HR Fundamentals : 人材組織研究室インタビュー

第22回 グローバル化の問題は、日本だけが直面しているわけではない

第22回 グローバル化の問題は、日本だけが直面しているわけではない

株式会社シー・シー・コンサルティング代表取役社長 リチャード・バイサウス氏

今回は、13年前に外資系転職サイト「キャリアクロス」を立ち上げ、英語を生かして働きたい日本人や日本で働きたい外国人と、そうした人材を採用したい企業の橋渡しをしてきたリチャード・バイサウス氏に、日本の国際化、グローバル化についてお話を伺います。


リチャード・バイサウス氏  プロフィール

1965年イギリス生まれ。’81年学校を中退して放浪の旅へ。’87年ロンドンで洋服店に就職。’90年に来日、日本人女性と結婚し、一度ロンドンに戻るが’96年再び日本へ。旅行代理店、人材業界を経て、外資系人材紹介会社が日本支店を立ち上げるために日本代表としてヘッドハントされる。その後、2000年に外資系転職サイト「キャリアクロス」を立ち上げ、今日では日本最大級のバイリンガル転職サイトとして、その地位を確立した。また昨年2012年には、キャリアクロスのアジア版、キャリアクロスアジアを立ち上げ、日本人バイリンガルだけでなく2ヶ国語(英語+現地語)が使える現地ローカル人材も含めた人材と企業のマッチングをサポートしている。


グローバル化の問題は、日本だけが直面しているわけではない

大島: 現在、多くの企業がグローバル化に取り組み始めていますが、必ずしも思うように進んでいないのが現状のようです。バイサウスさんからご覧になって、どのあたりが問題だと思われますか?

【バイサウス氏】 今、日本企業ではグローバル化が課題となっていますが、これは日本企業だけが直面している一方通行の問題ではありません。西欧の企業も日本に入ってきたときには、自分たちのやり方がそのままでは通用しないという、同様の問題にぶつかっているのです。日本だけがグローバル化に苦労しているという劣等感を必要以上に持つ必要はないと思います。英国企業はイギリスのやり方を、米国企業はアメリカのやり方を持っている。そこに摩擦がないわけではありません。日本企業も、自分たちがやっていることにもう少し自信を持っていいのではないでしょうか。

大島: ただ私たち日本人の目から見ると、欧米発の多くの企業がグローバル化に成功しているように映ります。

【バイサウス氏】 私たちが目にしているのは、課題を乗り越えて成功した企業です。それはあくまで一部で、その裏で失敗した企業が沢山あるのも事実です。最初に日本やってきたとき、自分たちのやり方をそのまま押しつけてしまう欧米企業は少なくありません。彼らのやり方での成功体験がありますから、最初から日本のマーケットに合わせて変えていこうとは考えにくいのでしょう。しかし、それがうまくいかないとわかったとき、日本のやり方に合わせる努力を始め、現地に根づいていくのです。

私が関わったある米国企業は、シンガポールでうまくいったことが、アジアの他の国でもうまくいくと考えていました。さすがに中国は少し違うと思ったようですが、日本を含めその他のアジアの国をひとくくりに捉えていたのです。

しかし、ご存じのようにシンガポールはキリスト教の価値観が浸透しており、西欧との関係の長い、国際化の進んだ国です。そこでの成功事例が、そのまま日本でうまくいくとは限りません。日本には独自の価値観があり、独自の宗教観がある。日本では宗教観が希薄だと思うかもしれませんが、子供のころから言われてきた善悪の判断には、仏教や神道といった身近にあった宗教の影響が入っているものです。そしてそれはビジネスのやり方にも影響を与えています。このあたりが欧米の企業にはわかりにくいのです。

別の米国企業の日本支社ではこんなことがありました。日本支社長(米国人)が営業部門で是非採用したいと思った日本人を、最終面接として本社の副社長に会わせました。するとその副社長は、ひとつの質問に的確に答えられなかったことを理由に、採用は見送るという判断を下したのです。

それは純粋に英語力の問題でした。彼は英語がまったくできないわけではありませんが、副社長からの質問のひとつに答えることができなかった。しかし、彼は日本市場の営業を担当するのであり、他社からも多数オファーを得ている優秀な人物だったのです。それでも、副社長は「彼は信用できない」の一点張りで、採用は流れてしまいました。自分が見ている世界がすべてで、そこでの判断だけが正しいと思うことは危険だという例だと思います。

これから日本企業も外に出ていくわけですが、こうした失敗に陥らないようにする必要があると思いますね。

もちろん、日本に進出し、大きな成功を収めている米国企業も知っています。彼らは最初から日本では物事がどう進められているのかをつぶさに観察し、理解しようと努力しました。そのうえで、アメリカで成果を上げている方法をどのように日本のシステムに組み込んでいくのかに真剣に取り組んでいった。その結果、その企業は日本市場で大きく成長していきました。

大島: 成功した欧米企業を見て日本はグローバル化に遅れている、うまくできないと委縮してしまなわないで、その背後にある先人たちの失敗例から冷静に学ぶ、という視点が大事だということですね。


日本人が意識して努力した方がいいこと  Why?の疑問にしっかりと応える

大島: バイサウスさんは、起業前に日本企業での就労経験もお持ちです。そこでの経験から、外国人従業員を採用し、生かしていくために必要なことについて教えていただけますか?

