管理者からの提言

第2回 話題になっている「タレントマネジメントシステム」と どう関わっていけばいいのか?

 大島由起子

インフォテクノスコンサルティング株式会社
Rosic人材・組織ソリューション開発室 室長/セールス・マーケティング事業本部 本部長


今、「タレントマネジメントシステム」が注目を集め始めている

今、「タレントマネジメントシステム」が注目を集め始めています。私の所属するインフォテクノスコンサルティング(株)(ITC)が持つ、 Rosic「ロシック」人材マネジメントシステムシリーズ(Rosic)に対しても、ユーザー企業からのお問合わせ、メディアからの取材が増えています。

ITCでは、2003年から給与システムを敢えて持たない「人事情報システム」を販売・導入し始めました。2010年からは名称を「人事情報システ ム」から「人材マネジメントシステム」へ変更。この9年間、一貫して「人事・組織戦略にITを十分に活用する」ことを目指して活動をしてきました。

発売から数年間は、給与システムを持たない「人事情報システム」の営業で企業を訪問しても、「人事部にシステムを売りにきて、給与システムがないな んて考えられない!」と門前払いをされることも珍しくありませんでした。しかし、ここ2~3年は、「給与システムはもう動いている。人材や組織のマネジメ ントに使えるシステムがほしい」という企業が増え、Rosicの導入企業も急速に増えていました。

そこに、「タレントマネジメントシステム」の盛り上がりの兆候。私たちが取り組んできたことが認められてきたことを嬉しく思うと同時に、この分野に 長くいるだけに、「タレントマネジメントシステム」という言葉が独り歩きをし始めているのではないかという懸念も芽生え始めているのが正直なところです。

そこで今回は、「タレントマネジメントシステム」をどのように考えていけばいいのかについて、考えてみたいと思います。

「タレントマネジメント」「タレントマネジメントシステム」とは何か?

「タレントマネジメント」とは何か、という定義については、以下の二つが引用されることが多いようです。

■ 人材の採用、選抜、適切な配置、リーダーの育成・開発、評価、報酬、後継者養成等の各種の取り組みを通して、職場の生産性を改善し、必要なスキルを持つ人 材の意欲を増進させ、その適性を有効活用し、成果に結び付ける効果的なプロセスを確立することで、企業の継続的な発展を目指すこと。(米国人材マネジメン ト協会(SHARM)より)

■仕事の目標達成に必要な人材の採用、人材開発、人材活用を通じて、仕事をスムーズに進めるために最適な職場風土、職場環境を構築する短期的/長期的、統合的な取り組み。(米国人材開発協会(ASTD)より)

これらをよく読んでみると、従来から人事部を含む人材マネジメントに関わる部署・人が担ってきたこと、もしくは担うことを期待されてきたことが、簡 潔にまとめられているという印象を持つのではないでしょうか。つまり、これまでに見たことも聞いたこともない、まったく新しい世界の話ではない、というこ とです。

もちろん、市場は変化し、グローバル化が進み、雇用/労働環境も変わるなか、実際に取るべき施策の具体的な内容は、10年前から様変わりをしている ことが多いでしょう。また、今ベストであることが、将来にわたって変わらないという保証はありません。これまでのビジネスの常識を覆すような出来事が次々 と起こるなか、「何か新しいことをする必要があるのではないか」と感じている人は多いはずです。

そこに、「タレントマネジメント」という新しい言葉が与えられた。そして、その「新しい活動」を支えるための「タレントマネジメントシステム」が存 在している。それらのほとんどが「外国製」である。「グローバル化」が大きな課題になっている今、国外のグローバル企業が導入している人材管理方法を、機 能として実装しているシステムは一見の価値があるはず。。。これが多くの日本企業が「タレントマネジメントシステム」と出会うときの状況ではないかと思い ます。

ですから、自社にとって必要となる「タレントマネジメント」は何なのかを考える際に、「タレントマネジメントシステム」が提供する整然と揃えられた各種機能を参考にしてみようと思うことは、自然の流れと言えるかもしれません。

ただそのとき、忘れてはならない点があります。提供されている「タレントマネジメントシステム」がITを活用したパッケージソリューション/システ ムである限り、その基本的な性質は「ベストプラクティス」の集合体である、ということです。つまり、あくまで最大公約数的なプロセスの提案である、という ことです。

一方「タレントマネジメント」は、企業の重要な戦略的分野であって、本来、他社と横並びのベストプラクティスを100%適用できる世界ではないはず です。もちろん、運用のレベル、システムの柔軟性の高さなどから、適用できることも多々あるでしょう。しかし、基本的な性質として、是非押さえておきたい ポイントです。

このことを忘れて、「『タレントマネジメント』の強化をしなくては」→「そのためにはシステム(IT)の活用が必要となる」→「タレントマネジメン トシステムを検討してみよう」→「機能がたくさん揃っているシステムがいい」という流れに入ってしまうと、実際に運用を始めてみたら例外運用が多くなって しまった、結局は基本的な人材データの単純な参照にしか使えていない、という悲劇を引き起こしかねません。

