HR Fundamentals : 人材組織研究室インタビュー

第15回 これからの企業に「非グローバル人材」はいない。共通点に注目して現地を巻き込む

第15回 これからの企業に「非グローバル人材」はいない。共通点に注目して現地を巻き込む

グラマシーエンゲージメントグループ株式会社 代表取締役 Bryan Sherman(ブライアン・シャーマン)氏

現在、日本企業の人事のグローバル化をサポートするコンサルタントとして活躍するブライアン・シャーマン氏。米国ニューヨーク市で日系企業を対象とした人事コンサルティングに従事後、在米日系IT企業で 人事総務部長に就任。来日後は株式会社ファーストリテイリングのグローバル人事業務に携わったという経験を持つブライアン・シャーマン氏に、日本企業のグローバル化の課題とその解決の糸口について伺いました。


Bryan Sherman(ブライアン・シャーマン)氏  プロフィール

米国ニューヨーク市人事コンサルティング会社にて日系企業(NY・LA)を対象に人事コンサルタントとして従事。 その後日系IT企業にて人事総務部長に就任。在米日系企業が抱える人事の現場を内と外の視点で支える。来日後は株式会社ファーストリテイリングでのグローバル人事業務に参画。 欧米露アジア拠点の人事マネジメント業務に従事。米国 ニューヨーク州出身。 米国 Williams College 卒業 Senior Professional Human Resources (SPHR), Society of Human Resource Management, 産官学連携トランスナショナルHRM研究会 会員

様々な観点から「日本企業のグローバル化」を実体験したことが考え方のベース

― まず、ブライアンさんの経歴を教えていただけますか?

私は出身地のニューヨークで日系企業向けの人事コンサルタントをしていました。そこで、日本本社と現地法人とのコミュニケーションがほとんどない企業が多いということを目の当たりにしました。

その後はコンサルタントという立場から一転、日系IT企業の人事総務部長として企業の内側から人事を考える機会を得ました。ここでは、海外拠点からみて日本 本社はどう見えるのか、本社とはどのようなコミュニケーションがあるのか、本社からの出向社員と現地社員の関係はどうなっているのかといったことを、実際 により深く経験することができました。そしてそれを踏まえ、現地人事部をどう作り、運営していったらいいかということに取り組みました。

そして、2007年に来日しファーストリテイリングに入社。私の入社当時は、各国にどのような人材がいるのか、名前くらいはわかっている人事担当者はいまし たが、まだまだ組織的にはグローバルの人材・組織全体の把握も難しい状況。そこで、最初は、電話・メールを使って人間関係を作ることに注力しました。もち ろん、出来る限り現地に足を運んで、具体的に組織の様子や人事のポリシーなど鍵になる情報収集を進めました。そうしていくうちに、人事部はグローバルでひ とつであるという意識がどんどん固まってきました。初めのうちは、例えば人事担当者がグローバル担当と国内担当というような明確な線引きがありました。し かし、そうした傾向は解消していく方向にあると思います。

グローバル人材をマネジメントしていくということは、人事制度やプロセス、ポリ シーを一元化していくということです。そこには「日本国内だから」「海外だから」という発想は存在しません。もはや「グローバル人事チーム」という枠組み がなくなった本社人事部が、各国の人事担当者と日々コミュニケーションを取るというのが目指すべき姿でしょう。

そして、2010年に独立をし、日本企業の人事のグローバル化のお手伝いをする会社を立ち上げました。

― そんなブライアンさんが、日本企業のグローバル化のお手伝いをするなかで、課題だと感じるのはどんな点ですか?

よ く、「グローバルでの人事異動をやりたい」というご相談を受けます。そんな時、「海外拠点の組織と人材の情報管理はどうなっていますか」と聞くと、「わか らない」とおっしゃる。「では、拠点での人事の担当者は?」と聞くと、それもわからない。それでも、まずはグローバルでの人事異動をしたいのだと。

その状態からグローバルでの人事異動を成功させるのには、最低でも2〜3年はかかります。それを無理やり異動だけ先行させても、結局うまくいきません。

企業のグローバル化 7つのステップ

私は、企業のグローバル化には、7つほどステップがあると考えています。

00は、本社が日本にあって、海外に拠点があるけれど、そこでの組織や人材の状況を把握できていない状態。
01は、海外拠点の人事の担当者を決め、その組織や人事を把握しようとし始める段階。
02は、具体的に組織の状況が把握できるようになって、人材のデータも基本的なことはわかるようになる段階。
03は、データを元に、本社と海外拠点の位置づけを明確にしていき、日本人社員と現地採用社員の役割分担を
       整理していく段階。
04は、国を超えた人材登用をしていくために、グローバルで共通の評価制度を入れる段階。
05は、グローバルでの人材育成計画が明確になり、国を超えた適材適所の人材配置ができる状態。
06は、完全にグローバルの人事制度が確立している状態。

こ れらのステップを短期間で踏んでいくことはできるかもしれませんが、一足飛びに00から05や06に行くことはできません。そのことを理解しないで、やみ くもに「グローバル人事を実現しなければ」とプロジェクトに取り組んでしまう日本企業が少なくないのではないかと感じています。

― 日本企業のグローバル人事の現状はどのように映っていますか?

