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第153回 西城秀樹さんの歌のうまさに、何故気がつけなかったのか。

少し前の話になりますが、歌手の西城秀樹さんがお亡くなりになりました。 その際、数多く、西城さんが歌う場面が流されました。

その時に驚いたのが、「この人、こんなにいい声で、こんなに歌がうまかったんだ」ということでした。

先日も、野口五郎さんが、西城さんと野口さんが出演した「二人のビッグ ショー」という番組を見ながら西城さんを偲ぶ、という番組を放映してい ました。そして改めて、歌が上手いな、と舌を巻きました。

私は、いわゆる「新御三家」、西城秀樹、野口五郎、郷ひろみがアイドル 歌手として全盛の頃に子供だった世代です。小学校のクラスの中で、秀樹 派、五郎派、ひろみ派に分かれていたのを思い出します。その基準は、基 本的に見た目の格好良さ。五郎派にはギターが上手いなどの他の要素も入 り込んでいた気がしますが、誰の見た目が好きか、という点が人気に大き く影響をしていたように思います。

音楽社会学を研究されている、大阪教育大学教授の北川純子氏は、西城さ んが亡くなった際に、彼が時代の中でどのように位置づけられてきたのか を調べたそうです。具体的には、「現代日本朝日人物辞典」と「大衆文化 辞典」における取り上げられ方をチェックしました。

すると、男性の新御三家(西城・野口・郷)と活動時期が重なる天地真理、 小柳ルミ子、南沙織の「新三人娘」についての記述は、新御三家の記述の 2倍あったといいます。「新三人娘」は、人物の紹介だけではなく、歌謡 曲の歴史といった他のジャンルでも取り上げられており、明らかに扱いに 差がありました。

「花の中3トリオ」(山口百恵、森昌子、桜田淳子)の扱いは更に 多かったそうです。

「こうした隔たりが起きる理由の一つは、アイドルを評価する評論家が、 主に年長の男性によって占められていたためだと考えられます。彼らが 女性アイドルの中に物語を描き、高く評価していたのと裏腹に、男性アイ ドルについては『女性ファンにキャーキャーさわがれているだけの存在』 と、一段低く見ていたのでしょう。」(北川氏)

と分析していました。この分析が100%正しいかどうかはわかりませんが、 一理はあるように思いました。

西城さんは、音楽番組「ザ・ベストテン」の司会をされた黒柳徹子さんが 「あんなに歌のうまい人はいない」とおっしゃっていたほどの実力の持ち 主でありながら、そうした評価は公の記録には反映されていない。

若い方々には、あの時代の価値観は想像できないかもしれませんが、 「男は黙って○○ビール」といったキャッチコピーを、「格好のいいもの」 「男たるものこうあるべき」と、多くの人が疑いなく確信していた時代です。

体の線がわかるキラキラの衣装をまとって踊りながら歌う若い男性、見た 目の良さで女の子にキャーキャーと言われている男性が、バイアスをもって 見られてもおかしくなかったように思うのです。

かくいう私も、最近改めて西城さんの歌を素直に聞くまで、彼の少し前の グループサウンズや、その後に出てきた、サザンオールスターズやツイス ト(世良公則)、Charといった人たちとは、別のカテゴリの人という無意 識のラベリングを行っていたことは、正直否めません。

年を重ね、そうしたラベリングから自然に解放されてみて、素の状態で歌 を聞いてみたら、それまでに見えていなかったこと、聴こえていなかった ことが立ち上がってきた、ということなのでしょう。

逆に、これまで話してきた固有名詞や時代の価値についてまったく知識が ない、実感値がない若い人たちの方が、素直にあの歌のうまさに気づける のかもしれません。

今、仕事で、人材に関して集まってきたテキスト情報などの定性情報をど のよう活用していくのか、考える機会が増えています。データ処理から導 き出される仮説、最近ではAIが出してくる提案やリストをどう扱うのかと いう話も多くなってきました。そうした際に、人に一定のラベルを貼るこ とになることを考慮し、そのことが独り歩きしないように意識することが 非常に重要だろうと、西城さんの歌を聴きながら改めて思いました。

特に、今、「埋もれてしまっている人材」をどのように見つけ出し、活躍 してもらうかが、人材マネジメントに関わる人たちにとって、重要な課題 に一つになっていると感じています。ぺったりと貼りついてしまったラベ ルで隠れてしまっているものはないか、そもそもラベリングをすることの プラスとマイナスをどうハンドリングしていくのか。考えていきたいと 思っています。


※ 参考にさせていただいた記事

「ヒデキ完璧! 励まし・切望...ローラ12通りの歌い分け」 朝日新聞 2018年6月18日



(2018年9月26日)


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