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第44回 コロナ禍で出た課題をポジティブな活動につなげ、学生を全力で支援

明治大学
就職キャリア支援センター
青木博氏

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新型コロナウイルスの感染拡大は、企業の採用活動や学生の就職活動にも大きな影響を及ぼしています。コロナ禍の中で、採用や就活の形はどのように変わっているのでしょうか。明治大学就職キャリア支援センターの青木博さんに、2020年からの企業や学生の動向、大学における就職支援のあり方の変化、そして今後の見通しについて話を聞きました。

明治大学 就職キャリア支援センター
青木 博氏 プロフィール

2005年学校法人明治大学入職。2014年より生田キャンパスにて理系学生向けの就職支援に4年間関わった後に、2018年からは駿河台キャンパスにて大学全体の就職支援体制の検討に関わる。
これまでに支援行事企画、未内定者支援プログラム立ち上げ、海外PBLなど幅広い業務を担当する傍ら、キャリアコンサルタントとしてこれまで4000件以上の学生相談実績がある。


企業も学生も、オンラインでの活動に振り回された2020年

2020年からのコロナ禍の中で、企業の採用活動や学生の就職活動は大きな変化を余儀なくされたと思います。はじめに企業の動きがどう変わったか教えていただけますか。

 21年卒業生への対応は、大きく3つに分かれたように思います。まず、前年から採用活動をスタートさせていた企業は、20年3月までに母集団形成がある程度できていたので、コロナの影響は比較的小さかったようです。

 一方、20年3月からの本格的な採用活動を予定していた企業は、大学での企業セミナーが開けないなど大きな影響を受けました。母集団形成がなかなかできず、採用活動に大きな後れが出ました。それでも、オンラインシフトを進めることで、その後れを徐々に挽回していきました。

 最も大きな後れを取ったのは、オンラインシフトがスムーズに行かず、対面にこだわった企業です。そういった企業の中には、前年以上に採用活動が長引いた企業も多かったようです。

多くの企業はオンラインにシフトしたのでしょうか。

 オンラインでの選考がメインになりましたね。もちろん、企業側にもオンラインに対する不安はあって、私たちのもとにもいろいろな問い合わせが寄せられました。学生はオンライン選考についてどう感じているのか。オンラインで入社を決められるのか。内定は出したが本当に来てくれるのか──。そんな相談を多数いただきました。

求人の数は例年と変わらなかったのですか。

 秋以降は、大学に届く求人が顕著に減りました。私たちも求人情報を集めるのに苦労しました。

コロナ禍が本格化していくなかで、学生はどのような反応をしていましたか?

 やはり、不安感が相当ありました。2020年4月からの緊急事態宣言中は、センターに多数の相談が寄せられました。多かったのは、採用活動はいつから再開するのか、採用中止もありうるのかといった問い合わせですが、ほかにも、ほかの学生の動きが見えなくて心細いとか、オンライン面接にどう対応すればいいのかといった相談もありました。

   
企業と直接接触しづらい一方で、就活に関する情報は玉石混交で沢山出回っている。冷静な判断が難しいという面もありそうですね。

 インターネットには数多くの就活系コンテンツがあって、中には必要以上に不安を掻き立てるものもあります。情報精査のサポートを大学側がしっかりしなければならないと感じました。

就職キャリア支援センターは、2020年3月、いち早くグループ相談会をオンライン化

キャリアセンターの業務自体のオンラインへの対応はどうでしたか?

 最初にオンライン化したのはグループ相談会です。これは20年3月から週2回のペースで実施しました。相談員2名に対して学生がチャットで質問する形式で、多いときには150人以上の学生が参加しました。それ以外の業務は、東京に緊急事態宣言が出される4月7日の直前までは対面で行っていました。個別相談のオンラインでの仕組が整備できたのは4月下旬です。

 正直、それまで就職・キャリア支援にオンラインツールを使ったことがありませんでしたので、何がベストなのか、どう活用するのが良いのか検討する必要がありました。しかし、悠長なことは言っていられません。オンライングループ相談会を実施しながら、並行して部内で検討チームを組み、学生にとって有用となるオンラインシフトを進めていきました。

対面業務も残っているのでしょうか?

 OB・OGの名簿を閲覧する際は、事前に来室予約をしたうえで、センターに足を運んでもらっています。

OB・OG訪問はどのようにしているのですか。リアルな訪問は難しいと思いますが。

 OB、OGの皆さんも在宅勤務になっていますから、学生が個人的にアプローチしてもなかなかつながらないことが多いようです。そこで、センターが主導して、OB・OGをオンラインイベントに招待して、そこに学生に参加してもらう企画を早い段階で実施しました。

結果だけを見れば、例年と大きな差はなかったという印象

21年卒業生の就職活動と並行して、22年卒業生を対象にしたインターンシップはどう動きましたか?

