第六回 成功するコーポレートユニバーシティ・失敗するコーポレートユニバーシティ

前回は、「これからの人材開発部門はどうあるべきなのか」について考えたが、今回はコーポレートユニバーシティについて考えてみたい。 (ここでは、コーポレートユニバーシティとは、一般的に従業員全員が対象となるような教育・研修ではなく、次世代の経営層を選抜育成するための教育・研修を提供する機能と定義する。) 「コーポレートユニバーシティ」という考え方が日本で取り入れられるようになってきたのが、2000年前後、10年ほど前のことだ。その頃から、各社のコーポレートユニバーシティの担当者に毎年会ってきた。その経験を通して今感じているのは、10年かけてコーポレートユニバーシティの質を上げて成果を出しているところと、ほとんど野放し状態で実質的には機能していないところで、二極分化している、ということだ。

会社の中でどう位置付け、どういう人材を担当させるのか

もちろん、コーポレートユニバーシティや選抜研修機能を別会社に置いて、うまくいっている企業もある。

大事なのは、コーポレートユニバーシティなり選抜研修が会社組織の中でどのような位置づけにあるのか、次世代経営層に何を求めるのかが明確になっていること。そして、そうした組織にはどのような人材がふさわしく、その人材のキャリア形成をどうすべきなのかをしっかりと考えることだ。

だから、前出の「プロトタイプ型」のように、他の会社の考え方や研修内容をそのまま持ってきて、そのまま使ってもうまくいくはずがない。

例えば、うまくいっている企業のひとつとしてキヤノンを挙げたが、キヤノンのコーポレートユニバーシティ(キヤノングローバルマネジメントインスティチュート)に対する考え方と、トヨタ自動車の考え方はかなり異なる。例えば、キヤノンは、精神的な面を重視しているのに対して、トヨタ自動車は「仕組み」の伝承を重視している。

同じように日本発でグローバル化を進め、次世代経営層を育てることに熱心だとしても、企業が異なればこんな風に方針や内容は異なってくるのだ。こういう点を考え、議論し、実行できる人材を置かずして、選抜研修の成功=次世代経営者の育成はうまくいくはずがない。そこに、天下り社長(トップ)やマニアック社員を配置しても、成果が期待できないのは自明のことだ。

ちなみに、トヨタインスティチュートの選抜研修で部長クラスが受ける研修の講師は、会長と副会長、そしてリーダーシップを英語で教えられる大学教授だという。ここからも本気度が見てとれる。

また、トヨタ自動車にしても、キヤノンにしても、「インスティチュート」という言葉を使っている。「インスティチュート」は、高等教育機関または研究所を意味する。英語に馴染んでいる人に対して、ステイタス感を感じさせるものだ。何より、そうした機関になるのだ、という意思の表明でもあるし、コミットメントでもあると言えるだろう。

コーポレートユニバーシティという考え方が日本に浸透し始めて約10年。言葉としては定着した感はあるが、実は機能していないケースが多いのではないか。コーポレートユニバーシティの本質が、次世代の経営層を育て、会社を発展させていくことにあるとしたら、経営層はもっと危機感をもって、現状を見直した方がいいのではないか。最近特に強く思うようになった。

2010年は採用を抑制する企業が多いので、既存の社員を育成しようという風潮が強くなってくるのではないかと想像している。その流れの中で、是非、一度自社の選抜研修についても、見直してみていただきたいと願っている。 

(2010年1月)

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