第99回 「正解がわからないけれど解答できる」能力が身についているか

障がい者や高齢者を介護するプロとして求められるものはどんなことだと思われますか?

入浴時には手品のように素早く洋服を脱がせ、被介護者にストレスを与えることなくお風呂に入れてあげ
ること。食事の時間には、被介護者が食べるべきものを整然と目の前に並べて上げること。・・・・

独自の介護哲学でデイケアサービスセンター「夢のみずうみ村」を運営する藤原茂氏は、こうした考え方に
異論を唱えます。そうした支援は一見良さそうにみえて、実は本人のできる能力を奪ってしまう可能性が
あるからです。

そのため同センターでは、昼食はバイキング形式にして、自分の好きなものを好きなだけ自分で盛り付け
て食べるという方式を取っているといいます。また、施設内に敢えて坂道や階段を設置したり、自分でカー
ドを貼らなくてはならないスケジュールボードを少しだけ手の届きにくい場所に設置するなど(「バリアアリー」
と呼んでいるそうです)、常識に囚われない支援を展開。

はたで見ているご家族からは、「どうして手伝ってくれないのか?」と思われた時期もあったようです。

そうしたセンターに脳卒中の後遺症から利き腕である右手が使えなくなった女性が通っていました。彼女
は自分で料理をすることを諦めることなく、左手だけで料理する方法を自ら編み出したそうです。例えば、
ネギの千切りは剣山で(!)。75歳になる彼女には、「片手で出来る料理教室」の講師として、施設外
からも声がかかるとか。

人を本当の意味で「支援」するというのは、決して簡単なことではないのだと、改めて感じました。

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同志社大学ラグビー部を日本一に導いた、岡監督という方がいらっしゃいました。

その指導法はユニークで、選手たちが練習しているところに、「ちょっと待ってくれ!」急にと割って入ってきて、

指導の言葉を待っている選手たちを前に、「そのときはいいかもしれないけれど、こうなったらどうするんだ?」
「そのプレーもいいけれど、こういうのはどうか?」といったことを並べ立てるのだそうです。

そして、何の具体的な解決策を提示しないままに、去っていってしまう。当時指導を受けていた選手たちは、
監督の「ちょっと待ってくれ!」が聞こえると、「また来た・・・」と困惑したとか。

岡監督が指導を退いて長らく経ったあと、実際に指導を受けていた平尾剛氏(元ラグビー日本代表)が
監督と話す機会があり、その指導の背景にある哲学に気がついたと告白していました。

刻一刻と変化する試合中で判断を下すのは選手自身。指導者は選手自身が思考するための材料は
いくら与えてもいいけれど、最終的には、選手が自分で考え判断できる力をつけてもらうことを目指す必
要がある。そして何より、自分で考えるから楽しい。だから、指導者は選手から楽しみを奪ってはいけない、と。

その平尾氏と対談をした内田樹氏が、「『単一の正解がある』というふうに思わせるのがいちばんいけな
い。・・・『正解を知っているので解答できる』能力よりも、『正解がわからないけれど解答できる』能力の方
が大切になる」と言っていたのが印象的でした。

ただ、できない人に、頑張って考えろ!と言っても生産的ではありません。

「『できる』『できそう』『できない』。スタッフはそこを見極めます。
見極めには知識よりも相手への強い思いが必要です。」というのが、藤原氏のご意見でした。

会社で後輩や部下を支援する。時間と結果に追われるなかで、どこまで何ができるのか。考えさせられま
した。

皆さんはどう行動されているでしょうか。


今回参考にさせていただいた書籍・情報

「生活力回復 促す介護」 夢のみずうみ村代表 藤原茂氏
(日本経済新聞 2011年9月20日〜22日 夕刊)

『合気道とラグビーを貫くもの』内田樹・平尾剛 著 朝日新書

(2011年9月27日)

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