第五回 これからの人材開発部門はどうあるべきなのか?

今回は、これからの人材開発部門はどうあるべきなのか、について考えてみたい。 実は、人材開発部門の位置づけについて考え始めたのは、約20年前にまで遡る。私が同業他社から異業種まで、様々な人事の人たちとの交流を本格的に始めた時期だ。その中で、「社内の教育や研修に関わる人たちは、会社・経営者からみて、コア人材なのだろうか?」と感じたことがあったのがきっかけだった。

人材開発部門の位置づけが引き起こす弊害

では、研修会社を「コストセンターでいい」と割り切る、もしくはきめられた研修を粛々と運営していく部署でいいのだと割り切れば、問題ないかと言えば、そんなことはないと思っている。

人事企画部門との連携の弱さによる弊害があるからだ。

ここ10年くらい、多くの企業で見受けられるのが、人事制度を企画・運営している部隊と、人材開発を担当している部隊〜それは事業会社になっていても、社内に部門として残っていたとしても〜の関係が決して良好ではない、という現象だ。もちろん、表面的には話をするだろうし、時には飲みにいったりもするのだろうが、「ガラスの壁」があるケースが非常に多い。

その背景には、同じ社員たちにサービスを提供する立場にありながら、社内での位置づけに決定的違いがある。

人事制度を企画・運営している部隊の人たちのキャリアを見ていくと、多くがコア人材として処遇されていく。最終的には、執行役員、更に取締役になる人も少なくない。

一方で、人材開発部門にいた人がその後執行役員や、まして取締役になっていくケースはほとんど見たことがない。事業会社になっている場合にも、異動は片道切符で、本体に戻ってくるケースはあまりない。

だから、暗黙のうちに、人材開発部門はどこかで「傍流」として見られ、人事企画と人材開発が対等な立場で良好な関係を持つということが難しくなっているというのが、現実だと思っている。

教育・研修部隊が事業会社になっている場合には、そのトップに本体で人事を経験したことがない人が指名されるケースも少なくなく、そうなるとますます本体人事との連携が薄くなる。

本来、総合的に人材に活躍していってもらうことを真剣に考えるのであれば、人事制度と教育・研修は連携してしかるべきだと思うが、こうした実態が存在してしまっているのだ。

「狭義の専門性」に逃げ込んでいく担当者

そうした環境の中で、人材開発担当者たちが何をし始めるかというと、資格取得に走って、教育の専門家になろうとする。

カウンセリングやコーチングに関わる資格や、教材づくり、インストラクションデザインといった分野の勉強にのめりこんでいく。そして、自分の得意分野を見つけて、更に狭い世界に入っていく人が少なくない。

誤解がないように言っておくが、専門分野を勉強することが悪いということではない。確かに、そうした知識や経験があるに越したことはない。

しかし、専門知識習得の動機が、「片道切符で本体には戻れないかもしれないから」「自分のポジションを守るため」といった保身からくるものだとしたら、「会社の戦略実現のためにどういう人材を育てるのが必要なのか」とか、事業会社なら「研修会社としての経営はどうあるべきか」といった、「全体」を考えられる人材は育たない。

結果、ますます、本社の経営チームとか人事企画に対等に物申せるような人がいなくなってしまって、会社内での位置づけが、低いものとなってしまう。

こんな風に見ていくと、企業は「人を大事にする」「教育を重視する」と言っているけれど、果たして本当なんだろうか、と思ってしまうのは私だけではないだろう。

常務会や、取締役会で、「人材開発」は真剣に話されているのだろうか、と。

あるグローバル企業が、研修事業会社がグループ会社にどんな研修を提供しているのか監査してみたら、あまりにもお粗末な研修があり、コスト管理もされておらず、非常に驚いた、という笑えない話を聞いたことがある。そうした会社でも、対外的・社内的にも、「人は大事」と言っているだけに、ちぐはぐな感じを受けてしまう。そして、こうした現象は、その会社だけが特別というわけではないのだ。

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