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ポスト2020の人材戦略
~″襲いかかる圧力″と″勝負を分ける一手″~

■ 執筆者 PROFILE
株式会社クニエ HCMチーム マネージングディレクター 喜島 忠典氏

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2. 人材戦略に変化を迫る4つの圧力

(4)働くことへの価値観の多様化と閉塞感の広がりによる圧力
変るのは環境ばかりではない。従業員の価値観も大きく変わってきている。特に「仕事を頑張る → 評価をされる → 昇格する・昇給する・賞与が増える」という古典的なインセンティブシステムの効き目は、従業員にとってめっきり低下しているようだ。個人にとっての働く意味が多様化する中、これまでどおりのステレオタイプな人材像に対するインセンティブの仕組みではなく、究極的には個々人にあったインセンティブシステムを作る必要がある。

また、ビジネスの状況が社員にキャリア的な閉塞感を与えやすい職場環境を作りがちになりつつある点も留意したい。成熟したビジネスモデルでは、求められる知識・専門性の高まりに応じて、分業化が進み、各人がもつ仕事は小さくなる。その結果、本人は「自分はこのままずっと、同じことを続けていくのだろうか」「他の仕事ができなくなるのではないか」という不安感がよぎり、若手の優秀層の離職に繋がっている。日本企業はビジネスモデルが成熟しているケースが多く、ビジネスの成長と社員のキャリア開発を同期しにくくなっていくことが予想される。


3. これからの人材戦略に必要なこと

ここまで、これからの事業経営に発生すると予期される圧力を総合的に見てきた。いわゆる人事制度の改定等による企業の変革が、アプリケーションのバージョンアップだとすれば、これから求められる変化はOSのアップデートに近い。ポスト2020年に勝ち抜くために、捉えておいて頂きたい論点を挙げておこう。


(1)本当に必要なポジションとそれを担えるタレントを集中して考える
人事において公平・公正であることが重要なことは当然だが、その結果全ての人材に対して薄く・広く手をかけているのでは、事業上のインパクトは中々出にくい。事業環境が複雑で、新たな戦略を次々に実行していくような世界では、まず自社の業績をつくるために重要なポジションが何かを見極め、それを担う人材が最大限のパフォーマンスを発揮できることに注力することが王道だ。

そして、そのようなポジションや人材がハイパフォーマンスを上げるためには、彼らを特別扱いすることに躊躇してはいけない。「過去からの経緯」や「他の社員のモチベーション」を大事にする余り、業績拡大のドライバーを潰してしまったら、組織の成長の芽自体を摘むことになる。

これまでも同様な問題意識はあっても、伝統人事の平等主義的な価値観のもと、なかなか受け入れられなかっただろう。しかしポスト2020年は、健全なエコひいきによってよりROIの高い人材セグメントへの投資が必要になる。


(2)人材の需給ギャップを本気で考える
経営計画がチャレンジングになるほど、戦略実行の難度は高まっていく。しかしプランニングの段階で実行する人材に関する議論が真剣に行われることは少ない。これまでは「絵に描いた餅」であっても、年度の終わりに、餅を書いた部門が若干バツの悪い思いをしながら反省の弁を述べるだけで、同じ議論を繰り返していたかもしれない。しかし外部環境がシビアになると、実行力不足は即競争力の低下につながる。

人材戦略的な側面から言えば、上位の戦略実現に必要な人材の需要と供給ギャップに関するシミュレーションと、そのギャップが今後の人材の成長やマーケットの人材等の活用で、どの程度埋められる可能性があうのかを議論できるだけの力は、これからは標準装備としたい。その力の有無が企業の優劣を決める大きな指針になるだろう。

そのためには、人材情報のデータベース作成は必須である。またそこから自社の人材の需給状況を可視化するための仕組みの構築も必要になる。昨今話題のHRテックが最もパワフルな役割を果たす分野の一つは、この部分であるし、そこまで目したタレントマネジメントシステムの導入でありたい。

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■ PROFILE
株式会社クニエ HCMチーム マネージングディレクター 喜島 忠典氏

大手コンサルティングファーム、商社の事業企画、人材サービス企業等を経て現職。「企業の戦略実行力強化」をテーマに、数多くの組織・人事改革のプロジェクトに従事。商社、製薬、製造、IT、小売等の企業に対して、変革期における組織・人材戦略のデザイン、各種人材マネジメントの仕組設計、およびチェンジマネジメントなどを手掛けている。