HR Fundamentals : 人材組織研究室インタビュー

第24回 社長が「我が事」と捉えている企業が、女性活用に成功している

第24回 社長が「我が事」と捉えている企業が、女性活用に成功している

独立行政法人 国立女性教育会館 理事長 内海 房子 氏

今回は、日本電気株式会社・研究開発事務本部長、NECソフト株式会社・執行役員、NECラーニング株式会社・代表取締役/執行役員社長を経て、独立行政法人・国立女性教育会館・理事長を務めていらっしゃる内海房子氏に、企業が女性活用を成功させるポイント、女性が企業で活躍していくためのアドバイスを伺いました。


内海 房子 氏  プロフィール

1971年/津田塾大学学芸学部数学科卒業。日本電気株式会社入社。入社以来、基本ソフトウェア等のソフトウェア開発に従事。1989年/人事部人事課長。1993年 日本電気技術研修所ソフトウェア教育部長。1998年/研究開発事務本部長。2001年/ NECソフト株式会社取締役。同年NECソフト株式会社執行役員。2005年 NECラーニング株式会社 代表取締役 執行役員社長。2011年から、現職。


なかなかなれなかった主任から、課長・部長とステップアップ

― 内海さんは、企業の管理職として働く女性がロールモデルとしていることが多いと伺っています。まず、内海さんご自身のキャリアについて教えてください。

私は1971年、日本電気株式会社にソフトウェア開発の技術者として入社しました。それから12年は役職につくこともなく、ずっと開発の現場にいました。同期の男性はほとんどが主任になり、同期の女性はどんどん辞めていくなか、「この会社は女性を上に上げていく気はないのかもしれない」と、昇進は半ば諦めかけていました。そんなとき、主任昇進の内示が下ったのです。当時の事業部長が電話で伝えてくださったのですが、まったく予想もしていなかったので、本当に驚きました。よく考えれば、同じように働いている同期の男性が主任になっているのですから、私がなっても何らおかしくないわけですが、心底驚いたし、とても嬉しかったのを覚えています。会社は自分を覚えてくれていたんだ、と。(笑)

― 入社された時から、将来は出世をしていきたいと考えていらっしゃったのですか?

少なくとも、ずっと長く働こうと決めていました。専業主婦になるという選択肢は一切考えていませんでしたね。ただ、部長や役員になりたいといった野心も特には持っていませんでした。

― その後も、同期の男性と比べると昇進時期が遅れたのですか?

いいえ。課長への昇進は早かったです。主任になって3年半で課長昇進試験を受けて、4年目には課長になりました。そこで同期と足並みが揃ったという感じでした。

― 開発部門の課長職ですか?

はい、技術課長になりました。その2年後に人事部に移り、人事課長に。部長になったのも比較的早く、3年後には人事の担当部長になりました。その後、ソフトウェア教育部という固定組織の部長に任命されます。入社から22年目のことです。そこで2年仕事をした後、研究所の事務本部で、勤労部長を経て事務本部長を任されました。

― 主任になられてからは、順調なステップアップのように思われます。

そうですね。当時はそんなことを考えたことはありませんでしたが、今振り返ってみると、長期計画があったように感じます。男性ならロールモデルがいるので、自然と予測できるのかもしれませんが、当時の私はよく先が見えていませんでした。一言言ってくれればよかったのに、と思いますね(笑)。

子育てをしながら働きつづけるために、不動産屋に日参

― 途中、「辞めたい」と思われたことはなかったですか?

主任に昇進してからはないですね。もし、課長にも部長にもなかなかなれないということがあったとしたら、不安になって考えてしまったかもしれません。そもそも仕事そのものが楽しく満足していましたので、その点、私は恵まれていたと思います。

― ただ、子育てをしながら続けることは決して楽ではなかったのではないですか?

そうですね。ただ、そもそも子育てをしながら続けられる環境づくりにはとてもこだわっていましたから、それで乗り切れたと思います。自宅を、会社から歩いて5分、実家からも歩いて5分というところに構えたのです。もともとはアパートを借りていたのですが、近くにマンションが建つことになりました。いつか家を買おうと思っていましたから、これは千載一遇のチャンス。しかし、人気の高い物件で抽選に落ちてしまいました。それでも、ここでこのマンションが買えなかったら、一生家を買えないか、働くことが困難になってしまうと、不動産会社に日参しました。実は私たちは次点にも入っていなかったらしいのです。でも、あまりに毎日のように聞きにくるので、本来次点の人が断った場合には再度募集をかけるのがルールだったようですが、その時点で、「内海さんに売ります」と言ってくれました(笑)。

そうしたロケーションに住んでいましたから、トラブルなどがあってどうしても夜中まで働かなくてはならない時には、一旦家に戻って子供の世話をしてから、会社に戻って働いていました。

― それで、仕事で成果を出し続けることができたのですね。その後、NECソフトの執行役員に就任されます。女性の執行役員ということで男性の部下からの抵抗などはありませんでしたか?

