経営者に聞く

第1回 「なぜ、なに?」を徹底。自主的、主体的に行動できる人材を増やす

第1回 「なぜ、なに?」を徹底。自主的、主体的に行動できる人材を増やす

株式会社ドトールコーヒー  代表取締役社長 鳥羽豊氏

コーヒー豆、焙煎、食べ物にとことんこだわってきたドトールコーヒー。そうした「こだわり」の源泉についてお話を伺うとともに、全国に1400もの店舗を展開するなかで、そうした「こだわり」を維持発展させるためには何がポイントとなるのか。代表取締役社長である鳥羽豊氏にお話を伺 いました。


鳥羽豊氏  プロフィール

1964年東京生まれ。1988年ドトールコーヒー入社。焙煎工場、店舗勤務を経て、新業態開発、海外事業に携わったのち、1999年取締役に就任。2005年より現職。


「コーヒーを明るく健康的に楽しんで飲む」という新コンセプト

― まず初めに、ドトールコーヒーの歴史を簡単に教えていただけますか?

弊社は、焙煎業者としてスタートしました。喫茶店やホテル、レストランにコーヒー豆を卸す仕事です。創業時には既に大手数社が大きなシェアを持っていましたから、最後発だった我々はかなりの苦戦を強いられました。一旦取引の直前まで行っても、大手が価格競争を仕掛けてきてひっくり返されてしまう。ブランド力も弱い、価格競争でも苦戦という中で、どうやってコーヒー豆を売っていくのかと考えた結果が自分たちでコーヒーショップを経営する、ということでした。そうしてできたのが、「コロラド」です。

当時の一般的な喫茶店というのは、コーヒー自体に付加価値があるというよりも、場の提供や、音楽などエンターテイメントの提供に価値がありました。そして、どこか暗めのイメージで、健康的な場所とは認識されていませんでした。

そこで我々は、コーヒーを明るく健康的に、楽しんで飲むという、新しいコンセプトを作ろうと考えたのです。老若男女、誰もが安心してコーヒーを飲める環境づくりを目指しました。第一号店として、三軒茶屋のすずらん通りに10坪程度の小さなお店を出しました。これが爆発的なヒットを収めるのです。当時、一日にお客様が6回転すれば喫茶店としては人気店と言われていましたが、コロラド第一号店では毎日12回転はしていました。それを知った方々が、「私もコロラドをやりたい」「加盟したい」と。

― そこでフランチャイズ展開を?

当時は、ボランタリーチェーンでした。もともと、コーヒー豆の卸し先を増やしたいという目的で始めていましたし、会社にはまだフランチャイズをやるほどの体力がありませんでした。そうして、コロラドは250店舗まで増えていきます。
しかし、時はちょうど高度成長期。賃料、光熱費、水道代などの上昇に伴い、コーヒー一杯の値段も値上がりを続けていました。このままではやがてお客様が値上げを受け入れなくなる時がくると判断した創業者は、これからの時代に合った業態開発に取り組みはじめます。その結果生まれたのが「ドトールコーヒーショップ」です。

―「コロラド」の勢いあるうちに次の手を打たれていた?

創業者が喫茶業の原点を考えるためにヨーロッパ視察に出かけたのは、「コロラド」の全盛期です。

高度成長期に求められる新しいかたちのコーヒーショップとは

―なぜ、ヨーロッパだったのでしょう?

ヨーロッパでは喫茶業の歴史が何百年もありますから、まずはそこを見なくてはと考えたようです。各国の喫茶業について視察をしましたが、決定的だったのは、パリの朝の通勤風景です。人々が地下鉄の出口から、まっすぐカフェに入り、一杯のコーヒーをクイッと飲んで、颯爽とオフィスに向かっていく。座って飲む席も用意されていますが、多くの人が立ち飲みで済ませてスピーディーに店をあとにする。見れば、立ち飲み50円、テーブル席100円、テラス席150円と同じコーヒーでも席によって値段が違っている。この光景を目にし、「次の時代はこれだ!」とひらめいたといいます。

高度成長期を迎え、日本人はますます忙しくなっていくだろう。ゆっくりとコーヒーを飲んだり食事をしたりする時間も減ってくるはずだ。そうなれば、セルフの時代、立ち飲みの時代がやってくるだろうと。このアイディアが、80年に「ドトールコーヒーショップ」として実現しました。

―「コロラド」のように、最初から大ヒットをしたのですか?