現 在グローバル人事にいる方は2つのタイプに分かれるように思います。ひとつは、海外に駐在し、現地の人事業務を経験したことがある方々。そうした方々は、 現地社員のメンタリティも実感値としてわかっているので、本社と現地人事の橋渡し役になっています。もうひとつのタイプは、他部署から異動してきたので人 事の経験がない、海外勤務の経験もない、英語についてもまだまだ勉強中という方々。各国の担当者から情報収集をして、議論をすることが難しいので、どうし てもまず日本国内で議論をして結論を出しがちになる。その結論を持って海外と話を始めるのでどうしてもうまくいかずに悩んでおられる。

経 理・会計、ITの世界であればそれでもいいのかもしれません。しかし、人事が扱うのは「人」という「生もの」です。いくら結論が客観的にみて正しかったと しても、きちっとしたコミュニケーションがプロセスとして組み込まれていないと、表面的にしか受け入れてもらえません。そこで何が起きるかと言えば、言わ れた現地社員たちは「はいはい、仕事だからやりますよ」という態度になる。しかも、心のなかでは、「どうせ2、3年後にはここで働いていないかもしれない し」と思っている。これでは、どんなにいい制度を作っても、成功するはずがありません。

― 今後、グローバル人事が機能し、確実にグローバル化を進めていくために大切なことは何でしょうか?

まずは、人を知る努力をする必要があると思います。客観的なデータを収集して、正確に現状を把握する。その上で、どこまでをグローバルで管理し、どこまでをローカルに任せるかを考えていく必要があるでしょう。

グ ローバル人事を実現していくためのフレームワークは、組織・プロセス・人材です。「組織」は本社人事の役割。ポリシーやコミュニケーション戦略を考える。 「プロセス」は、グローバルとローカルでどのような制度を持っていくのかということ。どこまでを統一し、何を各国独自にしていくのか。「人材」は、どのよ うな人材を確保していくのか。日本国内の外国人採用という問題だけではなく、海外の現地人材の採用という観点もあります。

ただ、よく見受 けられるのは、こうした「プロセス」や「人材」の問題について、まず日本の中だけで議論を進めてしまって、結論を出してしまってからローカルと話をすると いうプロセスです。これではせっかく正確に状況を把握したとしてもうまくいきません。早い段階からローカルの人たちを議論に巻き込んで、納得した落とし所 を探していくことが肝要だと思います。

本社も、拠点の新卒採用から把握するべきではないか

― 人材の把握と、現地の巻き込みということですが、それは各拠点の「コア人材」が対象となりますか?

グローバル人材の管理というと、「コア人材をグローバルで管理する」という話になる傾向があります。しかし、私の個人的な意見では、「コア人材」は存在しません。「コア人材」を設定するということは、「コアでない人材」が存在することを前提にしているからです。

会社がその人に給料を払っている限り、どの人も「コア」であるはずです。先日訪問した会社では、グローバル人材管理は部長以上、それ以下は問題にしなくてい いと考えていました。しかし、それは短期的な考え方です。なぜなら、部長以上を管理し続けようと考えたら、次の部長になる人たちのことも把握しなくてはな らない。つまり、グローバルで優秀な部長職を常に作り続けるためには、各ローカル拠点でどのような人材を採用し育成しなくてはならないかまで、マネジメ ントする必要があるということです。これが本当のサクセッションプランでしょう。

私の考えでは、本社も現地社員を入社の段階から把握すべ きです。例えばアメリカの拠点は20名の組織かもしれませんが、あくまでもグローバル企業の一部です。そこに入社してくる人は、グローバル企業にたまたま アメリカで入社するだけであって、入社後は中国にいくかもしれないし、日本本社で働く可能性もあるのです。

つまり、採用の基準は「20人 のアメリカ企業」のものではなく、世界に拠点を持つ企業のものでなければなりません。また、入社後のグローバルな異動や活用のプログラムがなければ、優秀 な人材が集まってこないでしょう。こう考えると、本社のグローバル人事は部長以上だけを見ていればいいとは言っていられないはずなのです。

