第50回 『突貫工事のエキスパート』を育てていないか?

突然ですが、皆さんは、風邪をひいた!と思ったらどうされますか?

薬を飲んで熱を下げる、という方は多いのではないでしょうか?

沢山の仕事を抱えて毎日を乗り切っている人たちにとって、選択肢はあまりないとは思いますが、その考え方を真っ向から否定した書物があると知りました。

「体を使っているうちに、或る一部分が偏り疲労の潜在状態になって、そういう部分の弾力性が欠けてくると風邪を引き、風邪を引いた後、恢復してくる。

それで私は風邪は病気というよりも、風邪自体が治療行為ではなかろうかと考えている。

ただ、風邪を完全に経過しないで治してしまうことばかり考えてしまうから、普段の体の弱い処をそのまま残して、また風邪を引く。

風邪を引く原因である偏り疲労・・・<中略>・・・を正すことをしないで、いつでも或る処にばかり負担をかけているから、体は風邪を繰り返す必要が出てくる。

それでも繰り返せるうちは保証があるが、風邪を引かなくなってしまったら、もうバタッと倒れるのを待つばかりである。」

これは、『風邪の効用』(野口晴哉・著/ちくま文庫)からの引用です。野口氏は、日本に「整体」を普及させた人物。

つまり、「風邪を引く」ことには必ず何らかの意味があり、それを無視して対症療法ばかりでごまかしていたら、結局、体をだめにしてしまうだろう、ということです。

医学的に見て、これが正しいのかどうか私には判断できませんが・・

ただ、「今、注目すべきなのは、熱とか咳といった症状自体なのか」「そもそも症状が起きる根本的な理由なのか」。仕事や組織に当てはめて考えると学ぶべきメッセージがあるように思えました。

日々の職場でも、もぐら叩き的に症状を抑えることばかりに集中していないだろうか・・・

本当は、それらの「症状」はその底にある根本的な問題点を探り当てる重要な入口なのかもしれないのに、です。

もう一つ、気になった話を。

皆さんの会社にも、危機的かつ混沌とした状況に対して、驚くほどの対応力を発揮して、その場を救ってくれる上司や同僚がいるのではないでしょうか?

誰もが呆然と立ち尽くしてしまうような局面に対して、適切な問いを設定して、解決不可能と思われる問題を解決してしまう。

非常に頼りがいのある人物です。

しかし、そうした人たちが導いてしまった悲劇的な結果があるといいます。

ベトナム戦争の泥沼化です。

「(安全保障政策を担当していたアメリカの知的エリートたちは)、ベトナムをめぐる状況が悪化しても、卓越した即興的対応力を発揮し、次々に起こるトラブルをなんとか乗り切ってしまったのです。

そして、『最良にして、最も聡明な人々』をもって処理しきれないほど事態が悪化したとき、初めて長期的なビジョンと誤りに気づいたの
です。」 

「ビジネスの現場でも、同様の事態は起こり得るでしょう。特に、ハイパフォーマーと認められる人物ほど日々の仕事に忙殺され、自分自身の行動をじっくり振り返る余裕がないものです。

このジレンマを克服しないと、優秀な「問題解決のエキスパート」とえども、長期的なビジョンをもたない「突貫工事のエキスパート」になってしまいます。

(問題解決のエキスパートが)その能力を最大限に発揮しても、それが場当たり的な突貫工事の繰り返しでしかなかったら、組織は誤った方向に進んでいくことになります。」 

これは、『ダイアローグ 対話する組織』(中原淳/長岡健・著 ダイヤモンド社)の中に書かれていたエピソードです。

これを読んで、正直「はっ」としました。

私自身、「突貫工事」的な仕事をすることが少なくなく、恐ろしいことに、それがうまく解決したときに、引き起こされるかもしれない結果について、あまり深く考えていないことを発見したからです。むしろ、ある種のカタルシスに浸ってしまうことがある。。。

皆さんの会社でも、同じような事態が、知らず知らずのうちに起こっている可能性はないでしょうか?

この2つの話に触れたとき、15年前、椎間板ヘルニアで手術をしたときのことが頭に浮かんできました。

中学の部活動で椎間板ヘルニアになってしまった私は、ひどい腰の痛みが和らぐにつれて、そのケアをかなり疎かにしてしまい、結局その症状をとことんひどくしてしまいました。

最後は、背骨から飛び出した軟骨が、左側の坐骨神経を押しつぶして、左足の激痛で病院に運び込まれました。

その時は、もう腰など痛くないのです。痛いのは左足だけ。

もし、自分の腰にも問題があると知らなかったら、私が医師に訴えるのは、「左足が痛い!!」ということだけだったでしょう。

そして、医学が発達していない時代や場所だったとしたら、足に薬を塗ったり、本当に痛みがひどく、解消できなくなったら切断という判断だってありえるのかもしれません。

しかし、その一連の治療は、根本的な解決にはならない。

実際の組織運営では、「腰」ではなく、「足」にばかり注目していることが案外多いのではないか。

一生懸命、足をマッサージしたり、薬を塗っているうちに、とんでもない状況になっているのではないか。

あの時の痛みを思い出しつつ、自分の仕事、組織について考えさせられました。

一連の話、皆さんはどのようにお考えになりますか?

今回参考にさせていただいた情報源

「『風邪薬』を安易に飲むな」 京都大学教授・鎌田浩穀氏 「インタビュー領空侵犯」 
日本経済新聞 2009/7/27 朝刊

『風邪の効用』(野口晴哉・著/ちくま文庫)
『ダイアローグ 対話する組織』 中原淳/長岡健・著 ダイヤモンド社
『風邪の効用』(野口晴哉・著/ちくま文庫)

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