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第11回 レッドオーシャン化した「タレントマネジメントシステム」市場に思うこと<2022春>

 日本で本格的にタレントマネジメントシステムが導入され始めたのが2010年頃から。それから、約12年。専業ベンダーだけではなく、様々なバックグラウンドを持つ企業の参入が続き、さながら"レッドオーシャン"の様相を呈している。
(※本原稿でいう「タレントマネジメントシステム」は主に、単機能のシステムではなく、「総合的にタレントマネジメントを支援する」方向を打ち出しているものを指す。)

 先日、各ベンダーが提示している、「キャッチフレーズ」「提供機能」「実現すること」を横並びで整理してみた。数年前を思い起こすと、各社とも提供機能を拡張させてますます多機能化しており、社名/製品名を隠してしまうと、どの製品なのかわからなくなるくらい酷似してきている。皆が、"すべての"機能を揃え"、"時代のトレンドに応える"ことに邁進しているようである。そんな状況だからだろう、「利用料が安い」、「導入支援が無料」、「オプションなしですべて活用可能」、「コンサルティングサービスの提供」、「診断ツールの無料提供」といった、各社の「差別化の切り札」が登場し始めている。

 そんなタレントマネジメントシステムを眺めていると、アーミーナイフが思い浮かぶ。アーミーナイフとは、1本のボディーにナイフの刃のほか、ドライバー・つめ切り・はさみ・やすり・栓抜き・のこぎりなどを納めた、折りたたみ式の多機能ナイフのこと。たくさんの機能が揃っていてアウトドア活動にはとても便利なツールだが、そもそも野外活動をしない人や、限られた活動だけに集中している人にとっては、多くの機能が不要か、まったく異なるコンセプトのツールの方が、実際のニーズを確実に満たす。しかし最初からアーミーナイフありきでスタートしてしまうと、機能の数の比較や個々の質に注意が行ってしまい、「そもそも自分たちには今、何が一番必要なのか?」という、重要な問いから離れていってしまう。

 今、"人事界隈"では、「これからの人事施策においては『タレントマネジメント』が必須で、それを実行していくためには『タレントマネジメントシステム』が必要だ」と思われているようである。もしくは、「『タレントマネジメントシステム』を入れないことにはタレントマネジメントができない」とまで考えている人たちもいる。そうした中で、世の中で提供されているタレントマネジメントシステムは、その範囲内での機能競争に突入しているように見える。確かに、優秀な"アーミーナイフ"は、使う場面、使い方、使う人の能力によっては大きな力を発揮するだろう。しかし、その前にそもそも、今自分たちが立ち向かっている課題は何なのか、それに対してどういう立ち位置にいるのか、を知り、それに対して必要なツールは何なのか(もしくは必要ない)を熟考する必要があるはずだ。

 しかし現在、「人事のシステム(HR Tech)」の世界では、そうした本質的な議論に立ち戻る流れはあまり見受けられない。確かにそこに立ち入ってしまうとビジネスを成立させることは容易ではなく、また、一度始まってしまった"機能競争"から距離を置くことが困難なことは、ベンダー側にいる一個人としては身をもって理解できてしまう。だからこそ、ユーザー側が、地に足をつけて、しっかりと見極めをすることが重要だと強く感じている。

 では、それに気がついたベンダーとして、こうした状況にどう応えていくべきなのか。ベンダーが提供すべき支援には、3つの観点があると考えている。

真の現状を知ることができる
決まったフォーマットを当てはめて、人や組織を眺めても、それはスタートにすぎない。そこから見えてきたこと、もしくは見えなかったことに対しての試行錯誤、仮説検証を経て初めて、通り一辺倒ではない自社の現状に突き当たる。それにどこまで付き合えるか。



課題を知ることができる
そもそも、タレントマネジメント、人材マネジメントが必要である理由は、会社が短中長期に存続し、成功・成長していくためである。だとすれば、人や組織の状況が経営やビジネスの状況と、適切かつタイムリーにつながっていないことには、真の課題は見えてこない。そうしたレベルでの各社独自のデータを、どこまで実行性のあるかたちで統合できるか。



やり抜くことができる
経営・ビジネスの成否に関わるタレントマネジメント・人材マネジメントは、戦略の領域であり、昨今では戦略を超えてイノベーションの領域とも言われている。つまり、独自性が強く、一般的な過去の成功体験の延長線上に正解がない世界だ、ということである。その難しい取り組みにとことん付き合っていけるのか。



 タレントマネジメントシステムの存在を否定するものではないが、そこには決定的に不足しているものがあり、それをカバーするツールや支援が必要であると考えている。その結果として、サービスベンダーとしては、既存サービスのブラッシュアップ( 【Rosic人材マネジメントシステム】)や、 新たな取り組み( 【Rosic統合人材情報システム】【Rosic経営情報システム】)を行っている。

 10数年前、シカゴで開催されたHR Technologyのクロージングセッションで、こんな話を聴いたことを思い出す。


 ある人が夜道を歩いていると、街燈の下で何かを探している人がいた。困っているようなので、声をかけると、「鍵を落とした」という。そこで一緒に探したがなかなか見つからない。しばらくして聞いてみた。「鍵は本当にここで落としたのですか?」と。すると、「どこで落としたのかわからないのですが、街燈の明かりが届いて、足元が見えるのがここなので、この場所を探しているんです」と、疑いもなく答えた。



 これだけ聞くと、そんなバカげたことはない、と思うかもしれないが、人事のデータ活用ではこうした状況が起こっているという警鐘だった。本当の課題がどこにあるかを真剣に考える前に、光が当たっているところ(=あらかじめ提供されている機能や分析ロジックで出てくる結果)を見て、自分たちの課題が見つかるのではないかと考えてしまっている、というのである。10数年以上前のアメリカでの話だが、今の日本でこの状況を、あり得ないと笑うことができるだろうか。

 人や組織の課題は、経営・ビジネスにも大きな影響を与えるし、当然、働く人一人一人の生活にも影響を与える。システムというツールを的確に活用することを真剣に考えていただければと思う。
2022年 5月 31日
以上

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