HR Fundamentals : 人材組織研究室インタビュー

第12回 「グローバルビジネスリーダー」をスピード感をもって育てることがグローバル化成功の鍵

第12回 「グローバルビジネスリーダー」をスピード感をもって育てることがグローバル化成功の鍵

早稲田大学大学院 商学研究科 (早稲田ビジネススクール) 大滝 令嗣 教授

今回は、日本企業のグローバル化を組織・人事面からサポートする業務に長年従事してきた、大滝令嗣教授にお話を伺いました。


大滝 令嗣 教授  プロフィール

東北大学 工学部 応用物理学科卒。 米University of California San Diego(UCSD)電子工学科 応用物理学専攻で博士課程修了。東芝半導体技術研究所の研究者として活躍の後、米系コンサルティング会社に転職。1988年にマーサー・ジャパンに取締役として入社、2000年に代表取締役会長およびアジア代表に就任。その後、マーサージャパン(株)の代表取締役社長、会長及びアジア代表などを歴任後、(株)ヘイコンサルティンググループの代表取締役としてアジア代表を務める。シンガポールに7年半赴任。シンガポール経済開発庁(EDB)の元ボードメンバー。 2008年、エーオン コンサルティングジャパン株式会社の代表取締役社長に就任。現在は会長職だけではなく、早稲田大学ビジネススクール教授として「グローバルビジネスリーダーの育成と活用」、「サービスマネジメント」の分野で教鞭をとる。また、シンガポール南洋理工大学−早稲田大学ダブルMBAプログラムにおいては 「Service Management for Technology Companies」を担当。主な著書:『理系思考 エンジニアだからできること』(ランダムハウス講談社)。

「日本人海外赴任者」と「現地スタッフ」とは異なる「グローバルビジネスリーダー」という存在

― 今、「グローバル化に対応できる社員をどう育てていくか」、そして「現地社員(ナショナルスタッフ)をどう活用していくか」というテーマに取り組む日本企業が増えていると思います。その辺りの動きをどうご覧になっていますか?

まず、今のビジネスのスピード感に対して、既存の日本社員を育てていて間に合うのか、という問題があります。また、「現地法人のナショナルスタッフをどう扱うか」という、既存の世界の延長線上での発想では、これからの国際競争を乗り切っていけません。もっと全体を俯瞰した視点が必要だと思います。

具体的に言えば、これからは「グローバルビジネスリーダー(GBL)」という考え方を取り入れていくことが重要だと考えています。

― グローバルビジネスリーダー(GBL)とは、これまでの「日本人海外赴任者」や「現地スタッフ」とは異なる人材カテゴリになるのですか?

まったく異なりますね。GBLの定義を明確にするために、まず、現在の日本人海外赴任者の特徴を整理してみましょう。

日本人海外赴任者の特徴は以下のようなものになります。

・ 本社のメッセンジャー

・ 外交官役、連絡役、調整役、指南役

・ 人事ローテーションの一環としての赴任

・ 海外赴任の専門家(キャリア的に本流を外れた) 又は 本社のトレイニー (教育としての赴任)

・ 海外の「日本村」内でビジネスをする人材

・ ナショナルスタッフから、Seagull(かめも)と呼ばれる人材 (Seagull=勝手に飛んできて、勝手にフンをして、汚したまま帰っていく輩)

海外での売り上げ比率が高い企業でも、このような海外赴任者がほとんどではないでしょうか。

例えば、これまでの商社は、海外拠点の「日本村」の中で完結する仕事がメインでした。ですから、現地スタッフの育成とか、現地ビジネスとの関係といったことをあまり考えなくても、ビジネスが成立していました。

メーカーは、技術の優位性がありましたから、赴任者が日本にあるマザー工場の方を向いて、そこからの指示をそのまま現地に伝えていれば役割が果たせました。もしくは、日本の技術を出先の国に渡す、という「一方通行」の関係でよかった。

つまり彼らは、本社のメッセンジャー役や指南役ができれば、それで問題がなかったわけです。

しかし、こうした形での海外進出の問題点は、ビジネスの活動が「点」でしかない、ということです。多くの場合、その「点」が線で結ばれている先はあくまで本国・本社。同地域の他拠点や現地アライアンス企業と直接つながり、その延長戦上で面の展開をしていくことができる体制にありません。これでは、大きく変化する市場に対応し続けていくことは困難です。