当初はそこそこのヒットでした。コーヒーの立ち飲みということがまったく新しい考え方でしたし、当時300~450円が相場だったコーヒーを150円で売りましたから、「ドトールって、何かおかしい」と思う人もいたようです。今でこそ笑い話ですが、「あんなことをやっていたら絶対に潰れる」という噂が拡がって、資金の回収騒ぎが起きたことがあったくらいです。

―それが、ある時から一気に受け入れられていくわけですね。

はい。150円のコーヒーを売って、短期間で利益を上げようと考えたら、通常、できるだけ安いコストで店舗を出して、食器などもできるだけ安いものを使ってと、コスト削減に力を入れるでしょう。しかし、創業者は、150円のコーヒーだからといって、手を抜いては駄目だと。500円、1000円のコーヒーを飲む以上のクオリティを感じてもらえなければ、絶対にリピーターにはなってもらえないと考えていました。ですから、8坪とか10坪の店に、本物の木や石を入れて内装をし、当時ベンツが一台買えるような高級なコーヒーマシンを入れ、食器もボーンチャイナと銀のスプーンと、徹底的にクオリティを追求したのです。

―大変な決断ですね。

創業者には、朝から晩までがむしゃらに働いている人たちに、ふっと自分を取り戻せる時間、ふっと一息をついて次にまた頑張ろうと思える時間を提供するのだという強い信念がありました。その実現には妥協がなかったですね。こうした努力が実を結び、話題が話題を呼んで、朝から行列ができるような店がどんどん増えていきました。

豆、焙煎、食べ物に対する徹底したこだわり

― 信念に基づいた徹底したこだわりが、今のドトールコーヒーを作ってきたわけですね。

そう言えると思います。今は店舗についてのこだわりをお話しましたが、コーヒーそのものに対するこだわりも半端なものではありません。工場には焙煎師という、コーヒー豆を煎る専門家たちがいます。私も入社当時は、工場で徹底的にカッピングをしました。コーヒーの味見ですね。一日40杯くらい、焙煎師たちに混じって味見をするのです。「すっぱい」とか、「甘みが弱い」「苦みが立つ」などと言いながら、次の釜の調節をしていきます。最初の頃は、何を言われているのか、まったくわかりませんでした。煎りたてのコーヒーですから、基本的に美味しい。苦いはずのコーヒーに、すっぱいとか甘いとか、苦みがないとか、いったい何を言っているのだろう、と。

しかし、毎日40杯もそうやって飲み続けていくと、徐々に感じるものが出てきます。そこで、自分用のテスト釜を手に入れて、毎日ベストの調整を求めてカッピングと記録を繰り返していきました。それだけやっても、まったく同じ味というのはなかなか出ません。「これは旨く焼けた!」と納得できるのは、何千杯に一回という世界です。

― 何千杯に一回ですか。それはもう匠の世界ですね。

そうです。ただ、もちろん我々は商売をしているわけですから、安定した味わいを提供しなくてはなりません。そこで、徹底的にデータを取り、積極的に技術の進歩を取り入れて、常に美味しいコーヒーが提供できるように努力し続けているわけです。

今は、焙煎の話をしましたが、そもそも豆が良くなければ焙煎の技術も生きてきません。コーヒー豆の生産国では、大量に販売するために、いろいろな畑の豆を寄せ集めてしまうことが珍しくありません。そうなると、同じ卸会社から購入しても、ロット毎に質が異なるというケースが出てきてしまう。それでは常に美味しいコーヒーを提供することはできません。ですから、我々が考える「美味しい豆」の成分値を分析し、その質を提供できると確認できた農園自体を指定して、コーヒー豆を調達しています。

― そこまでされているのですね。ドトールコーヒーは、コーヒーもさることながら、食べるものも美味しいと思います。そこにもこだわりが?

