HR Professionals:人事担当者インタビュー

第2回 【後半】グローバル競争で勝ち残るために、残されたチャンスは本社機能のテコ入れ

第2回 【後半】グローバル競争で勝ち残るために、残されたチャンスは本社機能のテコ入れ

野村證券株式会社 人材開発部 シニアHRDアドバイザー 藤岡長道氏

今回は、積極的にグローバル化を進めている野村證券株式会社でグローバル人材の育成に携わってきた藤岡氏にお話をうかがいました。グローバル企業における「安心感」の意味、「ルールを創る力が必須」「本社は価値創造工場である」など、今後の活動のヒントになるお話を多数伺うことができました。 (この記事は、個人的見解であり、所属する会社や所属する組織とは一切無関係です)


藤岡長道氏  プロフィール

野村総合研究所で証券アナリストとして欧州株式ビジネスの創業にリサーチの立場で参画後、秘書室長、人材開発部長。野村證券投資情報部長として国際分散投資を進め、野村信託銀行取締役。2009年より研修体系の再構築を志し野村證券人材開発部へ。 日本証券アナリスト協会検定会員。日本人材マネジメント協会幹事。ASTD Global Network Japan 理事、CIA公認内部監査人

前回の対談内容はこちらから↓
グローバル競争で勝ち残るために、残されたチャンスは本社機能のテコ入れ(前半)

ルールづくりができることが、日本人には求められている

― そのように海外のタレントを本社に注入していくと、日本人社員のグローバル化も必要となってきますね。

その通りですね。グローバル人材を育成するにあたって重要なことは3点あると考えています。

1)     コスト・コントロールができる(守り)
2)     新しい分野や、やり方を創造することができる(攻め)
3)     ルールを作ることができる(枠組みの合意)

こ れらに対して現在日本人がどの程度できているかを考えてみると、1)については、従来から意識されてきていることなので大きな問題はないと思っています。 A評価をつけてもいいでしょう。2)も、日本発のユニークな商品やサービスは少なくありません。評価としてはB´くらいでしょうか。しかし、これから一番 重要となってくる3)については、正直、日本人は非常に弱い。最低に近い評価をつけざるを得ないのが現状だと思います。

競争に勝っていく ために、「ルールを創る」というのは非常に重要なことです。スキーのジャンプや柔道で起きたことを考えみてください。ルールが変われば、戦い方も変えなく てはならなりません。自分の戦い方にあったルールを創ることができれば、確実に勝利に近づきます。その点、イギリス人やアメリカ人はパワフルです。

例えば、イギリスは製造業での優位性を失ったあともISOのスタンダードに関わり、それによって富を得ています。それは、彼らにルールを創造する力があるからです。

ルールを創るために必要な力は3つあります。

・    英語でディベートをする力
・    論理的に考え、表現する力
・    異文化の人と「和」ができる力

グ ローバル企業がグループ内を統制していくためには、ルールを創り、皆に納得してもらって、実効性のあるものにしていくことが必須です。そのためには、基本 的な語学力とディベートの技術、文化の異なる人に理解してもらえる論理的思考とその表現、そして、異文化内での「和」を作れる力が求められます。

― 異文化の人と「和」が入っているのが興味深いですね。

文化の異なる人たちで合意を取る際には、理屈を超えたところで対立が生まれやすいものです。そんな状況下でルールを 創り、徹底していくためには、しっかりとしたロジックをもって対応すると同時に、人として納得できるかどうかに気を配ることも大事なポイントとなります。 感情的な対立は尾を引きますからね。日本人はもともと「和」の形成が得意なのですから、異文化が存在する環境それを実現できたら、非常に強いと思います。

「価値の製造工場」である本社機能に「科学」を取り入れていく必要がある

― ここまでは、「人材」に焦点を当ててきましたが、本社の組織運営という観点からのグローバル化も必要になってくるように思います。

それも重要なポイントですね。何が必要かを明確にするために、製造現場と本社機能が戦後どのように変化したのか、もしくはしなかったのか、について整理してみましょう。

伝 統的な日本の製造現場は「和」を大事にしてきました。みんなで頑張ろうと。職人芸を奨励してきたと言ってもいいかもしれません。そこには「科学」という考 え方は入っていませんでした。そうした製造現場に、戦後、QC活動が取り入れられました。「和」に「科学」が加わったのです。

一方、アメ リカの工場は「科学」一本やりでした。ホーソン工場の実験に代表されるように、実験に基づいて人間の行動を分析し、制御していくという方向に走っていっ た。心理学者なども動員して、成功のための理論化を徹底的に進めていったわけです。それに対して日本の製造業がアメリカを凌駕できたのは、製造現場で「科 学」と「和」がうまく融合したからだと考えています。

ところが、製造現場での成功に対して、本社機能・経営については、戦後も「科学」を取り入れることができず、「和」中心主義がそのまま生き残ってしまった。これが大きな問題だったと思います。