 例年どおりの時期にオンラインでインターンシップを実施した企業も多かったですね。会社のことを知ってもらうとか、社員の仕事を紹介するといったプログラムであれば、オンラインでも十分成立していたようです。

 一方、21年卒業生の採用活動が長引いて、夏までに準備が間に合わず、秋以降に開催する企業の動きも見られました。また、あくまでもリアルでの開催にこだわる企業の中には、コロナの状況を9月くらいまで見てから判断するといったケースもありました。総じて、夏期のインターンシップ開催は例年よりも減りました。

学生側のインターン参加意向はどうだったのでしょうか。

 就職への危機感があるぶん、インターン参加の意向は高まりました。とくに、大手企業やBtoC企業への参加希望が集中しました。ある食品メーカーのご担当者から聞いた話だと、定員の6倍から7倍のエントリーがあって、泣く泣く断らざるを得なかったそうです。中には、夏インターンに落とされたことで、その時点から就職活動に対して大きな不安や絶望を感じた学生からの相談も寄せられていました。

確かに、インターンに参加できないと不利になってしまうイメージはあります。

 私たちは大企業の採用担当者にヒアリングしましたが、「インターンシップは手間暇がかかるので、どうしても人数を制限せざるを得ない。インターンシップに参加できなかったからといってあきらめるのではなく、本選考の方にエントリーしてほしい」とおっしゃっています。学生たちには、多くの学内支援行事のたびに「参加できなかった人たちへのフォローもあるので、あきらめずに頑張ってほしい」と伝えるようにしました。

21年卒業生の就職状況は、結果的にどうなりそうですか。

 就職率が確定するのは卒業式後ですが、2月の学内調査の時点では例年どおりになりそうな見込みです。6月、7月くらいのタイミングでは、内定率は例年より10%から15%ほど低かったのですが、徐々に例年並みになっていきました。選考が遅れた企業が多かったり、公務員試験が秋にずれこんだりした影響で動きは遅かったのですが、コロナ禍による就職率の大幅な低下という現象にはならなそうです。

コロナ禍の影響で大学院に進む人は増えていますか。

 コロナ禍前の進学率は、理系学生も含め微減傾向にありました。その要因としては、理系学生の就職市場が最近は比較的売り手市場なので、学部卒業のタイミングで就職したいと考える学生が多いということが考えられます。コロナの影響がどのくらいあったかは現在調査しているところです。

コロナ禍で、業界によっては採用を見送る、もしくは大幅に採用数を減らすということも起きています。それを受けて就職浪人を考える学生はいませんでしたか?

 確かに、意中の企業の採用が中止となったことで、就職浪人したほうがいいのではないかといった相談はありました。そこでいくつかの企業の採用担当者にも聞いてみたのですが、来年度も採用活動がこれまでどおりできるかどうかは不透明だし、今後は中途採用も増えていくはずなので、まずは現時点で自分にあった会社に就職することをお勧めするという意見がほとんどでした。

 就職浪人をすべきか迷っている学生には、そのような企業の見解を伝えながら、そもそもなぜその業界、その企業に入りたいのかという話を一人ひとりとしました。志望理由を解きほぐしていけば、実はほかの業界やほかの企業でも十分に活躍できる可能性が高いからです。

コロナ禍によって、結果的にはポジティブな動きも加速している

明治大学は、低学年からのキャリア支援など、「就職の明治」と言われるくらいに学生の就職支援を手厚く行ってきたという歴史がありますよね。それでも、就職に対して意識の高い学生とそうではない学生がいたと思います。そのような意識の差は、コロナ禍の中でも見られましたか。

 意識の差はコロナ禍によって開いたように感じています。学生の本分は、あくまでも勉強なので、1年生から具体的な就職の準備をするべきだと私たちが考えているわけではありません。しかし、将来に関心をもって、未来の選択肢を増やしていくことと、社会に出てから必要とされる能力を身につけるために、いろいろなことに主体的に取り組んでいくこと。その2つにはぜひ取り組んでほしいと伝えてきました。