実際に、自社独自のタレントマネジメントを支援するためのシステムを導入しようと思っていたのに、いつの間にか、購入したタレントマネジメントシス テムでできることが「タレントマネジメント」だという認識に陥ってしまっていた、という笑えない状況に陥ってしまったケースを聞いたことがあります。

特に今、IT業界では「タレントマネジメントシステム」が大変ホットな分野になっています。2012年に入って、世界的な大手IT企業が「タレント マネジメントシステム」「人事関連システム」を専門的に手掛けていた企業を次々にM&Aし、さながら「タレントマネジメントシステム」戦争勃発前 夜の様相を呈しています。これは、この分野が一気に成熟する大きなチャンスであると同時に、ユーザーが賢く本質を見極めていかないと、大々的なマーケティ ング活動・営業攻勢の中で、思っていなかった落とし穴に落ちる危険性もあるということでもあります。

実際、「タレントマネジメントシステム」を、「グローバル人材マネジメント」がメインのシステムだと捉える向きもありますし、「後継者育成」のた め、つまり選抜された人材を管理するためのシステムだと考えている企業もあります。また、現在国内にいる人材・組織の生産性の上げるためのシステム、つま り従業員全員のためのシステムと位置づけられるケースもあります。これらのどれが間違っている、合っているという問題ではありません。あなたの会社にとっ て、何が優先順位の高い「タレントマネジメント」で、そのためにどうITの力を活用するのか。しっかりと見極めることが大事だ、ということです。

「タレントマネジメントシステム」に期待すべき価値

冒頭に申し上げたように、私たちは9年前から、「人材・組織マネジメント」にITを十分に活かしていくためのシステム提供を考え、実際にお客様と共にシステムを成長させてきました。

「人材・組織マネジメント」とは、企業が持つ人材の価値を十分に引き出し、組織力を高め、経営戦略実現をサポートする一連の活動である、と考えてい ます。「タレントマネジメント」はそうした包括的な「人材・組織マネジメント」の中核となる活動であり、人事が経営に貢献していくための重要な位置を占め るものと言えるでしょう。

「人材・組織マネジメント」に対してITを十分活用し、経営に貢献していくためには、以下の4つのステップが揃っていることが大変重要となります。

■人材関連データの一元化
■人材関連データの可視化
■人材関連データの活用
■データに基づく予測とKPIの構築

単に人事部に必要なデータだけではなく、現場や経営層が人材や組織のマネジメントをする際に必要となるデータ、マネジメントを行った結果蓄積される データ等をすべて一元化する。蓄積したデータを直観的にわかる形で可視化する。それらを判断/決断、行動するために活用。最終的には未来を予測して、経営 に貢献していく。こうした一連の活動を有機的につないでいくことができるシステムかどうか。

それが、投資した価値以上の価値を生み出せる「人材・組織マネジメントシステム」であるか否か、「タレントマネジメントシステム」であるか否かを分けるポイントとなります。

ただ、今の「タレントマネジメントシステム」の認識のされ方、ユーザーの使い方を聞いていると、上記のうち、「可視化」と「活用」の一部の範囲に留まって いるものが少なくないのではないかという印象を持ってしまいます。もしそれが事実だとしたら、少なくない投資の結果としては大変残念なことです。

人材・組織に関するシステムに限らず、よいビジネスアプリケーションシステムというのは、以下のような働きをするものです。

■使う人の「思考を止めない」「思考を発展させる」
■使う人に「気づきを与える」「行動を促す」
■使う人が「予測できる」「予実差を知り目標達成を実現する」

「タレントマネジメントシステム」に対してもこれらの働きを期待したいものです。これらを実現するために、上記の4つのステップが重要となります。

システムは多くの機能が提供してくれますが、それだけであれば、「点」です。

それらの「点」と「点」を、人の思考はどのようにつなぎたいと思うのか。もしくは飛び越えたいとと思うのか。全体という「面」のなかで、「点」や 「線」をどのように位置づけたいと思うのか。それは立場の違う人によって異なるのではないか。もしくは自社ならではの位置づけを発見できること自体が重要 なのではないか・・・等々。

単に「点」を「点」としてだけ提供するのではなく、このような人の思考や行動をサポートすることができて、システムは本当の価値を発揮します。

今後「タレントマネジメントシステム」を検討したり、活用したりしていこうと考えているとしたら、そのシステムは上記の4つのステップを揃えること ができるのか、思考・行動をサポートできるだけのクオリティや柔軟性、拡張性を持っているのか、是非確認をしていただきたいと思います。

もちろん、そこまでは期待しない、単にプロセスが簡略化できればいい、データが簡単に参照できればいいということであれば、それに見合うだけの投資にとどめ、簡素にまとめるという選択肢もあるでしょう。

重要なのは、中途半端な決定をしないということです。

「できる」と思って投資したシステムが、ふたを開けてみたら十分に力を発揮しなかった。これは絶対に避けたい事態です。そのためにも、今回のお話した内容を頭の中に置いていただいて、「タレントマネジメントシステム」に向き合っていただきたいと思います。

(2012年9月6日)

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