• TOP
  • SPECIALS
  • 「人的資本経営」時代に、「人材データ」とどう向き合っていくべきか? ~真に「経営に資する人事」になるための試案2021~

「人的資本経営」時代に、「人材データ」とどう向き合っていくべきか?
~真に「経営に資する人事」になるための試案2021~

■ 執筆者
インフォテクノスコンサルティング株式会社  セールス・マーケティング事業部長
大島 由起子氏

5 / 5

経営に資するために、「人材データ統合マネジメント」を考える

 現在、「人材データ活用」「ピープルアナリティクス」と言われる取り組みをみると、基本的に人事で持っているデータの範囲で行っているケースが多く見受けられます。そこから見えてくることもあると思いますが、「経営層・ビジネスの責任者が、重要な事項について判断・決断するために必要となる、人材と組織の情報を提供できる人・組織」になっていくためには、人事の枠を超えて、経営戦略との整合性や経営目標・ビジネス目標といった領域まで視野に入れる必要があります。

v3-image03.png

 人や組織に関わる情報は、会社内の様々なところに存在しています。人事領域だけでなく、経営企画、財務・会計、事業・ビジネスといった領域でも、人や組織の情報が発生し、それぞれが活用をしています。経営に貢献し、ビジネス・経営の目標達成に直接的な責任を負っていくためには、こうした情報を総合的に一元化し、包括的に活用していくことが求められます。

 そのために提案したいのは、人と組織に関わるデータを統合・活用することをミッションとする機能(組織)を持つことです。そこでは既存の「人事」という枠の中で考えるのではなく、各部署がしっかり連携をして、包括的にデータ活用を推進していきます。

v3-image04.png

 この機能(組織)は、単に外部からの依頼ベースで仕事をするのではなく、人材・組織関連のデータ活用を通じて、新しい価値を生み出していくことを目指します。そのためには、経営やビジネスの観点での活用を考える企画機能(チーム)と、それに対して最適な手法を選択し、実際にデータを分析・解析できるアナリティクス機能(チーム)が両輪となって活動を進めることが理想です。狭義の「ピープルアナリティクス」を超えて、「人と組織の総合的なアナリティクス」の実現を目指します。

 こうした組織が機能することで、以下のようなことを実現することができます。

✔ 経営に対して:経営判断のための情報提供
✔ 経営企画に対して:経営計画の立案・修正のための情報提供
✔ 財務・会計に対して:適正な原価管理、予算管理のための情報提供
✔ 現場に対して:現場組織が適切に機能し年間予算を達成していくための
  支援
✔ 従業員に対して:適正な人事制度の運用や従業員の人材としての価値を
  向上させていくための支援
✔ 株主に対して:人的資本に関しての適切な情報提供

 「人材版伊藤レポート」でも言われていましたが、今後、CHROは経営のコアメンバーとして、CEO/COO/CFO/CSOと密接に連携してくことが必須となっていきます。その際に、各CxxOが、同じ土俵に立って、同じエビデンスを確認しながら、齟齬なくスピーディーに意思決定をしていくためにも、こうした機能が必須のインフラとなっていくはずです。

v3-image05.png

 ただし、実際には、こうした機能をすぐに立ち上げて、フル稼働させることは難しいのが現実でしょう。ではどうしたらいいのか。自社内で明示的に課題になっている部分からスタートして、その実効性をベースに拡大していく、というのが現実的だと考えています。例えば、

財務・会計と連動した精緻な人件費管理
経営計画と連動した、要員・人件費シミュレーション
「仕事」「組織」の観点を加味した人材・組織レポート
行動特性など個人データと組織ミッション・組織の成果をクロス分析
v3-image06.png

 といった取り組みです。自社では、どういうスタートが切れるのか、是非考えてみてください。そして、自社にとっての価値を生み出せる、「人材データ統合マネジメント」の実現を目指していただきたいと思います。

以上

2021年 8月 6日

5

■ PROFILE
インフォテクノスコンサルティング株式会社  セールス・マーケティング事業部長
大島 由起子氏

株式会社リクルート、Hewlett-Packard Australia LtdのAsia Pacific Contract Centreを経て、2004年より現職。企業の人材マネジメントにおけるIT活用推進の支援を行う。
著書:『破壊と創造の人事』(楠田祐・共著) ディスカヴァー・トゥエンティワン