GBLというのは、こうした「点」の展開を脱却して、各拠点で「点」だった活動を、線でつなぎ、面で展開していくために必要な資質と能力を持った人たちを指します。こうした資質・能力は、日本人海外赴任者の特徴とは大きく異なります。海外に本社から赴任したから、無条件にGBLになれるというわけではない、ということを理解する必要があります。

GBLの役割を理解するために、企業の海外進出の形を、世界統一性とローカル市場対応力の高低のマトリックスで整理し、そこに存在する/求められる人材を考えてみましょう。

■インターナショナル企業: ローカル市場対応力/低 世界的統一性/低 本社の指示を中心に各国の支社が動いているが、支社間の連携・統一性が低い企業

■マルチナショナル企業: ローカル市場対応力/高 世界的統一性/低 各国支社の現地化が進み、それぞれがほぼ独立した戦略でビジネスを行っており、本社はあまり影響力を持っていない企業

■グローバル企業: ローカル市場性/低 世界的統一性/高 本社の力が強く、その指示によって各国の支社が動いているが、各国支社間の連携・統一性は高い企業

■トランスナショナル企業: ローカル市場性/高 世界的統一性/高 本社の力が強く、全体戦略、理念・オペレーション等の世界統一性は高いが、同時に各国支社に一定の権限移譲がなされ、個別戦略を立てて柔軟に動ける企業

現在、ほとんどの日本企業が、インターナショナル企業・マルチナショナル企業のカテゴリにいると思います。

「インターナショナル企業」型の企業では、何を決定するにも、すべての情報をまず本社に集めてから、ディシジョンメーキングするという形のオペレーションが行われがちです。しかしこれでは今のビジネスのスピード感についていけませんし、現地の市場を深く理解した上での決断はできないでしょう。

また、「マルチナショナル企業」型の企業では、「点」のオペレーションが強いために、競争優位を生み出すために、複数拠点が連携することでのスケールメリットを出すなど、一国での点の戦略から、国境をも越えた面の戦略を立て、実行するのが困難です。

「海外に拠点がある=グローバル企業」ではありません。グローバルで動いていくメリットを出すためには、一定の世界的統一性を確保することが必要です。そのためには、自らがグロ―バル化の下で戦略的ミッションを背負って動き、同時に現地の社員に企業の理念を伝えられるリーダー、GBLが必要となってくるのです。

― そうしたGBLとは、具体的にどのような人材なのでしょうか?

GBLは、以下のように定義できると考えています。

・ 戦略的ミッションを背負っている人材

・ 企業の「xxxウェイ」「○○イズム」を伝えることができる人材

・ 本社のグローバル戦略策定・実行に関わる経営者人材

・ 現地スタッフから尊敬され、リーダーとして認められる存在

・ 本社トップが目を配り、育成する人材

・ エンプロイアビリティが高い人材(結果的に)

欧米の、グローバルで成功している企業をみると、3〜4万人規模の製造業ならこうしたGBLが最低でも200〜300人程度います。そして、本社のトップ自らが、彼らに目を配っています。

つまり、トップの目にかなうようなレベルの人材が、そのくらいの割合は必要だということです。そういう人たちを、日本企業は早急に育てていく必要がある。これは今までまったく手をつけていなかった分野ですから、人材育成の中での大きなパラダイムシフトが起こっていると認識した方がよいでしょう。

更に、欧米では既に「グローバル企業」から、「トランスナショナル企業」(世界的統一性も高く、ローカル市場対応力も高い)を目指す企業が出てきています。

グロ―バル企業におけるGBLは、本社出身者がほとんどを占める傾向が強くありました。しかし、トランスナショナル企業になると、ローカル市場への対応力強化のために、GBLの下で戦略的に働くローカルリーダーの存在も重要になります。同時に、GBLのローカルに対する理解度も高いレベルで要求される。

そうなると、GBLは必ずしも本社出身である必要はなく、ローカルリーダーとして活躍した人材をGBLに抜擢し、一定期間GBLで経験を積んだ後、またローカルリーダーとして、世界統一とローカルビジネスの橋渡し役になっていく。そのようなキャリアパスも生まれています。

日本人を育てるよりも、外国人をGBLに育てていく方が現実的

― 具体的に、GBLに求められる要件があるのでしょうか?