【バイサウス氏】 私は若い頃日本で、旅行代理店の外国人担当部門で働いたことがあります。メンバーの8割が日本人で、そこは大変「日本的な企業」だったので、驚きました。

まず、ロンドンから日本に赴任してきての始めての仕事が、ティッシュ配りでした。4年もマネジメントの仕事をした後に、です。自国では考えられないことです。

その後、週末に研修がありました。その研修では長時間走らされたり、正座をさせられたり、大声で叫んだり、夜遅くまで起きていることを強要されたり・・・それは恐ろしいものでした。私からすれば研修と呼べるものではありません。

また、契約上は9時半が始業であるものの、不文律で8時には出社していなければなりませんでした。そして、上から言われたことはとにかくやる。質問は許されない、と。

しかも、何故そうした仕事や研修、労働習慣を受け入れる必要があるのか、説明はありませんでした。これらの例に限らず、ほとんどのことに対して説明がない。しかも、オフィスでは大抵のことが日本語で話されています。もちろん、ある程度の日本語は理解できましたが、正直半分くらいはよくわかりませんでした。

そのとき日本人女性と結婚していましたし、日本のことが好きでしたから、どうにか耐えましたが、普通の外国人だったらとっくに逃げ出していたでしょうね。自分たちの経験や知識が生かせる環境ではまったくありませんでしたから。とにかく、ショックの連続でした。

今は、ここまで極端な企業は少なくなっているでしょうが、構造的には同じというケースはまだまだあるのではないでしょうか?

もし、あなたが外国人と一緒に働くことがあったら、まず彼らは日本のやり方を理解してないという前提に立った方がいいでしょう。「普通、わかっているよね」と思うことも、きちっと説明する。ただ、何故日本人があまり丁寧に説明をしないかというと、正面から説明すると議論を始められるのではないか、という恐怖があるのではないか、とも思うときがあります。それは是非乗り越えてください。

大島: 確かに、そもそも日本人の間ではほとんど説明したことがないことに対して、「どうしてですか?」「何でですか?」と突っ込まれてしまったら困るな、と思ってしまうかもしれませんね。それなら最初から避けてしまう、と。

【バイサウス氏】 それについては、最近、興味深い経験をしました。私はトライアスロンをやるのですが、日本で国際大会が開催されたときのことです。国際大会にはルールがあって、主催者はレース前に必ずブリーフィングを行わなくてはなりません。選手はそれに参加する義務があります。そのとき、英語で行われるブリーフィングがあり、外国人選手は皆そこに参加しました。

そこでは、外国人男性が英語で詳細説明を行い、その後、日本人の方が挨拶をしました。それらが終わったところで、多くの人が質問を始めたのです。何故、そうなっているのか?どうしてそうしなくてはならないのか?と、ルールや決まりに対してWhy, Why, Whyの連続です。その日本人の方は、それに対してとてもショックを受けたようです。日本では、ルールや連合が決めたことに対して、その理由や背景を聞かれることがないのでしょう。しかし、目の前にいる外国人たちが矢継ぎ早に質問をしてくる。まさかそんな風に聞かれると思っていなかったでしょうから、彼はそれらに答えられないのです。そして、最後には「ここは日本です。このあたりで終わりにします」と言って、ブリーフィングを終了してしまいました。

日本では、上から降りてきたものを基本的に受け入れるという文化がありますが、西欧では、Whyが理解できないと納得しない傾向が強いのです。そうした大きな違いがあるということは覚えておく必要があるでしょうね。

ただ、「ここは日本だ」的なアプローチは、何も日本の専売特許ではありません。イギリス人だって、whyに対して答えが見つけられないときには、「ここは英国だから」と言います。そのこと自体は悪いことではない。しかし、相手と自分の違いを理解したり、相手の求めるものに答える努力を最初から放棄して、「ここは日本だから」と逃げてしまっていては国際化、グローバル化は難しいと思います。

優秀な外国人を採用し、活躍させるに、人事部が考えるべきこと

大島: 外国人、特に西欧人と働いていくためには、Whyを明確に説明していく必要があることがわかりました。その他、特に人事として気をつけることはありますか?

