたいと思っていますので、その「壮絶さ」をここでは書くことを避けますが、現代にこんな人が存在したのか、そうした経験をした人の口から出る言葉とは、こんなに深く、力強いものなのか、と一瞬呆然としてしまうくらい衝撃を受けました。

今回は、この本の中で、人を育てる、組織で働いていくという観点から、思わず線を引いてしまった箇所をご紹介できばと思います。

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リンゴ農家であった木村さんが、リンゴの無農薬栽培ということを目指してその栽培に没頭した結果は、「お金が稼げない」という非常に現実的なものでした。

冬場には出稼ぎにでかけ、最後には、夜キャバレーで働くことにまでなるのですが、農業の専門家ですから、生活のために無農薬で米や野菜も作っていました。

リンゴに比べれば、無農薬で米や野菜を育てるのは優しいそうですが、利益を上げるほどの収穫を得るのには工夫がいったといいます。

ご存じのとおり、青森で米作をしようと思えば、1年に一回のこと。実際の米作で実験をしていたら、生活が成り立ちません。

そこで木村氏は、「ワンカップ」の空き瓶を200個くらい並べ、それぞれに田んぼの土を入れて、土をどう耕して、どう代かきをして、そんな環境に置いたら稲が育ってくれるのか、稲よりも生育速度の速いヒエを使って実験を重ねました。

「それぞれ生育条件を変えて育てると、200個のワンカップに植えたヒエの生育に、極端な差がついた。常識的には、土を丁寧に耕し、泥がとろとろのお汁のようになるまで代かきをするのが理想的と言われている。

ところが実験をしてみると、いちばんヒエの発育がよかったのは、その正反対の耕し方をしたカップだった。」

それは、木村氏自身が信じてきたこととも正反対だったので、同じ実験を3回繰り返したといいます。しかし結果は、すべて同じ。

そして、木村氏は自分の目の前で起きたことを信じて、次の年から耕し方を変えます。

「『何やっているんだって、周りの農家から笑われたよ。耕しているのに、田んぼの中には大きな土の塊があるわけだからな。

<中略>ところがそこに田植えをしたえらびっくりするくらい稲が育ったの』」

そこから無農薬リンゴを目指した木に少数の花が咲くまでに、9年の歳月が流れるのですが。。。

木村氏は、「バカになればいい」と言います。それは、

「人が生きていくために、経験や知識は欠かせない。何かをなすためには、経験や知識を積み重ねる必要がある。だから経験や知識のない人を、世の中ではバカと言う。

けれど人が真に新しいこと何かに挑むとき、最大の壁になるのはしばしばその経験や知識なのだ」

ということだろうと、本の著者は分析しています。

しかし、木村氏のリンゴに関する知識は、

「木村から聞いた話を、すべて書き記すには、とても一冊や二冊の書物では足りない。実を言えば、木村を取材するために、何人かの専門家に話を聞いていた。

農業の専門家もいれば、生態学の研究者もいる。その取材で得たどんな最新の知識を披露しても、木村にはかなわなかった」

というくらいの知識と、リンゴ農家30年の経験をもったうえでの、「バカになればいい」ということです。

私は、目の前にある現象を「バカになって」見ることができているか。

同時に、木村氏のような「真正のバカ」になれるほどの、知識と現場経験を得るための努力をしていると言えるだろうか。

そんなことを深く考えさせれました。

この他に、もうひとつ木村さんの考えて共有したいテーマあるのですが、それは次回にさせていただきたいと思います。

『奇跡のリンゴ』、是非、読んでみてください。

今回参考にさせていただいた本

『奇跡のリンゴ』幻冬社 石川拓次・著

(2008年11月14日)

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