各国のナショナルスタッフからみた、理想のリーダーの条件を、いろいろな国で調査しました。興味深いことに、国境を越えて、ほぼ同じ結果が出ています。

・ 人間として尊敬できる人

・ ナショナルスタッフを尊重する人

・ ナショナルスタッフと打ち解けることができる人

・ その人から何かを学ぶことができる人

・ コミュニケーションが上手な人

・ 公平な人

・ 赴任国の歴史、文化、生活に興味を持つ人

・ 海外で生活したことのある人

・ はっきりと方針や指示が出せる人

・ ほめてくれる人

これは、いくつか当てはまればいい、というものではありません。逆に、ひとつでも満たさなければリーダーとは呼べない、という必要条件だと考えています。読んでみていただくとわかるように、これらはビジネス以前の、人としての在り方、ですよね。リーダーだから必要というよりは、ビジネスパーソンとして求めたい資質でもある。GBLになるためには、上の条件を満たすよいリーダーである必要があります。そのうえで、ビジネスの能力の質が十分条件として求められる、ということです。

― 最初に、「日本人を育てていて間に合うのか、という問題がある」と指摘されていましたが。

日本の多くの企業が、今、インターナショナル企業/マルチナショナル企業から、グローバル企業、更にはトランスナショナル企業への移行を迫られていると思うのですが、こうしたGBL人材が本社で見つからない、育っていないという問題に直面しています。

最近では、日本の企業に勤める20代・30代を中心に、海外に出たくないとう人が増えています。その結果、一回海外に出ることを受け入れた人は、海外の様々な拠点を転々と回る「赴任のプロ」のようになってしまう、という状況が出てきています。

多くの国を経験することは悪くないのでは?と考えるかもしれませんが、大抵の場合が、キャリアプランに基づいた戦略的な配置ではなくて、空ポストに適任者がいないからという理由の異動・転勤。こうした受身の発想の環境からGBLが育つとは思えません。また、そうした状況を見て、ますます若い人の「海外に出てみたい!」という意欲を削ぐことにもつながっていると思います。結果として、GBL人材のプールが枯渇していっているのが現状でしょう。

− そんな状況下で、今から日本人を育てるのには時間がかかるということですか。

正直、そう言わざるをえないと思います。その大きな問題のひとつに「語学」の問題は確実にあります。しかし、それだけではなく、「違う価値観の人たちと仕事を進めていく。コミュニティーを作り上げていく。」ということに慣れてない、学んできていないという点も、非常に大きな要素のひとつだと思っています。これは一朝一夕に身につくものではありません。

また残念なことに、日本企業の駐在員の中には、海外に出た解放感からか、夜の街で遊んで、そこでの領収書を会社の経費で落としたりする。経理などはナショナルスタッフが担当していますから、そういう部分を見て、「昼間は会社で偉そうなことを言っているけれど、外ではこんなことをしているんだ」と、尊敬されなくなるわけです。上記の一番目「人間として尊敬できる人」の項目に、いきなり×がついてしまう。このようなメンタルな教育も合わせて必要となると、更に時間がかかるのではないでしょうか。

「日本人はGBLになれない」と言っているわけではありませんが、そちらは採用・育成含めて長期的な視野で取り組んでいく必要があると思います。

そのような現状の下で、今目の前にある火急のニーズに応えていくには、外国人の活用が現実的です。現地法人の優秀な社員に適切な機会を与えて、GBLに育て上げ、世界的統一性の向上をどれだけのスピード感を持って進めることができるのか。これからグローバル化・トランスナショナル化を目指す企業にとっては勝負どころになってくると考えています。

具体的なニーズをベースに、研修に要素を詰め込みすぎず、社内を巻き込む

− 外国人社員を、GBLに育てていくためのポイントがあるのでしょうか?

成功のポイントは5つあると思っています。

(1) ニーズベースであること

(2) 育成すべき要素を確定すること

(3) 2年程度のプロジェクトにすること

(4) 社内リソースをフル活用すること

(5) ローカル・リージョンに丸投げしないこと

それぞれ、簡単に説明しましょう。

(1) ニーズベースであること。

具体的なニーズや、育成後に活躍できる場を与える仕組みなどを持たないままに育成をしてしまうと、単に「寝た子を起こす」だけに終わってしまい、せっかく育った人材が流出してしまうことになります。GBLとして活躍できるだけの力を持っていれば、エンプロイアビリティは高いですから、社外でポジションを見つけるのは難しくありません。「育成」と「活躍の場」は両輪として揃っている必要があります。

(2) 育成すべき要素を確定すること

多くを望むあまり、「あれもこれも」と詰込み型の育成プログラムにしないことが大事です。GBL育成のプログラムのモジュールとしては、

1. 社内ネットワーキング

2. ミニMBA

3. 経営理念の学習

4. 自社戦略の理解

5. アクションラーニング

6. リーダーシップ開発

が考えられますが、こうした要素を短期間で全部詰め込もうとしないこと。私がお手伝いした例でうまくいったと思えた企業の研修は、5日間の研修に、このなかの3つだけを入れています。

