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「人的資本経営」時代に、「人材データ」とどう向き合っていくべきか?
~真に「経営に資する人事」になるための試案2021~

■ 執筆者
インフォテクノスコンサルティング株式会社  セールス・マーケティング事業部長
大島 由起子氏

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目次


本稿の問題意識

 2021年7月現在、人材データ活用に関して、大きな変化が起きていると強く感じています。 まず、2020年8月に、アメリカの証券取引委員会が、「人的資本の情報開示の義務化」を発表しました。このことによって、人的資本の情報開示の基準の一つとなっていくであろうISO30414について関心が集まり、これまでとは異なる角度でのデータの扱いの必要性が取り上げられるようになっています。

 また、2020年9月には、経済産業省から「人材版伊藤レポート・持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書」が発表され、そのことによって「人的資本経営」という考え方が大きく注目されています。そこでは、人事戦略は経営マターであり、だからこそ、人材ポートフォリオの構築や、定量的なKPIへの取り組みが重要だと提言されています。

 そして、切り口の角度が異なりますが、2021年4月から「新収益認識基準」が適用されます。対象企業の場合には、人件費管理について、何らかの対応が必要なケースが出てくるでしょう。

 最後には、これはここ数年の傾向ですが、「人材データ活用」に関する情報やサービスが大幅に拡大し、新たな参入企業も増えています。「タレントマネジメントシステム」を始めとして、HR Tech市場が拡大。「ピープルアナリティクス」という言葉も一般的に使われるようになっています。

 こうした状況を背景として、「人材データ」について、様々な立場の人たちが、いろいろな角度・視点で意見や情報が発信されている、というのが現状です。

今起きている変化

人的資本の情報開示の義務化
「人的資本経営」への注目
「新収益認識基準」の運用開始
「人材データ活用」に関する情報・サービスの大幅な拡大

 このように様々な情報が飛び交う中で、「落とし穴」に落ちてしまわないために、理解しておくべきことが見えてきました。

 一点目が、「情報開示」と「情報活用」の意味と目的です。「情報開示」、特に比較可能性を重視した標準化の話と、自社の経営戦略を支える人事戦略のための「情報活用」について、それぞれの意味と目的が整理されていないケースが少なくありません。意味と目的がしっかりと理解されていなければ、正しい手段を選び、満足のいく結果を出すことは不可能です。

 二点目が、「人的資源」(Human Resource)と「人的資本」(Human Capital)の関係、です。ともすると、人材を資源としてとらえることは「古くて」「良くないこと」で、今後は「資本」として捉えるべきという、二項対立、二者択一の議論になっていると思われることがあります。本当にそうなのか、という問題です。

 三点目が、「経営への貢献」を目的とした活動における「経営視点」の重要性、です。「人材マネジメントにデータを活用する」と考えた場合、狭義の人材データだけを活用・分析しているケースが見受けられます。そのため、自社の経営やビジネスとどうつながるのかという視点が欠けた状態になっています。「経営視点」と連携させていかないと、せっかく時間とお金をかけた取り組みが中途半端なもの、もしくは時に害にもなりかねない危険性があります。

 今後おそらく、「人的資本の情報開示」や「人材データの戦略的活用」といったことにますます関心が集まっていくでしょう。そこで本稿では、人材データを充分に活用して経営に貢献していくために、「人材データ活用」を構造的に整理したうえで、本質的で実効性のある活動の一歩を踏み出していくためにはどうしたらいいのかを考えていきます。私たちも新しい流れに対して取り組みを始めているところです。まだ「試案」のレベルではありますが、ここで問題意識を共有させていただき、更にブラッシュアップしていきたいと考えています。

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■ PROFILE
インフォテクノスコンサルティング株式会社  セールス・マーケティング事業部長
大島 由起子氏

株式会社リクルート、Hewlett-Packard Australia LtdのAsia Pacific Contract Centreを経て、2004年より現職。企業の人材マネジメントにおけるIT活用推進の支援を行う。
著書:『破壊と創造の人事』(楠田祐・共著) ディスカヴァー・トゥエンティワン