第62回  知らない力、非常識の可能性をどう活かしていくのか

商品名を聞いてからずっと気になっている商品があります。

「1杯でしじみ70個分のちから」という即席のお味噌汁です。名前を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか?残念ながら、まだ試す機会がないのですが、この開発について興味深い話を知りました。

この商品を開発したのは、永谷園のマーケティング企画部に所属する小川さんとおっしゃる女性。これまでにも、「おみその大革命野菜いきいき」「カレー鍋」シリーズなどのヒット商品を手がけてきたそうです。

そんな小川さんは、永谷園に新卒として入社するまで料理をほとんどしたことがなかったといいます。出身学部も文学部。配属はてっきり事務職だと思っていたところ、人気のある企画部門に配属されたと知ったときには、正直「私でいいの?」と思ったとか。

ただ、当時の上司が、「料理のできない人、手抜きをしたい人など色々な人が企画に参加しないとヒット商品は生まれない」と言ってくれたそうです。

それを支えに、たとえ自信がないと思っても、疑問に思うことや意見を積極的に言おうと努めました。その結果が、ヒット商品の開発という成果に繋がったのでしょう。

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知らないことの力と考えたとき、ライフネット生命の副社長、岩瀬氏のことが思い浮かびました。

ライフネット生命については、第51回で詳しくご紹介していますので、詳細は繰り返しませんが、2008年4月、実に74年ぶりに生まれた、親会社に保険会社がいない独立系生命保険会社です。

(第51回 王道と非常識の関係)

その副社長である岩瀬氏は、東京大学在学中に司法試験合格、ハーバード・ビジネス・スクールを最優等のBaker Scholarで卒業(日本人で4人目:当時)という華々しい経歴をお持ちではあるけれど、会社設立のプロジェクトに参加された時には、保険業界についてはまったくの素人。

その岩瀬氏が、2009年の10月に、『生命保険のカラクリ』という本を出版されました。その序章で、

「生命保険業界に入って三年が過ぎた。保険会社として営業を始めてからは、まだ一年半しか経過していない。これまでの業界の常識からすれば「新入り」の私が業界の全体像を語る資格などないと思われることだろう。

だが、誰でも少しずつ、その業界に身を置く時間が長くなればなるほど、その規範と常識に染まっていく。

はじめの頃は不思議に感じていたことが、いつからか当たり前になっていく。とすれば、まだ新鮮な気持ちを持ち合わせているいまの自分がみた業界の姿、業界の人々とのギャップの中身を、より多くの人たちに知ってもらう意味はあるのではないか。これが本書を執筆しようとおもった動機である。」

と書かれていました。

本章では、普通のビジネスパーソンとして観察した結果感じる保険業界への違和感や、保険の広告や営業で当然と思われているトークのからくりを真摯に解き明かしてくれます。(あまりにストレートで読者である私が、「そこまで言っていいの?」と少しハラハラすることも。)

今、保険加入を検討されている方は、一読される価値があると思いますが。。。本題に戻ります。

その彼をパートナーに選んだ出口社長は、日本生命に30数年勤務した、生命保険業界を知り尽くした人物。2004年に出版された『生命保険入門』(岩波書店)は、発売から5年で7刷と多くの人に読まれている「保険の教科書」となっています。

(※2009年12月に改訂版も出ました。歴史、各国比較、仕組み、現状の問題点、そして利用者としての付き合い方まで書かれています。
「保険を正しく理解して活用してほしい」という著者の思いが伝わる、包括的に保険を学べる良書です。)

そんな出口氏が、生命保険業界に声をかければ、業界に詳しい人材を仲間に迎えることは難しくなかったでしょう。

しかし、パートナーに敢えて保険業界をまったく知らない人物を選ばれました。パートナーに限らず、メンバーも古巣の日本生命から一切呼ばないという徹底ぶり。

「私のパートナーが生命保険会社に熟達した人間であれば、きっと生命保険の常識が邪魔をして、大きな飛躍は望むべくもないでしょう」(『直球勝負の会社』より)

ちなみに、ライフネット生命の2009年4〜12月の新契約件数は、前年同期比で4.8倍と大きく増加。同社の定期死亡保険は、「週刊ダイヤモンド」や「日経ヴェリタス」の特集で、「保険のプロが入りたい死亡保障ランキング」においてそれぞれ1位に選ばれています。

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私自身、典型的な文系出身、10年前にIT業界に入るまではフリーで編集と文筆で生計を立てていました。そんな私が半ば偶然入ったIT業界は、いい意味でも悪い意味でも驚きでいっぱいでした。

その驚きを糧に、商品やサービスの企画・提案をしてきましたが、やっとその活動が具体的な実を結びつつある感じです。 

ただ、私も、業界に入って10年、「人事とIT」というテーマで活動を始めて6年。そろそろ、「自分は部外者の視点を持っている」という認識が「過信」に変わりつつある時期かもしれません。

常に「わかっている」「当然」「常識」と無意識に思っていることを疑ってみるのを忘れないこと。そして、「素人」の方々の意見や批判に、虚心坦懐耳を傾けられる柔軟性を持ち続けること。

その結果として、小川さんにアドバイスした企画開発部門の上司のように、岩瀬氏をパートナーに選んだ出口氏のように、懐の深い本当のプロになれればいいのですが、、、諦めないでいきたいと思います。

今回参考にさせていただいた書籍

「WEDGE 2010 2月号」「ヒット作に必要だった”戸惑い”」

『生命保険のカラクリ』 岩瀬大輔・著 文春新書

『生命保険入門』 出口治明・著 岩波書店

『直球勝負の会社』出口治明・著 ダイヤモンド社

(2010年2月19日)

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