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ポスト2020の人材戦略
~″襲いかかる圧力″と″勝負を分ける一手″~

■ 執筆者
株式会社クニエ HCMチーム マネージングディレクター 喜島 忠典氏

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2. 人材戦略に変化を迫る4つの圧力

(1)複雑化する事業戦略による圧力
企業の競争環境は激変している。それは皆さんも強く感じられているだろう。人材戦略を考える上で、最重要なルールは「人材マネジメントは事業を成功させるために行う」である。だとすれば、これだけ環境が変化しているならば、人材戦略は意識的に大きく変わって当然なのだが、むしろ目立った変化がないまま、10年、20年と来ている。その状態に違和感がないとしたら、まさしく「茹で蛙」である。

人材戦略をどのレベルで変化させるべきかと言えば、それは決して人事制度改訂やサブシステムの構築等のレベルではない。会社としての雇用のあり方、会社と個人の関係性の再定義にまで立ち戻り、議論を行う必要性が出てくるだろう。人事は、どうしても「連続性・一貫性」や「公平・公正」を重視せざるを得ない側面があるので、自分達の判断の枠組みは中々崩すことができない。これはこれでとても重要なことである。しかし、既にグローバルレベルになっている競争環境の変化は、事業戦略の高度化・複雑化を必須になることは当然の帰結である。結果として、人材戦略も「これまでの当たり前」すら疑い、その前提から問い直すことが必要な時代になるだろう。


(2)人材の賞味期限が短期化する圧力
身につけたスキルが陳腐化するのにどのくらいかかるか。仕事によっても様々だが、これまでは凡そ30年程度と言われている。これは日本企業の人材活用モデルにとても良くフィットする考え方だ。22歳の新卒が入社し、その彼や彼女が一人前になるまでに5~10年かかり、そこで培った知識が使えなくなるまでに30年かかるのであれば、およそ57~62歳になっており、めでたく逃げ切り、定年となる。

しかし社会全体のIT化やそれに伴う事業の高度化は、スキルの陳腐化を早める傾向にはたらきそうだ。一説によると、これからはITの最先端においては3年~5年、そうでなくても10~15年程度でスキルが陳腐化するといわれている。先ほどの日本企業モデルに当てはめると、大体20年弱、年齢にして40歳前後で最初のスキルが陳腐化する計算になる。この仮説が正しければ、遅くても40歳前後で人材の不良在庫化が始まる恐れがある。70歳定年も現実味を帯び始めた中では、このリスクは看過できない。今後はもし企業が人材に複数の専門性を意図的に身につけさせなければ、人材の長期雇用は単にリスクでしかなくなってしまうのだ。


(3)人不足と人余りが同時進行する圧力
いま、ひとつの会社の中で、人余りと人不足が同時進行で起きはじめているが、ポスト2020年にはその傾向は一層強くなるだろう。

人不足が発生しているのは、いわゆる事業の鍵を握るようなキーマンがつくべきポジションの層と、現場のオペレーションを担う層の2階層である。競争力の源泉となるようなキーマンはマーケット全体で薄くなり、企業では常時人不足である。また各種報道にあるように、工場のラインの現場や、サービス業における顧客接点、運輸・物流における倉庫や運送の仕事等の、現場のオペレーション人材の不足も深刻だ。

人余りが発生しているのは、組織における中間層だ。大企業を中心に深刻な問題となっている。簡単な仕事を行わすには給料が高く、新しいこと、難しいことを任せるには力量が足りずという「オビに短しタスキに長し」の人材が増えている。これは、本人の問題というよりも、ジェネラリスト教育の名の下で、何も体系的な知識・スキルを身につけさせずに育ててきた会社の責任が大きい。

全体的にまとめると、人不足による戦略実行の不全と、人余りによる人員のだぶつきの両側面の問題がでてくる。特に後者に関しては、今後の定年延長等の動向によって、よりシビアなことになるだろう。

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■ PROFILE
株式会社クニエ HCMチーム マネージングディレクター 喜島 忠典氏

大手コンサルティングファーム、商社の事業企画、人材サービス企業等を経て現職。「企業の戦略実行力強化」をテーマに、数多くの組織・人事改革のプロジェクトに従事。商社、製薬、製造、IT、小売等の企業に対して、変革期における組織・人材戦略のデザイン、各種人材マネジメントの仕組設計、およびチェンジマネジメントなどを手掛けている。