 学生の中には、1、2年生のうちから企業のPBL(Project Based Learning=課題問題解決型学習)のセミナーや、就職キャリア支援センターが主催する業界研究会、あるいは、OB・OG懇談会などに参加する学生もいます。そのような学生は、コロナ禍に就職活動をむかえても積極的な行動をとることができたように思います。それに対して、就職活動の広報解禁時期前であっても、これまで就職についてほとんど考えてこなかった学生は、やはり出遅れがちだったことは否めません。その差を埋めるために、どうフォローしていくべきか。それが私たちにとって現在の課題の一つとなっています。

今年の新入生に対しては、どのような対応をしていく予定ですか。

 いろいろな工夫をしていく予定ですが、中でも、部署横断型の学生支援体制づくりは、これまでになかった新しい取り組みになりそうです。学内には就職キャリア支援センター以外にも、留学やボランティア活動を支援する部署などがあります。これまで別々に学生支援をしてきたそれらの部署を横につなげて、学生支援を「点」から「面」にしていきたいと考えています。いろいろな部署が多角的に学生の成長を後押ししていく支援体制を実現するために、現在、いろんな部署に声をかけながら体制づくりへの協力を働きかけています。

これまではできなかった変革が一気に進むのは、コロナ禍のポジティブな面とも言えそうですね。

 そう思います。ほかにも、学内就職支援行事の整理も進みました。これまでは4つのキャンパスごとに行事が分散していて、全学で年間500くらいの行事がありました。それらの一部をオンライン化し、キャンパス共通の行事とすることによって、効率化と質の向上を実現し、年間300くらいまで整理しました。そこで生まれる余力を、例えば低学年の成長支援や、学生のニーズに応える仕組みをつくったりすることに充てられればと考えています。

オンラインと対面のハイブリッドな活動をどう構築していくか

そのような変革は今年も続いていきそうですか。

 おそらく、次の課題はハイブリット化になるでしょうね。オンラインでできることは何で、対面でやるべきことは何か。それを見極めながら、最適な支援やコミュニケーションの形をつくっていくことが今年以降の取り組みになりそうです。就職活動のフェーズによっても、オンラインとオフラインの最適なバランスは変わっていくはずなので、企業の皆様のご意見も聞きながら、より学生のためになる仕組みをつくれればと思います。

変化への対応力が問われることになりそうですね。

 学生を支援する立場の私たちはもちろん、企業にも学生にも変化対応力が求められていると思います。私自身は、その変化を楽しみながら、センターの機能を進化させていきたいと考えています。

企業の採用活動もハイブリット化していくと考えられますか?

 企業側も、時期や目的に応じてオンラインとオフラインを使い分けていくことになるのではないでしょうか。  

そうなると、学生の面接対策もオンラインと対面の両方が必要になりそうですね。

 おっしゃるとおりです。オンラインでは、心理的な距離が生じてしまう一方で、話の内容自体はより伝わりやすくなるという良い側面もあると言われています。そのメリットを最大限に生かして、自分の考えなどをより具体的に言語化していく練習をする必要があると思います。

 一方、多くの学生は2020年度の一年間、授業をほぼオンラインで受けてきたので、対面に対する慣れがないという問題もあります。対面の面接でも緊張せずにすむような面接対策、マナー講座も今後充実させていく予定です。

企業の人事の方々にお願いしたいこと

いろいろな不安を抱えている学生が多いことを考えれば、就職キャリア支援センターの役割は今後いっそう重要になっていきそうですね。

 頼りにされていることをひしひしと感じます。学生をしっかり支援するために、今後は、これまで以上に企業との連携が必要になると私は考えています。そこで私から企業の採用ご担当者様にお願いしたいことは、学生と企業との「共通点探し」のサポートをしていただきたいということです。

 学生が書く志望動機とは、学生と企業との「共通点」であると考えます。学生は双方に合致している価値観や自分の強みが活かせそうな場面等、自己分析と企業研究を通して共通点を探しています。
 一例で言えば,貴社内の現場社員の皆さんから具体的な仕事についてお話を伺う機会があれば、学生は、入社後に「自分がフィットするか」「やりがいを感じられるか」を考え、入社後の自分像を具体的にイメージしやすいと思います。

 このように、学生に寄り添い、互いの共通点探しを多角的にサポートをしていただくことで、学生は納得感をもって企業を選ぶことができるようになると思いますし、結果的に企業様にとっても自社のビジョンや社風に合った人材を獲得できるのではないかと考えます。  

このコロナ過を契機に、学生、企業、就職キャリア支援センターの三者がハッピーになる形をつくっていければいいですね。今日はありがとうございました。

取材協力: 楠田祐(HRエグゼクティブコンソーシアム 代表)
取  材: 大島由起子(インフォテクノスコンサルティング(株))
T E X T : 二階堂尚

(2021年3月)

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