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人材マネジメントシステム設計者からの提言
人事が経営に資するために必要な、
「人材」×「仕事」×「組織」のデータ活用

■ 執筆者
インフォテクノスコンサルティング株式会社 取締役 兼 プロダクト事業統括 斉藤 由美氏

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2. データ活用で経営に貢献しきれない理由は何か

豊富な人材データはあるが、実はデータ提供が不足していた

 前述してきたように、私自身、人材データの活用について長年考え、システムを通じてお客様をご支援してきました。その中で、それまで感じてきた問題意識に改めて向き合うきっかけをいただく仕事がありました。

 長年、従業員のデータ管理・活用をご支援してきた企業(A社)から、新しいご相談がありました。「貴社のシステムで管理している従業員のデータを活用して、定期的に経営資料をExcelで作成している」「人のデータ以外も必要な資料だが、作成の自動化を支援してもらえないか」というものでした。うかがってみると、経営層が要員計画・配置検討などを含めた経営判断の際に活用する資料で、作成にあたっては膨大な工数がかかっている、ということです。資料の性質上担当者の使命感、緊張感は高いのですが、その重要性に反して、資料を作成する手作業に手いっぱいで、資料自体の内容にまで踏み込みきれないジレンマも感じられていました。また、指示された資料を作成するなかで、「別の形の資料も必要だ」「補足資料があれば、更に有効なものになる」と気がついたとしても、それらを作成、提供するだけの余力が残っていないのが大きな悩みでもありました。

 もともと、「人材データを経営情報にしていく支援をする」というのが、私たちのシステム設計・開発にあたっての達成すべきゴールとして、常に念頭にありました。それに向けて、ここ数年は人材データの柔軟な分析に耐えられる一元化の実現や、人材データの分析・シミュレーションのご支援の依頼を多数いただき、多くの時間を割いてきていました。それら自体は価値があることだと感じてきましたが、同時に、「その結果として、経営層が人材データを活用して経営判断ができているか」には、十分な手ごたえを感じられずにいたのも事実でした。

 そんななか、A社のご支援をすることで、ひとつの明確な課題に気づくことになりました。それは、経営判断を支援していくためには、「データ提供(提供すべきデータ)が決定的に足りていなかった」ということです。足りなかったのは、人材データではありません。前述したように、昨今は、「HR Tech」を使って、人材に関する様々なデータを比較的簡易に取得できるようになってきています。確かに、人に関連する情報が多いに越したことはありません。しかし、「経営に資する」ために本当に不足していたのは、ビジネスの成功を図る数字や指標(売上・利益・顧客満足度など)、仕事やタスクの情報(内容、期間、難易度、重要度など)であり、それらの情報と人材情報を関連づけて柔軟に分析していく仕組みだったのです。

 A社では、人の情報と案件(仕事)の情報、それに組織関連(会計情報なども含む)の情報を組み合わせて、短期、中長期のビジネス判断を行っていました。しかし、「人材」「仕事」「組織」など、バラバラに管理されているシステムから取得されるデータを、ほとんど手作業でExcelに集約し、経営資料にしていたのです。A社のシステム化が遅れていたわけではありません。人材データの一元化も進んでいた、案件管理のシステムも長年稼働させてきた、会計システムももちろんしっかりしたものが導入されている。しかし、それらはそれぞれの業務での最適化がされており、ひとつ上の経営視点で活用できるような仕組みにはなっていなかった、ということです。

 長年、人事に関わっていると、「人事は人に関する情報を扱って課題を解決するところ」という固定概念に縛られてしまいがちです。しかし、経営層やビジネスの長が、人材の情報だけで経営判断、ビジネスでの決断をすることはないことはほとんどありません。私自身も経営に関わっていますが、事業に関する数字や指標、ビジネスを支える仕事やプロジェクトの情報を把握したうえで、それらと適性やキャリア、相性などの人材情報を関連づけていき、適切な判断をしようと努力しています。A社での膨大な手作業も、こうした各種の情報を、適切な判断をするために整理する、というものでした。そうした要請に対して、これまでの人材・タレントマネジメントシステムの枠組みだけでは、真の課題解決・意思決定のための情報提供が決定的に不足していたのです。

 「自社の人材関連の課題解決」を経営レベルの視点で考えるとき、自社での短期・中長期のビジネスの成功は何なのか、成功のために積み上げていく仕事やタスクはどうなっているのかを、人材の状況と有機的につなげて考え抜かない限り、「世間で一般的に良いと言われている人事施策、組織活性化策」の呪縛にかかってしまいます。人事が「良い施策」を実行しているつもりで、経営・ビジネスの観点から見ればほとんど成果が出ない、時に逆効果をもたらしてしまった、という状況に陥る危険性があることに自覚的である必要があります。

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■ PROFILE
インフォテクノスコンサルティング株式会社
取締役 兼 プロダクト事業統括 斉藤 由美氏

人事業務担当者として人事業務改革、人事情報システムの運用を担当。その後ITコンサルタント、人事コンサルタントを経て、2000年にITCを設立。人事にとどまらず、経営者が必要とするシステムを提案・構築できるコンサルタントとして活躍。Rosic人材マネジメントシステムの基本構想から設計に関わり、経営に貢献できる人材マネジメントシステムの発展に力を入れ、活動を続けている。