現地を初めから巻き込んでいくための、「健全に衝突する」ための力をつける

そうなると、本社にいる日本人だけではとても手が回りません。日本人社員がリーダーシップを発揮して、海外拠点を巻き込んで組織や制度を作ることができるかが、勝負になってくると思います。

最 初からしっかりと関係者・サポーターたち、日本国内の経営層、海外拠点の経営層、海外の人事担当者、現地社員など、を巻き込んでいく。新しい制度を運用し ていくためには、こうした人たちと頻繁にコミュニケーションを取っていかないと、最終的にグローバル人事を成功させるのは難しいと思います。日本での結論 を押しつけるようなことでは成功は難しいでしょう。

― 日本人はそのあたりが下手だと言われます、やはり英語力が必須になるということでしょうか?

確 かに、日本企業のグローバル化というと英語力の話になりがちですが、もっと問題なのは、文化的バックグランドが異なる人を巻き込んでいく力が不足している ことだと思っています。コミュニケ―ションでは何が大事かと言えば、相手と建設的に衝突できること。また、うまく言葉が通じなかったとしても、相手と話そ うとする努力、相手を知ろうとする努力がどこまでできるか。英語力もさることながら、そちらの力をつける必要もあるのではないでしょうか?

― このようにお話をうかがっていると、日本企業のグローバル化は決して楽な道のりではありませんね。

それは何も日本に限った話ではありません。グローバル化の問題というのは、全世界で起こっています。例 えばアメリカの中部にある企業。ほとんどの社員がパスポートを持ってもいないというような企業もグローバル化の波にさらされようとしているのです。日本企 業だけが苦労しているわけではありません。ただ、日本特有の問題があるのも事実です。

ひ とつは、日本の人口の減少、つまり日本市場の縮小という問題。次に、中国やインドとの競争の激化。そして、社会の高齢化。通常のグローバル化の課題に加え て、日本が取り組んでいかなくてはならない問題でしょう。こうした状況を人事担当者も把握していく必要があると思います。

そ うした日本でのグローバル化には2つの側面があります。ひとつは、「外へのグローバル化」。日本から海外へ、日本本社と海外の一体化を進めるというもの。 もうひとつは、「内なるグローバル化」。日本国内をどう「グローバル化」していくのかということです。こちらは特に日本企業が考えていかなくてはならない 領域でしょう。


内なるグローバル化を成功裡に実現していくために必要な「区別」

こ のままいけば、日本国内の労働力は劇的に減少していきます。2030年までには1000万人、現在の東京の人口分くらいの労働力が消失すると言われている のです。そうした状況の下で日本企業が生き残っていくためには、外国の労働力をどのように取り入れていくかを真剣に考えなくてはなりません。具体的に言え ば、本当の意味でのダイバシティを実現している環境を用意する、ということです。

― 日本に来ている海外留学生の採用などが、「内なるグローバル化」のひとつになりますね。

確かに、内なるグローバル化を進めるためにまずは「日本人で海外経験のある人」と「日本の大学を出て日 本のことをわかっている外国人」を対象に考えている企業も少なくないのではないでしょうか。それはひとつの方法ではありますが、やはり積極的に外国に出て 行って、そこで優秀な人材を採用して日本に連れてくるといったことが必要になってきていると思います。

た だ、外国人採用をしている企業でも、まだまだ「日本語」を前提にしている傾向があるように見受けられます。採用のためのウェブサイトを見ると、日本語に比 べて英語や中国語での情報量が圧倒的に少ないというケースが少なくありません。中には日本語のサイトしか用意していない企業もあるくらいです。

ま た、よく見かけるのは、「国籍問わず、適切・優秀な人材を採用します」という言い方。一見問題がないように思えますね。もちろん、外国人を差別しない、日 本人と同じように歓迎するという意味では良いことではあります。しかし、それだけでは足りないというのが私の見解です。「差別」はない方がいいのですが、 ある程度の「区別」はあった方がいいと思うからです。

― 具体的にはどういうことでしょうか?

日本で働くにあたって、日本人と他の国の人たち、アメリカ人や英国人、中国人、韓国人とは何が決定的に 違うでしょうか。当たり前のことですが、彼らは「外国人」だということです。自国ではない日本に、自分の意思で暮らす決断をしているという点が、日本人と は決定的に異なる点です。つまり、いつでも日本を離れる自由を持っている。決して、「だから外国人の採用は無理・難しい」ということを言いたいのではあり ません。そうした状況やメンタリティーを理解したうえで採用と活用のプログラムを考えることで、本当に優秀な人材を確保できるということを理解する必要が あるでしょう。