それは特に感じませんでした。実はNECソフトとは、技術者時代によく一緒に仕事をしていたのです。開発現場での苦労などを共有できましたから、まったく知らないところに飛び込んだという感じはありませんでした。女性がきたというよりは、仕事仲間だった人が人事担当執行役員になった、と受け止めてもらえたのではないかと思います。

幸い私自身はそうした抵抗を受けませんでしたが、知人がある会社にヘッドハンティングされて部長として転職した際、出社一日目に廊下で男性社員に呼び止められ、「あなたが今度着任した女性部長ですか。僕は女性が部長になるのは反対です」と言われたそうです。この方は「ああそうですか」と軽く受け流して終わりにしたそうですが、まだまだそうした文化を持っている組織があるのが現実かもしれません。

― そして、NECラーニング株式会社の社長になられたのですね。NEC関連会社で初の女性社長ですね。

はい。NECソフトに転籍になったときに、NECソフトに骨を埋めるつもりでしたから、正直驚きました。ここでも、女性だということが理由で、特別に困ったとか大変だったということはありませんでした。もちろん、仕事は決して楽なものではありませんでしたが(笑)。女性のロールモデルはなかなか見つからなかったものの、幸い執行役員時代に当時の社長と仕事をすることが多く、そこで学んだことが活きました。一企業の社長を経験できたことは、大変貴重な経験になりました。

「企業業績を上げるために女性を活用する」という考え方の落し穴

― 現在は、国立女性教育会館(ヌエック)の理事長になられていらっしゃいます。こちらでの取り組みについて簡単に教えてください。

ヌエックは、男女共同参画社会の形成を目指した女性教育に関する国の機関です。これまでは、主に地域や大学における男女共同参画の推進を図ってきましたが、最近では企業へと対象を広げ、企業で働く女性に焦点を当てた活動を強化しているところです。働く女性の多くが企業で働く実態を考えれば、男女共同参画社会の実現のために、企業の話を抜きにすることはできないからです。ですから、我々は文部科学省管轄の行政法人ですが、厚生労働省や経済産業省の協力も仰ぎながら活動を進めています。

― 企業社会でトップまで務めた内海さんならではの視点、強みが生きているのですね。ここからは、実際に企業が女性活用を成功させるためのポイントについて伺いたいと思います。

安倍総理が成長戦略のひとつの柱として「女性の活躍」を掲げました。成長していくためには、女性の力の活用が必須だと。これは画期的なことだと思います。この流れを追い風として活用していくのはもちろんなのですが、この視点は気をつけて扱わなくてはならないと考えています。

「企業が成長していくためには女性活用が必須」というとき、女性を活用すれば業績が上がるのか、といった議論になることがあります。女性活用度合いと業績の正の相関関係は証明されていますが、因果関係については明確にわかっていません。つまり、もともと業績のよい企業だから女性活用を進められたのか、それとも女性活用が業績を上げたのか、は判断できないということです。また、もし、業績を上げるために女性活用を進めましょう、というロジックを使った場合、業績が上がる保証がなければ女性活用は考えなくていいのか、下がったら女性活用をやめるのか、という問題にぶつかることになります。

特に大企業の場合、男性での成功事例が沢山ありますので、わざわざ女性に目を向けることをしたがりません。使いにくい女性を使ったとしても、業績が上がる保証はないわけだから、そんなリスクを敢えてとる必要はない、と。私の男性の友人たちで、基本的に話が通じる人でも、この問題になると、「そういうことは、まずは利益を考えなくてもいい公務員の世界からやってもらわないと」と言いますから、この壁は想像以上に厚いと思います。

アジア人で初めてノーベル経済学賞を受賞した、アマルティア・センという学者が、女性に限らず障害を持つ人や外国人など多種多様な人材が、それぞれが持っている力を十分発揮できるのが望ましい社会で、そうした社会を作っていくために経済発展が必要なのだ、という主旨のことを言っていました。それを聞いたとき、はっとしました。経済発展のために多様な人材を活用するのではなく、多様な人材が活躍できる社会を作るために経済発展するのだ、ということです。発想の転換ですね。そうした経済発展を目指すために、人口の半分を占める女性の力を使わないなんて宝の持ち腐れだということです。一企業で考えるなら、社員全員が幸せに働くことができて、長く繁栄する企業にしていくことを目指す。その目標に向かって、男性も女性も持てる能力を充分発揮し企業発展に貢献する、そんな企業が社会に受け入れられ長く生き残っていけるのではないかと考えています。

女性活用の成否の鍵を握るのは、社長が「我が事」と捉えているか否か

― 実際に多くの企業の女性活用についてご存じだと思いますが、成功している企業の特徴は?

