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第155回 日本ラグビーのスクラムコーチから学んだこと

2019年9月28日、ラグビー日本代表が、2015年大会に続き、「大金星」 「ジャイアントキリング」といわれる、歴史的勝利を収めた。
「いやいや、この勝利は、十分な準備の上に当然得られたものだ」という 意見もあるし、確かにそうかもしれない。しかし、試合前、全世界のラグ ビーファンのほとんどが、日本が勝つとは思っていなかったことは否定で きない。

ラグビーには、「スクラム」というものがある。前線を任される体躯の 大きい8人(フォワードと呼ばれる)が、相手に対して3-2-3の陣形で前か がみに体を組み、同じ陣形を取った相手8人と押し合うもの。

単純に考えれば、8人の合計体重が大きい方が有利になる。確かに長年、 強豪国といわれる国と比較して相対的に体の小さい選手が多い日本は、 スクラムで押し切られてボールを失うことが珍しくなかった。 (悔しい思いを沢山した)

28日の勝利では、アイルランドのフォワードの合計体重が912kg、日本が 897kg(先発メンバー発表時のデータから計算)。長年ラグビーファン だった者からすれば、日本代表選手もここまで大きくなったのか、と感慨 深くはあるものの、それでもやはり、合計体重では負けていた。

しかし、この日の日本チームはスクラムで互角以上の戦いを見せ、フォワード の強さが売りひとつであるアイルランドの牙城を崩すことに成功した。

この快挙を支えた人物が、日本チームのスクラムコーチの長谷川慎氏である。 スクラムへのこだわりの強さが世界一と言われるフランスに留学。スクラム の研究機関や様々なチームに足を運んで、スクラムを強くするためのコツ、 ヒントを集めまわったそうである。

その中から、日本にとって有意義なヒントをピックアップし、日本の選手に 合うスクラムの組み方を考案したという。

ここで気がついたことがある。飽くなき情報収集への執念にも頭が下がるが、 本当のすごさは、「誰が戦うのか」「誰と戦うのか」を徹底的に考え、分析し、 理解している土台の堅固さと、新しい試みからのフィードバックを吸収しな がら、自分たちにとって一番であると言い切れる方法論にまで昇華させた 粘り強さだろう。

今の時代、単に情報を集めることのハードルは下がっている。しかし、自分 たちが得るべき情報を確実に手にする大前提は、「自分たちにはどういう情 報が必要なのか」を取捨選択して判断できる、自己理解、環境(状況)理解、 それらに基づいた課題把握である。ここがぶれてしまうと、逆に情報の波に 飲み込まれ、努力をしているつもりが、思いもかけないマイナス方向に進ん でいってしまう危険性がある。

私が身を置く「人事とIT」「人事とデータ」という世界でも、様々な情報、 キーワード(バスワード)が飛び交い、後から後から新しいものが登場して くる。時々、そうした情報をとにかく集めて、迷走している人たちを目に することもある。サービス提供サイドにいる私自身も、目まぐるしい流れに、 思わず流されそうになることがある。

自分たちは何者で、どこで誰と戦う(共存)するのか。自分たちにとって 一番重要な課題は何なのか。

あふれる情報(特に、マーケティングといった思惑が絡んだもの)から少し 距離を置いて、自分たちの土台から考える時間を作ってみるのはどうだろう か。

組織の「スクラム」。1人×8を8以上の力にしてくためには、自分が所属 する組織ではどう取り組むべきなのか。隣の組織や海外の企業での 「正解」が、そのまま役立つとは限らない。

(2019年10月2日)
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