第70回 坂本龍馬は独創的か?

先日、知り合いから「池波正太郎の『人斬り半次郎』という小説が面白いから読んでみてください!」と勧められました。自分からは手に取ってみようとは思ったこともない本でしたが、これも何かのご縁だろうと、早速アマゾンで購入。

届いて手にしたときには、上下巻、しかも想像より厚かったので、(時間がかかるかも・・)と少し戸惑いましたが、一旦読み始めると止まらず、一気に読んでしまいました。

「人斬り半次郎」とは、下級武士ながら、その剣の腕前と剛直な性質を薩摩藩の西郷吉之助(隆盛)に見込まれ、幕末から明治維新にかけて活躍した実在の人物、中村半次郎。幕末は、多くの人を斬ったことから、「人斬り半次郎」の異名を取ったそうです。

明治維新後、日本初代の陸軍少将(改名して、桐野利秋)として活躍の場を与えられますが、征韓論争に敗れた西郷と共に鹿児島に下り、西南戦争でその生涯を閉じます。

その一生を、池波正太郎氏の筆で痛快に描いたのが『人斬り半次郎』です。田舎でくすぶっていた若者が、目の効く人物に見出され、勢いよく生き抜いていく様は、映画を見ているような面白さがありました。

『人斬り半次郎』を読み終わった後、気分が「幕末」になっていたので、以前購入して未読だった、半藤一利氏の『幕末史』を手に取りました。

その「はじめの章」で、半藤氏は、幕末に対する自身の立場を明確に示しています。

1930年生まれの半藤氏は、第二次世界大戦が終わるときまで、戦前の皇国史観、つまり「薩長史観」を徹底的に仕込まれたといいます。しかし、同時に、毎年夏に訪れていた新潟県長岡市に住む親戚から、薩長がいかに暴力的で、人の道に外れたことをしてきたかを吹き込まれもしました。

長岡市の前身は幕末の越後長岡藩であり、戊辰戦争で薩長に激しく抵抗した藩のひとつ。そこでは英雄とされた薩長の面々の、反対側からみた姿を見ることができ、半藤氏は「なにやら溜飲を下げた」思いになったと言います。

「というわけで、これから私が延々と皆さんに語ることになります幕末から明治11年までの歴史は、『反薩長史観』となることは請け合いであります。・・・・

『西郷隆盛は偉人である』『坂本龍馬は最高の日本人である』といった描かれ方とは逆に、『西郷は毛沢東と同じ』『龍馬には独創的なものはない』という私の見方がいずれ出てきましょうが、どうぞびっくりせずに聴いていただけたらと思います。」 (P14)

この部分を読んで、「ああ、そうだった」と。歴史は勝者の物語である、というのはよく言われることですが、気がつくとそうした視点を忘れてしまっている自分に気がつきました。

『幕末史』の中での、中村半次郎は、薩摩藩の意見を通すためのテロリスト、でしかありません。

維新後も、徴兵制に反対して西郷にたしなめられる少将として登場します。

2冊の本で描かれる人物はかなり重なっています。小説と歴史書の違いはあるわけですが、それを超えて、一人ひとりのその見え方が面白いくらいに違うのです。

人気を博したNKH大河ドラマの「篤姫」や(「龍馬伝」もそうでしょうが、こちらは見ていませんので・・)、司馬遼太郎氏の『最後の将軍』など、同時期を描いた様々な作品を思い起こすと、それぞれの人物が立体的に見えてくるのがわかります。

個人的には、ここしばらく、幕末から明治維新にはまりそうですが・・・。(ちなみに、半藤氏いわく、「維新」という言葉自体も「薩長史観」が元になっているということです)

**********************************************************************************************

今、私自身の仕事で、会社の人材の定性情報をデータベース化していくことを考えていて、上記のことはとても参考になりました。

人を扱う会議(昇進・昇格や考課など)で真剣に交わされる会話、様々な書類のコメント欄に記入される人に関する情報。

「今回はリーダー選考からはずすが、1年以内には挑戦させたい」とか、「同僚・メンバーからの信頼が厚い」、「前向きだが、人を巻き込む力に不安が残る」、「この1年で飛躍的に営業力が伸びた」など。。。

そこには、価値ある情報が含まれているにも関わらず、「主観的である」「全体を捉えていない」という理由から、なかなかデータベース化されてきていないのではないかと思います。

実際、そのような情報を収集していくためのツールをご紹介したときに、「そんな主観で人を判断するのか!」と反発を受けたことも少なくありません。

しかし、人が人を判断する際に、完全に主観から自由であることが困難であることを考えたとき、逆転の発想で、主観の主体を明確にしたうえで、多くの定性的な情報を集めることで見えてくる世界があるのではないか、と思い始めました。

西郷隆盛や坂本龍馬、中村半次郎も、池波正太郎、半藤一利、司馬遼太郎などの認識を集めることで、人物が立体的に立ち上がり、実際の人物像に少しは近づけるように・・・。

「定性情報を集めて活用していくツール」は、7月7日〜9日のヒューマンキャピタル2010で紹介していきます。もし少しでもご興味があれば、(もしくは反論をお持ちであれば・・・)、是非私たちのブースにお越しください。今私たちが考えている世界を見ていただき、ご意見をいただければ幸いです。お待ちしております。

今回参考にさせていただいた書籍

『人斬り半次郎 幕末編』 池波正太郎・著 角川新書
『人斬り半次郎 賊将編』 池波正太郎・著 角川新書
『幕末史』 半藤一利・著 新潮社
『最後の将軍』 司馬遼太郎・著 文春文庫

(2010年6月24日)

破壊と創造の人事

無料メール講座

イベント・セミナー一覧一覧

気になるセミナー・イベント、研究室管理者が主催するセミナー・イベントを紹介します。

スペシャル企画一覧一覧

特別インタビュー、特別取材などを紹介します。

ご意見・お問い合わせ

Rosic
人材データの「一元化」「可視化」
「活用」を実現する
Rosic人材マネジメントシリーズ