同じくらいの期間に全ての要素を詰め込んでしまうと何が起こると思いますか。自分の職場に帰ったときには何を学んだか、参加者はほとんど覚えていないのです。そういう研修の事後アンケートの感想には、「各国の同僚とネットワークができて良かった」が並ぶことになります。結局は、行動を変えるような学びをできていない、ということです。

(3) 2年程度のプロジェクトにすること

1週間程度の集合研修だけですべてが達成されるとは思わないことです。コンファレンスコールやe-Learningなども活用しながら、事前準備、集合研修、事後整理といったサイクルを、一定の期間をおいて回していくことが理想的でしょう。できれば、同じ人、同じ組で、2年くらいのスパンで考えるのがいいと思います。

(4)リソースをフル活用すること

GBL育成プロセスを、一部の人だけのクローズドなものにしないことです。せっかく本社に集まってきているのですから、各部署から社内講師を招聘したり、顧客に対するアクティビティに参加させたりすることを考えるべきでしょう。また、研修参加者に、自国でのビジネス事情などのプレゼンテーションをする機会を与えて、参加者以外の本社社員にも公開し、情報交換かつ交流の場にしている企業もあります。

このように社内リソースをフル活用することで、「研修参加者の枠を超えた社内ネットワーキングが広まる」「本社スタッフと海外情報が共有できる」「帰属意識、愛社精神が高まる」「顧客意識が高まる」といった効用が期待できます。

(5)カル・リージョンに丸投げしないこと

こうした研修は基本的に英語でハンドリングすることになります。残念ながら、それに苦労する日本企業の人事担当者は少なくありません。幹部研修くらいまでは外部のベンダーを使いながらどうにか日本本社で行うのですが、その下の階層の研修になってくると、シンガポールでやってほしいとか、ヨーロッパでやってほしいとか、アメリカでやってほしいといった要望が出てくる。すると、「そうですか」とポンと丸投げしてしまうケースが結構見受けられます。その時は楽かもしれませんが、GBLを育てる中で世界的に一本の筋が通っていることが大事なのですから、やはり、本社が絶対に口出しをできる状態で研修が行われるべきでしょう。

違う価値観を持った人たちと仕事をしていける能力を身につけることが第一歩

− 今までは、外国人をいかに自社のGBLに育てていくか、というお話でしたが、日本人社員へのアドバイスなどもあれば、教えてください。

世界の市場の勢力図が大きく変化してきて、松竹梅の「松」を作っていれば売れた時代ではなくなっています。「松」を作り続けてきた日本のマザー工場の威光は絶対的ではなくなってきていて、その代わりに「世界」という視点からディシジョンメーキングをしていくことが求められています。ですから、徐々に本社機能が日本にある必要もなくなってきているのです。

それでも、もし、日本人でGBLの役割を担える人が潤沢にいたとすれば、敢えて本社を国外に移転する必要もないでしょう。しかし、残念ながら先ほどお話したように、今GBLは外国人を育てなければ間に合わない状態です。その上、生産現場は日本外に散らばっている、市場は世界である、となれば、日本に本社を残すモチベーションがどんどん下がっていく。実際、既に、本社機能を海外に移転する計画を立てている大手企業も出てきています。

日本企業で働いている人たちは、その現状をよく知って、もっと危機感を持った方がいいと思いますね。これからは、日本企業であってもどんどん日本人向けのポジションが減って、大学や大学院を出ても仕事がないという時代がくる可能性が高い。先ほど挙げた、ナショナルスタッフが求めるGBLの条件や、語学、そして「違う価値観を持った人たちと仕事を進めていく。コミュニティーを作り上げていく能力を身につける努力をしていく必要があるのではないでしょうか。

― 日本企業が取り組まなくてはならないグローバル化というのは、世界に受け入れられるものづくりをすること、そして、輸出を増やす、海外売上高比率を上げるということだと考えていました。しかし、その前提として、ビジネスのグローバル化・トランスナショナル化を担うことができる人材を育成することが、もっと重要だということなのですね。大変勉強になりました。本日はどうもありがとうございました。

取材・文 大島由起子(当研究室管理人) /取材協力: 楠田祐 (戦略的人材マネジメント研究所)
(2010年7月)

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