そこもかなりのこだわりを持っています。例えばジャーマンドック。パンはフランパンの生地を使用しています。フランスパンというのは、温度や湿度、発酵の管理、小麦内のたんぱく質の含有量の管理など、美味しいものを作るためには非常に手間がかかるものです。開発当初、一緒にやってもらう会社を探しましたが、ことごとく断られました。そんなことはやっていられないと。そのなかで一社だけご協力いただけた会社があって、その後製粉会社などにもご協力いただきながら、作り上げていきました。

ソーセージについても、創業者がドイツで食べたものを再現するために、協力していただいた肉屋さんをヨーロッパまで連れていってしまいました。ソーセージってシンプルに思われるかもしれませんが、羊腸に詰めるときの圧力とか、肉をミンチにするときの温度など、美味しいものを作るには微妙な調整が必要になってくるのです。ここでの製法が今でも引き継がれています。

― 新しい食事のメニューも出ていますが、それらも同じように?

現在、モーニングメニューにトーストを出していますが、その開発の際には、日本各地で「美味しい」と言われているトーストはすべて食べました。そのうえで、開発メンバーと試行錯誤しながら完成させています。

こだわりの文化を、どのように浸透させていくのか

― そうした「こだわり」の文化をどうやって社員に浸透させているのでしょうか?組織の規模が大きくなってくると、頭ではわかっていても、「このあたりでいいや」といった妥協の気持ちを持ってしまう人も出てくるのではないかと思います。

「味」という面については、OJTですね。一緒にやって体で理解してもらうしかない。開発のプロジェクトでは、私自身も入って、徹底的に追求していきます。そこでは社長だとかメンバーだとかいったことは関係ありません。ブラインドテストで私が恥をかくことだってあります。そうした中で、「ドトールの味ってどの方向にいくべきか」「どういうものがいいのか」徹底的に議論をして、全体のレベル合わせをしていくのです。

また、自分たちのビジネス領域だけを見るのではなく、世の中の「美味しいもの」全体に目を向けるように言っています。どうして多くの人が美味しいと言っているのか。なぜ行列してまで食べたい・飲みたいのか、などを考える癖を身につけてもらうことも大事ですね。

― 新しいことに挑戦していく、起業の精神といったあたりはいかがですか?

企業規模が大きくなると、どうしても「失敗を恐れずに挑戦しよう」とか「一度失敗したことでも、再挑戦してみよう」といった意識がなくなっていきがちです。しかし、時代はどんどん変わっていますし、技術も変わります。ですから、メンバーが失敗を恐れて委縮しないように、トップが「やってみなはれ」と言えることが大事だと考えています。

我々は他社とのコラボレーション商品の開発にも取り組んでいますが、そこでぶつかり合いになることもあります。絶対に妥協できない「こだわり」がありますから、「それが実現できないなら、ドトールのブランドは使えない」と。

そんなとき、そうしたやり取りを見ている他社の技術者たちが内心ワクワクしているのを感じることがあります。多くの技術者が驚くほどの知識と経験を持っています。ですから、トップから「これを実現したい。失敗を恐れるな。やってくれ」と言われれば、100%力を貸してくれますし、最高にいいものを作ってくれる。そしてそれが市場に受け入れられた時、大変な喜びを感じて、次も挑戦していこうと思えるようになります。

「なぜ、なに?」を徹底。自主的、主体的に行動できる人材を増やす

― サービスについてはいかがでしょうか?店舗数が多くなってくれば、その質を高く、かつ均一に保つハードルは高くなっていくように思います。

現在、弊社の店舗は全国に1400ほどあります。そのうち80%近くがフランチャイズ店です。それらの店舗のサービスのレベルは、フランチャイズのオーナーさんの下にいる店長さんたちの考え方に大きく左右されます。そこで、毎月店長会議を開催しています。

売上や利益の目標の話も大事ですが、そこでは、店舗を良くしていくためにはどうしたらいいかについてのミーティングとトレーニングに力を入れています。長期的に売上利益を上げていくためには、店舗を良くしていくしかなく、そのためにはミーティングとトレーニングしかないからです。

― 具体的にはどのようなことを?

