第76回 多文化のビジネス環境を乗り切る「基礎力」とは?

先日、ヨットの世界選手権に出たという友人と話をする機会がありました。

私のヨット競技の知識と言えば、「アメリカズカップ」というイベントが時々話題になっている、という程度。世界選手権に出るようなヨット選手の条件とは何かなのか、想像がつきません。

そこで、ヨット競技における優秀さとは何なのか、聞いてみました。

「基礎力」、というのが彼の答えでした。

世界選手権のレベルで上位を争うような選手は皆高い専門技術を身につけている。そんな中で勝ち残っていけるのは、非常に基礎的な力をしっかりと身につけている人だ、というのです。

体力や精神力がある。どんな風や波の中、非常事態でも常に同じ動作ができる 等々。

上のレベルにいけばいくほど、基礎力の違いが大きな差になって出てくるということでした。

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15年ほど前、初めて外国(英語圏)で暮らし始めたとき、大学受験科目で一番の苦手は英語という私が、助けられたことが2つあります。

日本で叩き込まれた英文法と語彙、そして編集者時代に毎日のように行っていたインタビューの経験です。順番から言うと、インタビュー → 文法・語彙力 でしたが。

当初、大学院に進学するために英語学校に入ったとき、最初に心がけたのは、とにかく隣になった人と話すこと。アジア各国から集まってきた、10歳以上下の人たちと何を話したらいいのか・・・そのとき役立ったのが、初対面の人から話を聞くという、日本でのインタビューの経験でした。

まず相手に興味を持つ、相手が話しやすい話題から始める、それを「種」として話を育てていく、といったことです。

そして、できるだけ広く興味関心を持って、相手の話題に対する最初の質問ぐらいは英語でできるようになっておく。相手から聞かれそうな話題(自分の中で相手から興味を持たれそうなこと)には自分の意見を英語でまとめておく。

こうしたコミュニケーションはすべて日本語で行ってきたことですが、人とのコミュニケーションにおいて、言語を越えた基礎的なことだったのでしょう。自分の言語を使って身についていたことだったので、他の言語でも応用ができたのだと思います。ラッキーでした。

そのうち、英語でコミュニケーションすることに慣れ、大学院に進学、その後現地の会社に就職しました。そこで助けられたのは、日本で叩き込まれた英文法と語彙力でした。

英語は様々な言語の要素を取り入れてきた歴史があるため、例外の多い言語です。ルールがわかっていたとしても、例外については記憶するしかありません。語彙もしかり。頭が柔軟な時期に覚えてしまっていて助かった!と思いました。

英語の発音は重要です。発音が悪いと意味が通じないことも少なくありません。が、ネイティブ同様に流暢であることは必ずしも必須ではないように思います。第二外国語として英語を学んだ人たちの多くは、日本人に限らず、「お国訛り」が残っているのが普通だからです。

ペラペラと流暢に話すことよりも(話せるに越したことはありませんが・・・)伝えたいことをしっかりと伝えられること、そして伝える中身の質の方が重視されますし、そのことが尊敬されます。そして、その基礎となるのは、所属する環境のレベルが上がれば上がるほど、基本的な文法と語彙だと痛感させられました。

同時期に英語学校にいた日本の若者の中に、「私の英語力がないから、相手にしてもらえない」と嘆き、英語を嫌いになってしまう人が少なからずいました。

ビジネスの場面では「正しい英語を話そうと思うあまり、自由に話せない」ことが多く、せっかくの仕事の実力が正当に認められていない人にも出会いました。

そうした中で、「英語でコミュニケーションをとれるようになるために、英語教育では会話を重視しよう」という流れも出てきたのではないかと想像しています。

ただ、自分自身の経験を振り返って、それだけでは本当の「基礎力」がつかないのではないか、と感じています。

英語で高度なコミュニケーションをするためには「コミュニケーションの基礎」と「英語の基礎」の両方が必要だと痛感するからです。そして「コミュニケーションの基礎」は、母国語(使いなれた言葉)で身につけるのが早く、なによりしっかりと根付くと思います。

自分の言語を使ってできないことが、他の言語を使って突然できることはありません。

そう考えると、英語での高度なコミュニケーション能力をつけていくために、「英語教育では会話を重視」というのは、かえって遠回り。その上、結局は「基礎力」がつかない危険性があるのではないか・・・。

(英会話教室を否定しているわけではありませんので、誤解なきよう・・・)

これからのビジネスでコミュニケーションしていくのは、ますます多様なバックグラウンドの人たちになっていくでしょう。そうした「荒波」(ある意味で楽しみ)を乗り切っていくための「基礎力」とは何かを改めて考える必要があるのではないか、と考えているところです。

英語の社内公用語化が話題になっています。日本人のグローバル化が話題になることが多いなか、ヨットの「基礎力」の話を聞いて、こんなことを考えました。

皆さんはどのようにお考えになるでしょうか?

(2010年9月16日)

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