第47回 組織の重さと軽さ

突然ですが、質問です。

御社のある事業部に所属するA氏は、仕事をスムーズにするためにということで、事業部内の上司・先輩とのネットワークを重視。また、常に、意識的にインフォーマルな情報を入手する努力をしています。

さて、この話を聞いたときどんな印象を持つでしょうか?

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先日、前々から気になっていた『組織の<重さ>』という本を手に入れました。

『組織の<重さ> 日本的企業組織の再点検』
沼上幹・軽部大・加藤俊彦・田中一弘・島本実・著/日本経済新聞出版社

『組織の<重さ>』は、一橋大学の教授・准教授たちが、2003年から2007年にかけて、日本の組織の問題点を実証的に明らかにするために遂行されたプロジェクトの結果をまとめたもの。

数ヶ月前に日経新聞の「やさしい経済学」でそのさわりについて書かれていたのを目にして以来、是非読んでみたい、と思っていた書籍でした。

「組織の重さ」とは、新しいことを生み出したり変化しようとする際に、組織の構造や在り方がその阻害要因になる度合をさしています。

言い換えれば、「軽い」組織は、思い切った政策転換が容易で、新しいものを生み出していく創発力を持っている、ということです。

この本で扱われる「組織の重さ」は、以下の4つの次元で捉えられています。

1.過剰な「和」志向
2.経済合理性から離れた内向きの合意形成(競争や顧客よりも内向き)
3.フリーライダー問題(「社内評論家」の存在)
4.経営リテラシー不足

プロジェクトでは、日本企業19社111BU(ビジネスユニット)の質問票への回答とインタビューというかたちで収集されたデータを基に、組織の重さに対して相関関係があると思われる事柄について、ひとつひとつ検証しています。

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ここで、最初の質問に戻って、A氏の行動の特徴をみていきたいと思います。

・ 事業部内に、上司・先輩の広いネットワークを持っている。
・ インフォーマルな情報を収集している。

これは原因であったり、結果であったりはするものの、両方とも「組織の重さ」と正の相関関係がある。つまり、これらの度合いが強いと、組織が「重い」可能性が高い、という結果が出ているのです。

上司や先輩とのネットワークを大事にして何が悪い?

インフォーマルな情報収集は重要でしょう?

これらの実証結果を読んだときには、正直、頭の中には「?」が浮かびました。

詳しいことは、書籍を読んでいただくのが一番なのですが、それぞれ簡単に説明します。

・ 事業部内の目上の人とネットワークができるということは、支援者も増えるが、説得をしなければならない人も増えるということでもある。特に、平均年齢が高く、組織人数が多くなると、事業部内の目上ネットワークの増加と組織の重さの相関関係が強くなる。

・ インフォーマルな情報収集自体が悪いというわけではないが、「内向き調整志向が強く、弛緩した組織において、調整が難しいと考えているミドルたちは、往々にして、自分たちのインフォーマルな努力によって戦略情報を収集し、伝達しようと努力する傾向があるように思われる」(同書P99)ため、「組織の重さ」との正の相関関係が
出てくると推測される。

この他にも、今までの感覚からすると、「えー!、そうだろうか?」と思うような実証結果が出ています。

調査と実際は違うと切り捨ててしまうことは簡単ですが、

これまで日本の組織構造について実証的なアプローチがほとんどなされてこなかった中で、19社111事業部(BU)を対象に、組織構造質問票807票を分析した結果として、傾聴する価値はあると思います。

前回のメールマガジン(「そういうものだよね」から離れてみる効用)で書いたことにもつながるかと思いますが、「これが常識」「当たり前」と思いこんでいることは、そのポジションや環境に長く身を置いていると知らず知らずに増えていると感じています。

第四十六回 「そういうものだよね」から離れてみる効用

今回のことも、ニュートラルな立ち位置で、そこで見える少し異なった風景と向かい合うことによって、新たに見えてくることもあるのでは、と思いました。

筆者たちは、自助努力で本来フォーマルに伝達されるべき情報をインフォーマルな形で取得する努力をしているミドルたちの状況をみて、

「組織が重くなっている場合に努力を傾けるべきことは、フォーマルな情報流を増やすための改革であって、フォーマルな情報ルートが機能不全を起こしている状況をインフォーマルに補完することではないのである」(同書 P99)

と言っています。

組織が硬直化している。それをほぐしていくために、インフォーマルな情報交換の場を提供しよう、という発想は、もしかすると、問題を根本的な解決から遠ざけているだけかもしれない、ということです。

その他にも、

「事業部階層内のパワーはゼロサムゲームか?」

「上司のパワーのベースと組織の重さの関係」

「階層毎の時間認識の違いと組織の重さの関係」など、

今まで考えてみなかったような視点が多く提供されていました。

私の力不足でこの本の面白さや価値が伝えきれなかったのでは、という不安がありますが、これからの組織について考えている方には、新しい視点を得られる本かと思います。

機会があれば是非、読んでみください。

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今回参考にさせていただいた情報源

『組織の<重さ>』
沼上幹・軽部大・加藤俊彦・田中一弘・島本実・著/日本経済新聞出版社

(2009年6月19日)

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