第56回 「努力の方法」の教科書がつくれるか?

前回からの続きで、島田紳助氏が、吉本総合芸能学院の若手芸人の卵たちにレクチャーをした様子を収録したDVD「紳竜の研究」および著作『自己プロデュース力』から。

前回の内容→。「笑わせるべき人を笑わせているか」

島田氏は、レクチャーの冒頭に、才能と努力の関係を非常に明確に定義します。

成果は、才能と努力の掛け合わせで決まる。才能にも努力にも、通信簿のように5段階のレベルがあるとして、才能5x能力5=25 であれば、最高の結果を出すことができる、ということです。

つまり、

「5」の才能を持っていたとしても、「1」の努力しかしていなかったら、「5」の結果しか出せない。才能は「2」しかなかったとしても、「5」の努力ができれば10の結果は出せる。ここで逆転が起こります。2の才能の人が、5の才能の人に勝てる、ということです。

確かに、才能は、「親からもらったもの、神様からもらったもの」だから変えることはできない。自分の授業をどんなに聞いたって、残念ながら今から才能を身につけることはできない。しかし、努力は自分で覚え、その質を向上していくことができる。

そこで、島田氏は、まず、「努力の方法」についてレクチャーをしていくのです。

この話を聞いたときに、果たして、私は「努力の方法」という存在をはっきりと自覚し、その習得と質の向上のために、意識的な活動をしてきただろうか、と考えさせられました。

島田氏自身が、努力の方法を考えるにあたって、新人時代に第一に取り組んだこと。それは、「自分だけの教科書」を作ることだったといいます。

そもそも、「教科書」がなければどのように努力をしていけばいいか、わからないからです。

そこで島田氏は、「オモロイ!」と思った漫才師の漫才を、とにかく録音し、一言一句、言葉と言葉の間までを紙に書きおこしていきました。使われた時間の長さなども含めて、丁寧に細かく記録していくのです。それを自分なりに読み解いていく。すると、すごいと思った人たちの共通点が見えてきます。

そこまでなら、他の人もやっていたのかもしれません。

しかし、島田氏はその結果から、今の自分ではそうした「すごい漫才師」には到底太刀打ちができない、ということもまた学ぶのです。そして、おそらく、彼らと同じようにやっていったとしたら、いつまでたってもトップにはなれない、とも痛感します。

そこで、基本的な構造を理解したうえで、自分が目指す場所・ものに到達するためには、今何をしなくてはならないのか、誰のやり方(ネタ自体ではなく、「システム」)をまねるべきなのかを導き出しました。

(ちなみに、まねた相手は、B&Bの島田洋七氏。若い方には、「がばいばあちゃん」の本の著者といった方が通るかもしれません。)

ここまでくると、それは、「今」の島田氏のためのベストの教科書であるだけではなく、自分や時代の変化に合わせて、常に努力の方向を修正していくベースになったと思われます。

なぜならば、自分が「努力する方法」を探し出すための「プロセス」、を身につけたはずだからです。

今、書店のビジネス書コーナーに行けば、様々な自己啓発本、ノウハウ本が出ています。

これは私の印象ではありますが、平積みになっている多くの本が、「より早く」「より効率的に」目的地に到達する方法を競っているように感じます。読者である私たちも、「一刻も早く」「できるだけ無駄のない方法で」を求めて、書籍を手にする・・・。

一冊一冊の本には、傾聴に値する内容が書かれていると思います。私自身も、そういった本を結構たくさん購入して、様々なヒントをいただいています。

が、受け取る側が、それらをそのまま自分のための「努力の方法」の教科書だと扱い続けてしまうとしたら、結果的に、「努力=5」の世界に到達することを妨げてしまうのではないか、と思ったのです。

環境や状況が変わってしまったとき、人から与えられただけの「方法論」をそのまま握りしめていたとしたら、恐らくその変化に対応できないでしょう。

ご存じの方も多いかと思いますが、島田氏は飲食店の経営なども手掛けています。全部、ということではないでしょうが、そうした店舗の店長に、自分の弟子で、漫才や芸人としての才能は「1」とか「2」しかないけれど、努力が「5」という人たちをアサインしているそうです。