【バイサウス氏】 まず、新卒中心の雇用形態については変えていく必要があると思います。長い間多くの日本企業では、新卒で採用された人が定年まで勤め上げること前提としてきました。ですから、ビジネス上、特定の専門性をもった中堅社員を外部から受け入れることが必要になっても、その扱い方が確立していないケースが多いのです。私が最初に日本企業に就職したとき、営業部門から突然経理部に異動といった、専門性を無視した配属が行われているのを見てショックを受けたのを覚えています。

一般的に西欧人の場合、最初に入社した会社に一生勤めていこうとは考えていません。もしその企業が自分の求めるものを与えてくれないと思えば、次の場所を探そうとします。ですから、外国人を採用する際には、彼らが何を望んでいるのか、日本人の延長線上で考えるのではなく、しっかりと把握する必要があるでしょう。

以前人材紹介会社で働いていた時に、外資系銀行から、日本の銀行で働いた経験のある人を紹介してほしいと依頼されたことがあります。そこで、私がロンドンの日系企業で働いていたときに知り合った、当時ロンドン支店で働いていた人たちに連絡を取りました。そして、その人たちの職務経歴書をみてとてもショックを受けました。年金運用部門から人事、営業と異動をしていて、外資系銀行で通用するような特定の専門性をまったく持っていなかったからです。その銀行にいる限りは申し分のないキャリアでしょうが、20年以上金融業界に身を置いていて、外では一切通用しないという事実は大変ショッキングでした。

多くの日本企業で見られるこの状況は、外から専門性のある人を採用するときにも大きな壁になります。長く会社にいたことに価値が置かれているわけですから、中途入社してくる人がどんなに専門性を持っていても、マイナスからのスタートということになってしまう。

グローバル化の問題となると英語力が話題になることが多いようですが、実はこうした雇用プロセスや労働に対する価値観や文化の違いが最大の課題のひとつだと思います。

大島: そうした状況は、こういう見方もできますね。日本企業では専門性を身につけることができない。だから、西欧の人にとって働く場所として魅力的には映らない。

【バイサウス氏】 そうですね。キャリア志向のある西欧人たちは、積極的に挑戦をして、自らを磨いて、より条件のよい職場やポジションに着いていこうと考えていますから。彼らの履歴を見ると、必ず「能力を更に高めていきたい」ということが書いてありますよ。

今、日本の大学に留学している外国人学生を採用しようとする日本企業も増えていると聞いていますが、彼らの多くが最初に就職する企業での経験をスプリングボードにして、より魅力的な環境にステップアップしていきたいと思っていると考えた方がいいでしょうね。積極的に海外に学びにきているような人たちはチャレンジを求めているのです。

日本企業が日本人以外の優秀な社員を採用していこうと思うのであれば、彼らのこうしたキャリアに対する欲求を理解する必要があります。これからの数年間、他のことをするよりも自分の会社で働いた方がいい理由を提示できるか、そこが勝負になると思います。

ただ、私自身は、2〜3年毎に仕事を変えるということに賛成しているわけではありません。シンガポールでは同じポジションに3年以上留まっていると、能力を向上させられていないと見なされてしまうと聞いたことがあります。これはちょっと行きすぎな気がします。ただ、海外では10年以上も同じポジションに留まっているのは挑戦する意欲がないと見なされる、という環境があることは理解しておいた方がいいでしょう。一旦採用した人をとどめておきたいと思うかもしれませんが、彼らが置かれている状況を受け入れて、広い意味でのキャリアアップのチャンスを与えることを考える必要があります。

大島: 人事として大きな意識の転換が必要ですね。

【バイサウス氏】 そうですね。これまでの「人事」の役割も根本的に見直す必要があると思います。欧米の企業の人事部は、明確にビジネスセクションとして捉えられていています。どんなに良い商品やサービスを持っていても、それを売ったり提供する人が優秀でなければ宝の持ち腐れになってしまいますから、人材を確保し育成していく部署は、まさにビジネスの重要な一翼を担っているのです。「自社や自社のポジションを売り込む」という意識と能力がなければ、優秀な人材を惹きつけることはできません。

今はずいぶん変わってきたと思いますが、まだまだ多くの日本企業の人事ではそうした意識が浸透しておらず、事務的な役割に留まっているのではないでしょうか。ビジネスを理解して重要なポジションに優秀な人を採用することで評価されるような仕組みづくりが必要になってくると思います。

大島: 具体的に必要な知識や能力も、これまでとは変わってくるということですね。

【バイサウス氏】 中途で外国人を採用する際には、募集するポジションに対する職務定義が必須です。これを書くことに慣れていない、職務定義ができたとしても送られてきた履歴書とのマッチングに慣れていない日本の人事部は少なくないですね。