問題を抱えている店舗に対して注意を与えたとしても、現象面でしか捉えられなければ、結局すぐに元に戻ってしまいます。そもそも何が問題で、原因はどこにあるのか。それを解決するためには何が必要で、それぞれの人がどんな役割を持ってアクションしていかなくてはならないのか。そこをしっかり理解できるかどうかが肝になります。そのためには話を聞くだけではだめで、話し合いを通じて自分たちで考える。行動することを促進しています。

― マニュアルで解決する世界ではありませんね。

マニュアルが無駄だということはありません。問題は、その背景にある思想が理解されないことが問題なのです。ですから、店長さんたちを指導していくスーパーバイザーたちに対して、マニュアルに対して「なぜ、なに」を徹底的に考えるという活動を進めました。「なぜ清掃するんだっけ?」とか「なぜ光り輝くように磨かなくてはいけないんだっけ?」、「光り輝くってどういうことを言うんだっけ?」と、昔からあったマニュアルをすべて読み直したのです。

彼らが、単に「これとこれが悪いから、いつまでにチェックして、きれいにしておいてください」などというレベルのアドバイスをする程度にとどまっていては、良い店舗にはしていけません。そこに至るためのプロセス、処方箋まで書くことができて初めて、スーパーバイザーの仕事と言えるのだということを理解してもらいました。

また、書いた処方箋を自分でやってしまうのもだめです。そうすれば店舗は一瞬良くなりますが、3カ月後には元に戻っています。それが恒常的に動いていくための仕組み作り、ルール作りができるようになるよう考えてほしいと伝えています。そうしないと、0が1になっても、また0に戻って、それを1にしてと、いつまでたっても次のステップに進めませんから。1が5になり、5が10になり、10が30になり、、、という発展ができる組織づくりを目指していきたいと思っています。

― 人材育成全般については、どのように考えていらっしゃいますか?

今、成功事例にしがみついて、常識をぶち破っていけないような会社になってはいけないと強く感じています。そのためには、社員がチャレンジ精神を持って、これまで良いと思ってきたことを自ら根本的に覆していける。そして、自主的、主体的に行動を起こしていける。こうしたことが必要でしょう。そのためには、「なぜ、なに」を繰り返していく習慣をつけること。「そういうルールだから、言われた通りにやっています」ではなく、「どうしてそうなっているのか」「どうして、それでいいのか」「なぜこのような仕組みになっているのか」について、自分で咀嚼して、きちっと答えられる。そうした人材を育てていきたいと思っています。

― 最後に、経営者として人事にどのようなことを期待するのか、メッセージをお願いいたします。

画一的な仕事をしていたら、人事本来の役割は果たせないだろうと思います。経営指針と会社の情勢を理解して、何が強くて、何が弱いのかを把握する。では弱い部分を埋めていくために必要な能力は何か。同時に強い部分を3倍にも10倍にもしていくためにはどうしたらいいのか。そのためにはどんな人材が必要なのか。そうしたことを考え、徹底的に議論して、自分たちの言葉に落していく。そうやって考えてほしいですね。

そうすれば、例えば採用の時でも、自分たちに必要な人材を見極めるためにはどんな面接や選抜方法が必要のなか、自ずと見えてくるはずです。一方そうしたことができていないと、流れ作業になり、単に学校名や一般的にいいと言われている方法に流されていってしまうでしょう。

小手先の手段に安易に頼ってしまわずに、会社を強くしていくための役割を担っていってほしいと思います。

― 本日はどうもありがとうございました。

取材・文 大島由起子(当研究室管理人)/取材協力:楠田祐(戦略的人材マネジメント研究所)

(2012年12月)

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