ひとつの世界で、ピカイチの努力ができる人は、他の世界に行っても、必ず何らかの結果を出すことができるからです。

実際に、何人かの「元・売れない芸人さん」が、大繁盛店の店長として活躍されているそうです。

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ずいぶん昔の話ですが。

当時所属していた部の中をチームに分けて、それぞれに目標を追いかけたことがあります。

一つのチームが目標に到達しないかもしれない、ということが判明しました。周囲も一生懸命応援をし、ぎりぎりで目標を達成した、ということがありました。チームAとします。

その横で、あるチームは少人数で淡々と目標を達成していました。チームBとしましょう。

チームAは、目標達成後に大変盛り上がり、お互いを讃え合いました。

そして、何人かの人は心のどこかで、チームBが相手にしていたマーケットは、それほど難しくなかったのだろう、と思っているようでした。自分たちがこんなに大変な思いをして達成したことを、そんなに簡単に達成することが想像できなかったからだと思います。

そのため、同じく目標を達成した2つのチームでしたが、チームAの方が「頑張った」と評価する人が少なくなかったようです。

後日、チームBのリーダーとその時の話をしたとき、正直悔しかった、と言っていました。そのリーダーは、どうやって自分たちの力を使えば目標達成するのかを徹底的に考えて、それをメンバーできっちりと共有したうえで、行動していたのです。決して、極端に楽なマーケットだったわけではないと。

最後に派手に目標達成することが、自分たちのとった方法より評価されたことには、納得がいかなかったようです。

紳助氏の話を聞いて、チームBのリーダーのことを思い出しました。その人には自分に必要な「努力の方法」を考える力があったと考えられるのでは?と。

確かにそのチームリーダーは、後に部署が変わったり、会社を変わったりして、扱う分野が変化しても確実に成果を上げていきました。そして、おそらく、最後に才能レベル5の世界に出会ったのでしょう、周囲から一目おかれる活躍をされています。

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若手をどうやって育てていくのか、ということに頭を悩ませている人事やマネジメント層の方は少なくないと思います。

そんな時、そもそも、目の前にいる彼(彼女)は、自分がどうやって努力していけばいいのかを自分で考えて、実行する力を身につけているのだろうか?と考えてみたらどうだろうか、と。

成果を上げ続けていくには「努力」は非常に重要な要素であるにも関わらず、実はその「扱い方」を教えられていない人が結構いるんじゃないか、と。

確かに、子供の頃からの記憶をたどっても、「努力しなさい」と言われたことは数限りなくあっても、「努力」の扱い方について教えられた記憶はありません。

そもそも「努力」の取り扱い方を教えられるのか、という問題はあると思いますが、人と同じようにがむしゃらにやることだけが「努力」ではない、というのは誰しも感じていることなのではないでしょうか。

島田氏の話のなかに、野球のバットの素振りの話が出てきます。

素振りをする目的は、ボールを打つことであって、それができる体になることを考えて素振りをしなければ意味がないはず。何も考えずに毎日500回素振りをしても腕が太くなるだけであって、それに満足していても仕方ない、ということです。

もしかして、ここに何かヒントがあるのではないか、と思った次第です。

教育・研修の専門の方々からみると「???」という話をしているかもしれませんが・・・

ともあれ、何かのヒントになれば幸いです。

個人的には、決して好みではない島田紳助氏ですが(ファンの方がいらしたら済みません)、彼の考え方はビジネスパーソンとして勉強になります。特に、非常にはっきりとしたロジックに基づいていますので、「自分なら絶対にこうしない」という反面の発見も含めて、ヒントが詰まっていました。

「紳竜の研究」『自己プロデュース力』の紹介は今回で終わりにしたいと思います。ご興味があれば、DVDもしくは書籍を手にとってみてください。(個人的なお勧めは、少し値が張りますがDVDです。)

今回参考にさせていただいた情報源

「紳竜の研究」(DVD: アールアンドシー)

『自己プロディース力』著(島田紳助・著/ワニブックス)

(2009年10月30日)

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