第六回 成功するコーポレートユニバーシティ・失敗するコーポレートユニバーシティ

前回は、「これからの人材開発部門はどうあるべきなのか」について考えたが、今回はコーポレートユニバーシティについて考えてみたい。 (ここでは、コーポレートユニバーシティとは、一般的に従業員全員が対象となるような教育・研修ではなく、次世代の経営層を選抜育成するための教育・研修を提供する機能と定義する。) 「コーポレートユニバーシティ」という考え方が日本で取り入れられるようになってきたのが、2000年前後、10年ほど前のことだ。その頃から、各社のコーポレートユニバーシティの担当者に毎年会ってきた。その経験を通して今感じているのは、10年かけてコーポレートユニバーシティの質を上げて成果を出しているところと、ほとんど野放し状態で実質的には機能していないところで、二極分化している、ということだ。

選抜研修・ポジション・報酬の3点セットを機能させられるか

さて、こうした残念な失敗例がある一方で、コーポレートユニバーシティを発展させて、次世代の経営層を育てている企業もある。

私がこれまで訪問した中で、コーポレートユニバーシティが成功していると思える企業を挙げるとすると、トヨタ自動車、キヤノン、パナソニック、ソニーといったところだろうか。

トヨタ自動車は、2002年に「トヨタインスティチュート」を開講した。トヨタインスティチュートというと、まるでまったく別の会社が存在するような印象を受けるが、実はそうではない。

トヨタ自動車の人事系部門には、人事部、人材開発部、そしてトヨタインスティチュートがあるが、この3部門は並列に存在している。トヨタインスティチュート部というと違和感があるので「部」を取ったということだが、あくまで、人事制度の企画や労政を行う人事部と、採用と一般的な教育を担当する人材開発部と、同等の位置づけになっているのだ。これが重要なポイントだと思う。

なぜなら、コーポレートユニバーシティでの選抜研修がうまく機能し続けるためには、選抜研修とポジションと報酬が3点セットになっていることが重要だからだ。

この3点セットを機能させるためには、人事制度を担当している部署と、選抜研修を担当している部署とのコミュニケーションが日頃からよく取れていて、定期的に人材の交流もあることが望ましい。つまり、一体感を持って動けていることが重要である。トヨタ自動車の組織構成は、そのために理想的な形のひとつなのだ。

このあたりがうまくいっていない企業を見ていると、選抜研修を担当する部署をあまり考えずに別会社や別組織にして、その時々の経営者の意向によって、プロフィットセンター化を目指したり、コストセンターでいいと言ったりする。そして、そうした別会社が、本体からの天下りや出向先として使われるようになる。

天下ってきた社長やトップは、本体で人事や人材開発のミッションを経験していないということも珍しくない。出向者も、実質は片道切符で本体の人事機能に戻ることは期待できない。そうなると、本体のコア人材を育てるにはどうしたらいいのかを考えるよりも、自分たちのマニアックな専門性を上げることに注力するようになる。

そんなことで、いい選抜研修が提供できるわけがない。

結局、昇進昇格といったことは従来通りの「派閥」といったもので決まっていく。だから、人事から独立した形の組織となったコーポレートユニバーシティのトップの座は、ますます役職定年ぎりぎりの「お土産ポスト」の色合いを強めていく。そして、次世代の経営層を育てるという本来の役割を果たさなくなっていくのだ。

こうなってしまった会社の打合せ場所を観察していると面白い。人事部と選抜研修担当部署が別のビルにある場合には、必ず人事部がある方に選抜研修担当者が出向く。そこには見えない上下関係ができているからだ。

こうした状況で、選抜研修とポジションと報酬の3点セットを機能させることは難しいし、ポジションや報酬に影響を持てない選抜研修が本当の次世代リーダーを生み出すとは思えない。また、そもそも、人事部より下、「傍流」とみられてしまった部署(会社)に、本当に次世代の経営層(リーダー)を育てることができるのか・・・。

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第八回 これからの人事部のあり方 〜 新たな人事の役割を考える

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第六回 成功するコーポレートユニバーシティ・失敗するコーポレートユニバーシティ

第五回 これからの人材開発部門はどうあるべきなのか?

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破壊と創造の人事

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