第39回 「人事部門のクライアント」は本当に従業員か?

「ダン・ベネットは、人事に関連する会議から戻ると、新しい構想(仮に、業績管理に関するものとでもしておく)に対して寄せられた数々のアイディアを手にタスクフォースを招集した。

その結果、全社的な規模で、ある施策の実行に踏み切ることにした。

当初は多少の抵抗があったものの、その施策は社内に定着し、やがて人事ではそれが当たり前のこととなった。

ベネットは勝利を宣言し、施策を企画したチームは喜び勇んで次の仕事に取り掛かった。」

これは、最近読んだ、『人事が生み出す会社の価値』(日経BP社)から引用した一節です。

(この本は原本が2005年にアメリカで発売されて話題になり、2008年に日本語に翻訳されました。)

もし、あなたが人事部門の責任者だったら、この状況をどう評価するでしょうか?

もしくは、もし問題点があるとしたら、どこにあると思われるでしょうか?

私は、最初にこのケースを読んだとき、こんなシンプルな成功例を元に、何の話するのだろう、といぶかしく思いました。

そのあとに続いた、筆者の評価は以下の通りです。

「ベネット氏の例は典型的な『誤判定』、上っ面だけの成功を勘違いしているケースであり、よくいっても不完全」

そして、そのように断ずる理由は、

「人事部門の取り組みの成否は企画のよし悪しや実行によってではなく、その組織の主要な利害関係者に対する成果で決めるべきだから」だ、としています。

つまり、人事のタスクや業務を、「できること」に焦点を当てるのではなく、「成果物」に焦点を当てて考えるべきだ、というのです。

そうした筆者たちが、「成果物」を考えるにあたって、注目している対象の一つが「顧客」。

「人事は顧客を自分のクライアントとして捉える必要がある」と主張しています。

(ちなみに、その他は「投資家」「ライン管理者」「従業員」)

つまり、人事部門の仕事の成果物は、

▼ 顧客が受けられるサービスや製品の質を保証し、向上させること
▼ その結果顧客満足の上昇

だ、ということです。

その結果として、売上・利益が上がり、ビジネスの成功が導かれる。

最初のケースに戻れば、ダン・ベネットは、施策が実行されたあと、上記の観点から成果を図って初めて、勝利宣言をするべきかどうかを決めるべきだった、ということになります。

筆者たちは、人事部門の活動がそうした視点に、本当に立っているかを知るために、

「自社の顧客が、自社の人事考課の評価シートをみたときに、『これなら自分たちにいいサービスをしてくれる人たちがいそう(育ちそうだ)』と納得してもらえるだろうか」 

と、問いかけてみてはどうか、と提案していました。

「採用」についても、同様です。

「『こんな人たちを採ってくれているのなら、この会社のサービスは大丈夫だ』と優良顧客が納得してくれる採用をしているだろうか」

と発想してみる。必要であれば、優良顧客に実際に聞いてみる。

もちろん、人事に携わるの人たちが、社員の採用・教育をしたり、人事制度を策定・運用するとき、「ビジネスの成功のため」という意識がないとは思いません。

しかし、いったいどれくらいの人事部門が、明確に、そして部門の共通認識として、「自分のクライアントの一人は、自社の顧客だ」という意識で活動しているでしょうか?

おそらく、そういった視点を持って動きだすと、人事部門の行動範囲も変わってくるし、結果として実行される施策も、微妙に異なってくるのではないか、と思います。

ちなみに、著者たちが人事部門に提案している具体的な活動・行動は、

・ 顧客に精通する
・ 顧客と同様に考え、行動する
・ ターゲット顧客のシェアと顧客への価値提供を評価し、その推移
を見守る
・ 顧客への価値提供と人事の仕事を結び付ける
・ ターゲット顧客に人事の仕事に関わってもらう

といったことになります。

私もこれから、そんなことを頭に入れて、自分の日々の仕事を見直してみようか、と思っています。

「人事も、自社の顧客をクライアントと認識して活動すべきである」

この考え方について、皆さんは、どのように考えられますか?

今回参考にさせていただいた書籍

『人事が生み出す会社の価値』日経BP社 デーブ・ウルリヒ/ウェイン・ブロックバンク著

(2009年2月20日)

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