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「人的資本経営」時代に、「人材データ」とどう向き合っていくべきか?
~真に「経営に資する人事」になるための試案2021~

■ 執筆者
インフォテクノスコンサルティング株式会社  セールス・マーケティング事業部長
大島 由起子氏

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既存の「人事」のマインドセットをアップデートする必要がある

 まず、最初にお話しした「人材版伊藤レポート」に書かれている文章を引用します。

「人事部は管理部門として人事施策のオペレーションを中心に担ってきた。今後、この役割を大胆に見直し、ビジネスの価値創造をリードする機能を担っていく必要がある。」

「CHROは、果たすべき役割が従来の人事部長とは異なるため、人事部門出身者であることを前提とせず、事業部等での幅広い経験や経営戦略と人材戦略を結び付ける専門性をもった人材を選任する必要がある。」 

 ここでは、人事の役割を見直す必要がある、ということが明確に提言されています。また、ビジネスの価値創造をリードする、経営戦略と人材戦略を結びつける、という役割が期待されています。

 また、米国SECの義務化決定から始まった「人的資本の情報開示」の流れからあぶりだされてくることは、「人的資本は、投資家が企業価値を見極めるための重要な要素である。」つまり、「人事は投資家に対して納得のいく説明ができることが求められる。」「説明責任があるということは、人的資本の価値向上に対して責任がある。」ということです。つまり、人事の仕事は、人的資本という無形資産を通じて企業価値を上げていくために重要な役割を果たす、果たすべきであるというメッセージが込められている、と言えるでしょう。

 こうしたことから、人事に関わる人は、人材マネジメントへの期待が、まったく新しい領域に入ったと自覚すべきです。その要請に応えていくためには、「人事」という言葉から想定される枠を超えて、マインドセットをアップデートする必要があります。

 では、どういう方向性でマインドセットをアップデートしていくのがいいのか?それは、以下のような意識を持ったうえで、活動をしていくということだと考えます。

ビジネス・経営の目標達成に直接的な責任を負う。
会社の将来の発展に直接的な責任を負う。

 具体的には、今行っている活動が、経営やビジネスにどうつながっていくのかを、一般論ではなく、自社内で納得されるストーリーとして語れること。そして、その結果に、責任を負う覚悟ができていること、ということになります。精神論のように響くかもしれませんが、実はこの意識が活動の成否を決める重要な土台だと痛感しています。「専門家が良いと言っている」とか、「アメリカではこういったことが成功を収めている」といった表層的な理解のレベルで満足せず、結果責任を負うという真剣さを持つことが重要です。

 こうした意識に支えられた活動に実効性を持たせていくためには、「経営層・ビジネスの責任者が、重要な事項について判断・決断するために必要となる、人材と組織の情報を提供できる人・組織になる」必要があります。現状を知ってもらい、真の課題を見極め、そのうえで経営判断・事業上の判断をしてもらうためです。もちろん、その先には、自ら判断のできるレベルのプロフェッショナルになるというゴールがあると思いますが、そうなったときにも、適切なデータが活用できる、ということは必須の土台となります。

 では、そうなるためにはどうしたらいいのでしょうか?それは、まず、狭義の「人材データ」、今人事部の手元にあるデータだけを見ていても不十分だ、ということに気がつくことです。「人事が扱うのは通常こういうデータである」という固定概念を打ち砕き、経営層・ビジネスの責任者が人や組織に関して重要な判断をする際に必要となるデータであれば、どのような情報でも扱う、という意識の大転換が必要です。その点については、次章で具体的にみていきます。

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■ PROFILE
インフォテクノスコンサルティング株式会社  セールス・マーケティング事業部長
大島 由起子氏

株式会社リクルート、Hewlett-Packard Australia LtdのAsia Pacific Contract Centreを経て、2004年より現職。企業の人材マネジメントにおけるIT活用推進の支援を行う。
著書:『破壊と創造の人事』(楠田祐・共著) ディスカヴァー・トゥエンティワン