例 えば、戦前から優秀な人材を集めてきた日本の大企業が7年ほど前に実質倒産しました。創業当時から長年屋台骨だった事業部を、時代の変化に合わせて思い 切って縮小することができなかったからです。仲間の「和」を偏重する文化が、その事業部を仕切ってきた大先輩たちを否定するような行動を押さえこみ、粉飾 決算が繰り返されることになってしまった。あのレベルの企業の経理の幹部が、やっていいことといけないことを分かっていなかったなどということは考えにく いです。合理判断、科学を伴わない身内の「和」が、彼らの判断を狂わせていったわけです。

これに対して、「科学」をうまく取り込んだ製造 現場では、平社員である工員が、上司が承認した図面等に異を唱えてもまったく問題がありません。「工程上不良品が出ているから、ここはこう直した方がいい んじゃないか」と。工員の意見を「科学」がバックアップしてくれるからです。しかし、本社機能の中で、常務が出したプランに平社員が「これは合理的ではあ りません」などと言ったが最後、どんなに正当な意見であったとしても、その社員の社内キャリアは終わったも同然でしょう。これが「科学」が入っているか否 かの違いです。

工場と本社機能と分けて考えましたが、それぞれ会社経営のための機能と捉えれば、どちらも「価値」の「製造現場」のはずで す。そう考えると、本社機能は「意思決定の工場」ということができます。本社の仕事は、「意思決定の品質とスピードを上げること」。その生産ラインのメイ ンとなるのが「会議」です。つまり、「会議」をいかに合理的に進めていけるかが、意思決定の品質とスピードを上げていけるか否かのカギを握る。そのために 「科学」の視点を積極的に取り入れていく必要があるのです。日本企業はこうした点を強化していくことで、競争力を上げていくことができるのではないでしょ うか。

― 「人事」という視点から、その点について具体的に貢献できることはありますか?


気 がついたのは、日本の会社には会議をファシリテートできる人材が極端に少ない、ということでした。ここでいうファシリテート/ファシリテーションとは、会 議などで、参加者全員に能動的な発言や参加を促し、目的に合った質の高い合意形成を促進させていく一連の手法や技術、行動をいいます。残念ながら、普通に 日本の学校で教育を受けて、日本企業に入ると、ファシリテーションを学ぶ機会はほとんどありません。ですから、会議の中で「権威者」が出てきて、その人が 中心となって「和」で決めていってしまう傾向があります。言いかえれば、「空気」を読んで、それをうまく操作できる人が会議の決定権を握ってしまう。マネ ジメント層にはファシリテーションのトレーニングが必要でしょう。課長レベルになると、正式な組織の意思決定とその結果に対する責任を負うことになり、会 議のマネジメント手法をしっかりと身につけていることが求められるからです。

自分たちの成功を因数文化して、方法論・科学にしていく努力が必要

― 先ほどの「ルールづくり」もそうでしたが、日本人は全般的にロジックを作っていくことが苦手なように思います。

そうですね。我々は、自分たちが成功したこと、やっていることを因数分解して、方法論・科学に昇華させていく努力が必要だと痛感しています。それによって、再現可能性が高まり、ビジネスの質とスピードを下げずにグローバル展開をしていくことが可能になるからです。

日 本には日本人が創業し経営してきた素晴らしいホテルがいくつもありますね。しかし、世界の都市への海外進出という面では、まだまだ余地が大きいのではない でしょうか。おもてなしの心をはじめ、自分たちのサービスを因数分解して、科学的トレーニングに展開すればチャンスがあるはずです。一方、欧米資本のホテ ルでは、数年前に移民をしてきてその国の文化に馴染みきっていない人でも、短期間でトレーニングを施し、最高のスタッフにする方法論を確立しています。だ から、国際展開力があるんです。

例えば「モチベーション」。アメリカでは、従業員のやる気を引き出すためにはどうしたらいいのかを知るた めに、成功・失敗を因数分解していきました。インプット=刺激を与えると、アウトプット=結果が出てくる。そのアウトプットを会社にとってハッピーなもの にしてくためには、どういうインプットをすればいいのか。行動心理学を初めとした学問を駆使して徹底的に研究していく。その結果、モチベーションのマネジ メントを科学的に行う方法論を確立させていきました。それを今、日本人は一生懸命学ぼうとしているわけです。しかし実は、日本人は長年「和」の力を利用し て一人一人のやる気を引き出すことに成功してきました。ただ、あくまで感覚的で、明確な方法論や理論にはなっていなかったため、環境の変化に対応できな かった。そこで、アメリカから輸入した理論に頼らざるを得なくなってしまった面があります。

例えば、品質改善プロセスの「シックス・シグ マ」も、元をたどればトヨタ等で行われてきたことを米国企業が因数分解して科学にしたものです。日本企業のビジネスの中には優れた考え方や習慣、運用があ ります。それを方法論・科学にしていく工夫、再現可能にしていくことが必要です。

― 本日、グローバル化に対応するためのヒントを数多くいただきました。どうもありがとうございました。


(この記事は、個人的見解であり、所属する会社や所属する組織とは一切無関係です)


取材・文 大島由起子(当研究室管理人) /取材協力: 楠田祐 (戦略的人材マネジメント研究所)

(2011年10月)

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