しっかりとした「区別」をつけていくために重要なのは、求める人物像が 明確になっていることです。例えば、日本で一時的に働いた後海外に出てもらう人材を採用するなら、日本語力は必要ないかもしれない。そうした戦略を明確に しないで、日本語が流ちょうだからと採用してしまい、実は「日本の生活が好きだから海外に行きたくない」と言われてしまったりする。そんなミスマッチが起 こりえます。

ですから、2人の外国人を採用するといったときに、単に20という数字を 達成しようとするのではなく、そもそも何故外国人を採用しなくてはならないのか。日本人が足りないから日本人の代わりが必要なのか、それとも今後の海外展 開のために2〜3年日本で育成した後、海外の幹部にしていきたのか。そもそもの戦略を理解することが非常に重要です。海外進出のために取りあえず外国人を 採用しようとか、ダイバシティがを推進するためにまずは外国人が数名はいた方がいいといった程度の考えでは、企業側も採用された側も不幸です。

ま た、グローバル化だからといって、何もかも欧米化しなければならないということではありません。例えば新卒採用から、ローテーションを行って人材を育てる 手法。これには合理的な側面があるはずです。長い間日本企業に採用されてきたのですから。その本質が理解されれば、魅力に感じる外国人は少なくないはずで す。ただ、外国人が理解できるようなコミュニケーションができていないということだと思います。そうしたコミュニケーションから得られた情報から、外国人 向けのプログラムを作り上げていってもいいと思います。

これからの企業に、「非グローバル人材」は存在しない 

― これまでは、企業のグローバル化、人事のグローバル対応のお話でしたが、従業員一人一人のグローバル化、「グローバル人材の育成」についてはどうお考えですか?

現在、「グローバル人材」という言葉が非常に流行っていますね。先日もグローバル人材をどう育成してい くのかをテーマにしたセミナーに参加させていただいたのですが、どうもテーマの立て方自体が間違っているのではないかと思ってしまいました。それは、先ほ どお話した「コア人材」と同様で、「グローバル人材」といった時点で「非グローバル人材」の存在を認めることになるからです。

今 後は日本人の労働人口が減少していきますから、隣りで働く人が必ず日本人であるという保証はありません。国内の市場が縮小しているから突然海外に出なくて はならないこともあり得ない話ではない。そうした環境の中で、「私はグローバル人材ではないので、海外のことは何も考えなくていい」ということは通用しな くなるでしょう。つまり、「非グローバル」では仕事がなくなる恐れがあるということです。誰もが「グローバルマインド」を持つ必要がある時代になったとい うことだと思います。

グローバルマインドの原点は、まず何が違うかを強調するのではな く、何が同じか、共通点は何かを考えることだと思います。人事の方によく、「人事の仕事はどこに行っても8割くらいは同じです」と申し上げています。異な る2割は、法律です。でもそれは本来人事の仕事の核ではありません。人事の仕事は、まずは企業の価値観を浸透させて、優秀な人材を採用して、そうした人た ちがビジネスに貢献できる環境を整備して報酬を決定していく。これはどの国にいっても共通して求められる人事のミッションです。そうした認識で、グローバ ル人事に取り組むのがいいのではないでしょうか?

今中国に進出して成功している企業は何をしているかといえば、特別な秘密があるわけではありません。「全員同じ社員ですから、情報を共有しましょう。一緒に議論しましょう。協力していきましょう。」ということを徹底させているのです。

― 最後に、グローバル人事に携わる人に一言お願いします。

日本本社と海外拠点のコミュニケーションを見ていると、まだまだ本社→拠点の一方方向のことが少なくありません。現地社員が本社とのパイプをもっているのはまれなケースなのが現状ではないでしょうか。そしてそれを変えるためのスタートは、やはり本社からのアプロ―チです。

こ れからは、日本本社対アメリカといった一対一の関係ではなく、中国にも、欧州にも同時に拠点があり、それらが相互にコミュニケーションを取る時代になって きています。そして、拠点間での人事異動も始まっている。そういう意味で、「グローバル人事担当」だけでなく、本社人事全体がグローバルに考え、活動して いくことが非常に重要になっていると思います。

そのためにも、これからの人事は、ビジ ネスが海外に進出するスタート時点から、海外事業部の人と一緒に現地に赴き、人材・組織の面の責任者として、立ち上げメンバーのコアになっていくくらい積 極的に動いていく必要があると思います。そこで得た経験や知識が、グローバルマインドを更に成長させるでしょうし、国を超えたネットワークのハブになって いくからです。とてもチャレンジングで、意味のある仕事だと思います。是非、成功させてください。

― 本日はどうもありがとうございました。

取材・文 大島由起子(当研究室管理人) /取材協力: 楠田祐 (戦略的人材マネジメント研究所)

(2010年11月)

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