何より、社長の本気度だと思います。社長自身が、女性活用を我が事として考え、主体的にパッションを持って取り組めるかどうかにかかっています。女性活用を担う推進室長がどんなに優秀で一生懸命頑張ったとしても、トップが「ああ、そういうものもあったらいいよね」程度の覚悟だと、決して社内に浸透していきません。トップが本気で取り組んでいて、推進室がそれを必死に追いかけていくくらいの勢いがある会社が成功しています。

― 内海さんご自身も社長でしたが、そのとき女性活用にはどのように取り組まれましたか?

女性登用が進んでいるかは常に意識してチェックしていました。あるとき、昇進推薦に当然上がってくるだろうと思っていた女性の名前が上がってこなかったことがあります。担当者に聞くと、彼女自身が「管理職になりたくない」と言っていると。理由を聞くとわからない、と言うんですね。そこで、「すぐに聞いてきなさい」と指示しました。よくよく聞いてみると、「自信がない」とか「子供がいるから、急な呼び出しに対応できない可能性があって、皆に迷惑をかけるから」など、なりたい気持ちはあるけれど踏み出せない、ということでした。こうして話をしてみれば一歩前進するところを、さらっと流してしまうことは少なくないのではないでしょうか。

私の日本電気時代の同期で、能力もやる気もあって、二人の子供の子育ても様々な人の協力を得ながらクリアして、頑張って働いていた女性がいました。しかし、彼女は結局会社を去ってしまいます。理由は、「会社に女性を使う気がないことがわかったから」というものでした。どんなに頑張っても、プロジェクトに選抜されるのは自分が教えてきた後輩の男性社員で、自分ではないと。今考えると、もしかすると彼女の上司は、子供がいるから大変だろうと勝手に気を使って、責任の重い仕事を敢えて与えないようにしてしまっていたのかもしれません。上司が一歩踏み込んで話を聞いていたら、違った結果になっていただろうと思います。

女性の場合、同性のロールモデルがほとんどいないために、次のステップが想像できず、ロールモデルが豊富な男性なら感じないような不安を抱えていることもあります。ですから、上司や人事、推進室などの部門が、意識をして積極的にコミュニケーションを取っていくことが重要なポイントだと思います。

また、能力も意欲もあるのに、機会が与えられないために実績を示すことが難しく、自信を持ちにくい環境にいる女性も少なくありません。実績が不十分だからと最初から排除されてしまわないように、女性に特化した研修や勉強会などのポジティブアクションを実施することも有効です。

― 今、女性管理職を増やすために外部から人材を採用する動きも出ています。その点についてはどうお考えになりますか。

理想を言えば、その会社で育った人を管理職、特に執行役員・取締役にまで登用していくのがいいと考えています。その会社での女性活用のあり方を作り上げていけますし、何より実際にそこで働いている女性たちの励みになります。大手企業では、執行役員・取締役の手前まで昇進する女性は増えてきました。しかし、さらにその上に進むのはまだまだ難しいようです。一方で社外取締役に女性を迎えて、経営に女性視点が入っていることをアピールするようなケースも見受けられます。女性が経営層に入ることは重要なことですが、できることならば外からではなく内部から登用するのが望ましいですね。とにかくプロパー社員での成功事例を作るという意欲を持ち続けていただきたいと思います。

― 最後に、企業で働く女性にアドバイスをお願いします。

自信を持ってチャレンジしてください、ということです。仕事に関して、遠慮したり、謙虚になることが美徳だとは思わないことです。自分から積極的に動く、という覚悟も必要です。家庭や子育てのことを考えると不安になるでしょうし、気持ちが弱くなることもあるでしょう。でも、くよくよ考えていても何も変わりません。少し楽観的なくらいに構えて、挑戦していってください。必ずどこかで道は開けると思います。

― 本日はどうもありがとうございました。



取材・文 大島由起子(当研究室管理人)/取材協力:楠田祐(戦略的人材マネジメント研究所)

(2013年8月)

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