ある日本企業が、外国人の求職者が公開している履歴書/職務経歴書を閲覧できるサービスを活用したときのことです。彼らは75人をブックマークしましたが、結局5人にしか連絡をしませんでした。100%いいと思える履歴書/職務経歴書がそれしかなかったからです。しかし、私なら、100%完璧ではなくても、ポテンシャルを感じる人には連絡を取って、知りたい情報を得ると思います。本当にいい人材を採用しようと思ったらそれくらいのフレキシビリティが欲しいところです。そうして重ねた経験が、長い目でみて自社や特定のポジションに合う人を見分ける力になっていきます。これから外国から中途採用しようと考えているのであれば、そのあたりは自覚して取り組んだ方がいいでしょう。

大島: そうした課題を克服していくためには、日本企業の人事部は何から取り組むのがいいのでしょうか。

【バイサウス氏】 まず、人事部がビジネスの中でどのような機能を担っているのか、再定義しなおすところから始めてはどうでしょうか。ビジネスを成功させていくために必要な人材を提供し続けることが求められているとしたら、何をしなくてはならないのか。そのために必要な能力や技術は何なのか、これらをしっかりと理解できれば、自ずと行動が変わってくると思います。

最近日本でも、アメリカのように人事プロフェッショナルの資格検定を行う組織ができてきました。人事の仕事が単にドキュメント処理を行う事務部門ではなく、プロとしてビジネスの一翼を担う部署であり、そこでの仕事をまっとうするためには体系だったトレーニングや資格が必要であるという考え方が定着してきていることは良い傾向だと思います。


異なる文化背景を持つ人たちと働いていくために

大島: 今や、明日から、隣の席に英語を介してしかコミュニケーションができない同僚が来たり、海外で働くことになったりすることが驚くべきことではなくなってきています。そうした環境に入ったときに、成功していくためのヒントがあれば教えてください。

【バイサウス氏】 もし、自分の会社に外国人が入ってきたとしたら、まずは自信を持って接するということが大事だと思います。高慢になるのとは違います。ビジネス経験、そして自分自身に自信を持っていれば、たとえwhyと質問されてその場で答えられないことがあっても、逃げることなく対応ができるはずです。

次に、新しい事や違いに対する柔軟な態度・気持ちだと思います。まずは自分たちの今までの考え方ややり方に対する固執を一旦手放してみる。たとえ受け入れるのに時間がかかるような違いであっても、すぐに心を閉ざしてしまうのではなく、自分なりの受け入れ方ができるような柔軟性です。

そして、わからないことをわからないままにしない積極的な態度も重要です。日本人はとかく、完全に理解できていなくても、「はい、わかりました」と言ってしまいがちです。それでは違いを乗り越えてはいけません。

また、海外で働くことがあるとしたら、出来る限り現地の人と付き合うことが大切になると思います。せっかく日本から離れたのに、支社内の日本人の同僚や現地の日本人たちとだけ付き合っていては、日本では得られないような人脈や情報をみすみすの見逃してしまいます。

ただ日本では、自分のグループに新しい人が入ってきたときに、彼らが早く溶け込めるように一生懸命サポートしてくれようとします。しかし、我々西欧人はそこまではしません。もちろん、挨拶をしますし、積極的に排他的な態度を取るわけではありませんが、行動を起こすことが期待されているのは新参者の方です。自分から声を上げて、自分の意志や意見を伝えていく必要があります。

国際化、グローバル化というのは語学の問題ではありません。国際化、グローバル化は、今まで慣れ親しんできたやり方に固執せず、違いや変化を受け入れていく意識の問題です。何かが絶対的にいいとか悪いとかの問題ではありません。柔軟性、積極性を発揮して、対応していってください。

ただ、語学の問題ではないとは言っても、もし十分なビジネス経験があり、そのうえで語学力があれば、多くのドアを開けることができますし、その先に大きな可能性が拡がっているのも事実です。このあたりのバランスを理解して、多くの日本人にグローバルの舞台で活躍してほしいと思います。

大島: 本日はどうもありがとうございました。

株式会社シー・シー・コンサルティングが運営するサイト:キャアクロスキャリアクロスアジア


取材・文 大島由起子(当研究室管理人) 

2012年11


バックナンバー

破壊と創造の人事

無料メール講座

イベント・セミナー一覧一覧

気になるセミナー・イベント、研究室管理者が主催するセミナー・イベントを紹介します。

スペシャル企画一覧一覧

特別インタビュー、特別取材などを紹介します。

ご意見・お問い合わせ

Rosic
人材データの「一元化」「可視化」
「活用」を実現する
Rosic人材マネジメントシリーズ